その4 バンカラ羨望
第一子だった兄は乳児期にも体が弱く、儚くなる危険もあったそうです。
無事に生長しましたが、
「その時に死んでいたら、もう子供はいらないと思っていた」
と父。
私達姉妹が誕生したのは、彼の生命力のおかげです。
そして父は彼を大事にし、幼少期から連れ歩きます。
父の苗場のスキーロッジには、獣医だった父の学生時代の仲間達が毎冬集まりました。
彼等は知的で博識、豪快で、それでいて垢抜けていてユーモアがあり陽気でした。
母も、伯父と伯母も、後の父の会社の方たちも、その仲間達です。
そこへ兄も混ざります。
毎夜の酒宴。そこで兄は言葉と会話を覚えました。
「はじめから、敬語でしゃべっていた」
と仲間達は兄を可愛がります。
兄が大人びるのは自然でした。
毎冬過ごした、ロッジ。
そこは健康に何の憂いもなく、続く未来を疑うこともなく過ごした、楽しい少年の日々がありました。
理想の幸福な美しい世界。
父達の姿はバンカラ精神と重なり、具現化したものだったのかもしれません。
父達を見て『どくとるマンボウ青春記』のバンカラに憧れたのか。
『青春記』のバンカラの中に父達の姿を見たから憧れたのか。
兄が銀座のビアホールで未来を思い、ロッジの風景を連想した時に、
父と仲間達ーバンカラー青春記
という一本の繋がりを感じました。
父にとって兄は、大切な息子であり、ロッジの同志仲間の一人であり、自分と異なり慎重で思慮深さを持つ対等な人間だったように思います。
二人は大人同志だったのかもしれません。
「凄すぎて超えられそうもない」
と兄。
「遥かに超えていった」
と父。
あぁ、とてもかなわない。
大きな大きな存在。
私は
背伸びをして
手を伸ばして
我武者羅に生きていきましょう
また、会えた時、なんて言ってくれるのかしら?
ねぇ、お兄ちゃん。




