↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/24

12

タクシーは、ネオンと車のヘッドライトが路面に映る靖国通りを、伊勢丹方面に向かって走っていた。新宿ピカデリーを横目に見ながら進むと、左手のビルに「東京大飯店」の赤い文字が鮮やかに浮かんでいた。そのまま明治通りを突っ切り、新宿二丁目に差しかかったところで、みゆきが「この辺でいいです」と言い、料金を払って降りた。


霧雨はまだ降っていて、通行人はほとんどいなかった。人影の少ない小さな交差点を抜け、雑多な店が並ぶ歩道を歩いていく。みゆきは街角のビルの一階にある扉を開けて店に入った。僕もそのあとに続いた。そこは、何の変哲もないゲイバーだった。


カウンターには男性従業員が一人いて、テレビモニターに向かい合っていた。こちらに気づくと、「みゆき、いらっしゃい!」と声をかけた。


天井近くに設置されたテレビモニターには、松田聖子のミュージックビデオが流れていた。僕はみゆきと並んで、カウンターのスツールに腰を下ろし、ビールを頼んだ。


ビールを飲みながら、みゆきは店員と世間話をしていた。そこへ、買い物から戻ってきたもう一人の男性従業員がカウンターにやってきた。


「あら、みゆき、来てたのね」


そう言ってから、彼は僕を見て尋ねた。


「この方は?」


みゆきは店でもみゆきと呼ばれていた。きっと本名なのだろう。


二人の従業員は、興味津々といった様子で僕たちに尋ねた。


「みゆきのいとこ?」


「違うわよ。みゆきのマンションの下に車でパンを売りに来る人よ、ねえ?」


「パン屋がマンションの下に来るの? 魚屋なら見たことあるけど」


「あら、知らないの? 最近、メロンパンの移動販売があるのよ」


「まさか」


「何よ?」


「友達?」


「嫌だ、私、今、彼氏って言うのかと思ったわ」


僕は次のひと口で、ちょっとむせた。


「彼氏なわけないじゃない。どう見たって……ジャムおじさんのパン工場で働いている人よ、ねえ?」


「だから言ってるじゃない、パン屋だって」


僕とみゆきは顔を見合わせ、こらえきれずに笑った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。