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「しゃぶしゃぶって、どんな感じなの?」と尋ねると、みゆきは言った。
「どんな感じって、食べに行けばわかるでしょう」
高校時代、こんなことがあった。
「大野、しゃぶしゃぶ食ったことある?」
ある日、同級生が聞いてきた。
「今、朝倉からしゃぶしゃぶの話を聞いたんだけどさ」
僕は得意げに答えた。
「あるよ。お前、ないの? やばっ、しゃぶしゃぶも食ったことがないのかよ。嘘だろ?」
その勢いで、「お前みたいな貧乏人は私立の高校に来るな。都立に行け、都立に」と言って、そいつをおちょくって笑った。
そいつは「へえ、しゃぶしゃぶなんて食い物があるんだ。ああ、そう。知らなかった」と言っていた。
でも、そいつの家は母子家庭だった。
あの頃の僕は、そんなことなど気にも留めなかった。
後日、そいつは「昨日、しゃぶしゃぶ食べたよ」と報告しにきた。僕は、どうせお前のかあちゃんがスーパーで買ってきた安い豚肉でしゃぶしゃぶをしたんだろう、と意地悪くからかい、また笑った。
そんなことを思い出しながら、僕はみゆきに尋ねた。
「しゃぶしゃぶって、一人で食べに行っても平気なのかな? 寂しくないかな?」
「誰か誘って行けばいいじゃない」
みゆきは、あっさり答えた。
僕はうつむき、声を落とした。「いないよ。一緒にしゃぶしゃぶ食べに行ってくれる人なんて、いないよ」
それから、思い切って口を開いた。
「ねえ、今度一緒に食べに行こうよ。連れてってよ」
すると、みゆきは少し考えてから言った。
「明日……いや、明日は無理だから、日曜日に食べに行く?」
僕は驚いて顔を上げた。
「日曜日?」
まさか、みゆきと一緒にしゃぶしゃぶを食べに行けるなんて、夢にも思っていなかった。
ただ、その一方で、早くもいくらかかるのか心配になってきた。みゆきにご馳走することになるだろうと思ったからだ。




