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ドアが開き、みゆきが戻ってきた。「帰ろう」と彼女は言った。
従業員の気まずそうな微笑みをあとに、僕はスツールから腰を滑らせ、会計を済ませたみゆきのあとに続いた。
時計は夜中の一時半をまわっていた。
雨はすっかり上がり、ひんやりとした夜気が火照った肌を撫でた。二丁目の交差点脇でタクシーを拾い、僕たちは再び歌舞伎町へと戻っていった。
タクシーを降りた僕たちは、一番街から新宿コマ劇場へ続く通りをあてもなく歩いていた。
映画の看板を見上げながら歩いていると、背後から声がかかる。
「ねえ」
振り向いた僕に、みゆきは「なんかお腹へらない?」と言った。
だが、コマ劇場の脇にあるロッテリアのシャッターは下りていた。
「もう閉まってるよ」と告げると、みゆきは道の真ん中で立ち尽くし、眉をひそめて僕を直視した。
「は?」と呆れたような声を漏らし、しばし絶句している。その顔がおかしくて思わず吹き出すと、彼女は念を押すように言った。
「お腹が減っちゃったよ」
深夜の二時にちゃんとした焼肉屋へ行くなんて発想は、僕の頭には端からなかった。
でも、この街で生きるホストや風俗嬢たちにとっては日常なのだろうな。みゆきに連れられるまま入った店がどこだったのか、今となっては思い出せない。覚えているのは、歌舞伎町の喧騒から少し離れた、ちゃんとした焼肉屋だったということだけだ。
案の定、店内に客は僕たちしかいなかった。
今思えば、夜中に焼肉を食べること自体、それほど珍しいことではなかったのかもしれない。けれど、深夜二時にちゃんとした焼肉屋のテーブルについて食事をしたのは、後にも先にも、あの一度きりだった。




