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その3 三年生



  夏

 居候生活。

 伯父伯母には本当にお世話になりました。彼が小四の発病時に私達家族で一年近く居候し、正月にも泊めて頂き、そして兄は夏期講習でわざわざ東京まで行ってひと月程の居候。

 私の時は市内の予備校へ。妹は東京へ。伯母宅ではなく学生寮から通いました。きっと東京でしか学べない事もあるのでしょう。


 後半の二週間程は母も泊まり込みます。

 兄や親や伯父伯母の激動の二週間。

 私達姉妹は何も知らずに、淡々とすごしていたのでしょう。全く覚えておりません。



  秋

 兄の体調が悪くなることは日常で、すると家中の空気が重くなるのは当然。皆で兄を大切にし、気遣い、静かにすごします。


 家族は兄を中心に周って、まとまっています。

 博識で、新しい情報は皆、兄から知りました。

 兄は家族の潤滑油で、口数の少ない私の気持ちを皆に代弁してくれます。思考が一番近く、一番の理解者です。

 姉妹で喧嘩はたくさんしましたが、兄とは私はしたことがありません。

 兄は家族の中で特別な存在で、何より全てにおいて彼が優先され、それが自然です。

 兄弟よりも、親のようで、そして親よりも心が近い人でした。

  



  冬

 彼が自分の病気を知り、苦悩しているのも知らず、私達は日常を過ごします。


 病気の愚痴や不安を喚き散らしたり、泣き叫んだり。それらの慟哭や憤懣の行動を彼はとりません。

 私達の前では穏やかでユーモアのある人でした。不気嫌な時は体調が悪いのだろうと思って気にしません。

 そして私達は兄が苦悩を内に秘めた為に、日常を静かにすごせたのです。




  春

 兄が大学に受かり、高校を無事卒業出来て、兄と共に皆が嬉んだのは言うまでもありません。

 親戚、知人からお祝いの言葉や御祝儀が多数届きます。皆、高揚し、多幸感に包まれています。

 

 「体力的に受験は無理だ。不合格になるだろうから無意味だ、可哀想だ」

と父は言っていたそうです。

 「そんな事ない。やる気なのだから挑戦させなさい」

と伯母は強気で。

 伯父の勧めも有り、父は受験を認めたそうです。そして

 「浪人は無理だ、今年一度きりで終り」

と決めていたそうです。


 兄は見事に受験を乗り切り、憧れの大学生になります。


 私は、兄が家を出て一人暮しをする事について不満でした。

 全く家事をしたことがないのに、手を貸せないぐらい遠方へ行くので、大丈夫なのかという不安と心配。

 私もこの家を離れたいという羨望。

 そして家族の中で一番の理解者である、兄がいなくなる事への孤独と置き去り感。家族内で孤立無援な状態になることは分かり切っています。

 そして、自分の気持ちを自分の言葉で伝えなければならない不安。

 

 そんな思いを抱きながらも、兄の合格を喜び、引っ越しの手伝いをし、世話をします。



 私はひっそりと高校受験を終え、誰も心配することもなく、あっさりと合格し、中学

を卒業したのでした。



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