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タクシーは、ネオンと車のヘッドライトが路面に映る靖国通りを、伊勢丹方面に向かって走っていた。新宿ピカデリーを横目に見ながら進むと、左手のビルに「東京大飯店」の赤い文字が鮮やかに浮かんでいた。そのまま明治通りを突っ切り、新宿二丁目に差しかかったところで、みゆきが「この辺でいいです」と言い、料金を払って降りた。
霧雨はまだ降っていて、通行人はほとんどいなかった。人影の少ない小さな交差点を抜け、雑多な店が並ぶ歩道を歩いていく。みゆきは街角のビルの一階にある扉を開けて店に入った。僕もそのあとに続いた。そこは、何の変哲もないゲイバーだった。
カウンターには男性従業員が一人いて、テレビモニターに向かい合っていた。こちらに気づくと、「みゆき、いらっしゃい!」と声をかけた。
天井近くに設置されたテレビモニターには、松田聖子のミュージックビデオが流れていた。僕はみゆきと並んで、カウンターのスツールに腰を下ろし、ビールを頼んだ。
ビールを飲みながら、みゆきは店員と世間話をしていた。そこへ、買い物から戻ってきたもう一人の男性従業員がカウンターにやってきた。
「あら、みゆき、来てたのね」
そう言ってから、彼は僕を見て尋ねた。
「この方は?」
みゆきは店でもみゆきと呼ばれていた。きっと本名なのだろう。
二人の従業員は、興味津々といった様子で僕たちに尋ねた。
「みゆきのいとこ?」
「違うわよ。みゆきのマンションの下に車でパンを売りに来る人よ、ねえ?」
「パン屋がマンションの下に来るの? 魚屋なら見たことあるけど」
「あら、知らないの? 最近、メロンパンの移動販売があるのよ」
「まさか」
「何よ?」
「友達?」
「嫌だ、私、今、彼氏って言うのかと思ったわ」
僕は次のひと口で、ちょっとむせた。
「彼氏なわけないじゃない。どう見たって……ジャムおじさんのパン工場で働いている人よ、ねえ?」
「だから言ってるじゃない、パン屋だって」
僕とみゆきは顔を見合わせ、こらえきれずに笑った。




