パラレル会議 転生前清明はこはくを好きにならなかったのか?
地獄の庭。珍しく静かな時間だった。
こはくは縁側にいる。転生後清明はその隣。
道満は少し離れて座っていた。
転生前清明は庭を眺めている。風が静かに抜ける。
その時、転生後清明がふと口を開いた。
「……一つ気になっていた」
道満が嫌な顔をする。
「今度は何だ」
転生後清明は転生前清明を見る。真面目な顔。
「何故お前は、こはくを好きにならなかった?」
空気が止まる。転生前清明は瞬きをした。
「好きだが?」
沈黙。転生後清明、固まる。道満も止まる。
こはくだけ静か。
数秒後。
「……は?」
転生後清明が珍しく間の抜けた声を出した。
道満も眉を寄せる。
「おい待て」
転生前清明は普通だった。
「こはくは聡明だ」
「静かで思慮深い」
「他者をよく見ている」
「理不尽に力を振るわない」
「気遣いも細やかだ」
淡々と褒める。止まらない。
「あと空気が穏やかだな」
「隣にいると落ち着く」
「知識も広い」
「話していて退屈しない」
転生後清明、真顔で道満を見る。
道満も真顔。最悪だった。
転生前清明はさらに続ける。
「外見も整っている」
「感情表現は少ないが、反応は分かりやすい方だ」
転生後清明「分かる」
道満「乗るな」
転生前清明は本当に悪気がない。
純粋評価。分析。感想。
それだけだった。
だが転生後清明はだんだん落ち着かなくなる。
「……待て、それだけ好意的に見ていて何故恋愛にならない」
転生前清明は少し考えた。それから静かに答える。
「何故だろうな」
「尊敬に近い」
「安心感もある」
「だが、独占したいとは思わない」
転生後清明、停止。道満、少し安心する。
転生前清明はさらに続けた。
「こはくが誰と話していても気にならない」
「離れていても不安はない」
「触れたいともあまり思わない」
「ただ、無事でいてほしい」
転生後清明は静かに黙る。
違う。確かに違う。
道満もそれが分かった。恋愛感情ではない。
転生後清明のそれとは明確に別物。
転生前清明は不思議そうだった。
「未来の私は違うのか?」
転生後清明、即答。
「全然違う」
「触れたい」
「隣にいたい」
「独占したい」
「伴侶になりたい」
道満「急に重くなるな」
転生前清明は静かに頷く。
「なるほど、確かに別だな」
「未来の私はかなり深刻だ」
「そうだ」
転生後清明は真面目だった。
「こはくが他者へ触れられると嫌だ」
「共に眠りたい」
「帰る場所にしたい」
道満「全部言うな」
転生前清明は少し考える。
それからこはくを見る。静かな白。穏やかな空気。
「……私は、この静けさが好きなのだろうな」
「未来のお前は、静けさごと欲しくなったのか」
転生後清明は小さく息を吐いた。
「ああ、全部欲しくなった」
道満が頭を押さえる。
「重い……」
だが、正直少しだけ安心していた。
転生前清明まで恋愛方向へ来たら終わりだった。
一人で十分面倒なのに、増えたら地獄。
道満が深く息を吐いた、その時。
転生後清明がぽつりと言う。
「……だが素質はあるな」
道満「やめろ」
転生前清明が首を傾げる。
「素質?」
「好きになる才能だ」
「こはくへの評価が高すぎる」
道満「育成するな!!」
転生前清明は本気で分かっていない顔だった。
「そういうものか?」
「そういうものだ」
「お前は入口に立っている」
道満「立たせるな」
こはくは静かにそのやり取りを見ている。否定しない。
転生後清明はそれを見て少し目を細めた。
完全に、(まだ可能性がある)の顔だった。
道満は即座に言う。
「いや、ほっとしたからな私は」
転生後清明「何故だ」
「増えると面倒だからだ!!」
だが少し間を置いてから、道満は低く付け足した。
「……いや、ほっではないが?」
自分でも何を安心しているのか分からなくなっていた。




