第91話 仕事よりも大事な人
仕事が人生の全てだった
金を稼ぐことだけが生きがいだった
金は全てを解決するとは言わないが
大金を稼ぐことで生活が豊かになっていくのは気分がよかった
プライベートの時間なんて必要なかった
仕事をしていない自分に価値なんてないと思っていたから
実際仕事をしていない私は何も面白味もない人間だった
それでも…共に過ごしたいと思える相手が出来た
月に1度のお出かけはつまらないものだった
人を楽しませるスキルは私も迫田さんも全く待ち合わせていなかったからだ
無言の時間も多かった
笑顔でいる時間も少なかった
それでも一緒に居続けた
俺は気づいたんだ
世の中の大半の人達は一緒にいて楽しくて面白くて仕方がないから一緒に過ごしているわけではないと
仕事に疲れて文句を言われながら家族のお出かけにみんな行っているのではないかと
しんどいな辛いなと思うことも多いんじゃないかと
それでもみんな一緒に過ごすんだ
楽しくなくてもつまらなく感じても一緒に過ごすんだ
何のために?
どうして?
答えは簡単だ
同じ時間を過ごすことに価値があるからだ
つまらない時間も時間を経て思い返すと
価値のある貴重な時間になる
意外とみんなお互いに我慢して生きていくことも多いんだ
それでも一緒に過ごすんだ
病める時も健やかな時も共に過ごすことを誓う
それが愛なんだ
迫田さんは俺には愛を教えてくれた
かけがえのない大事な友人だ
本当に大事な…大事な友人なんだ
だから今回の事件は絶対に許すことは出来ない
私のかけがえのない友人である迫田さんが殺されかけたんだ
状況的に死んでもおかしくはなかった
迫田さんを刺した実行犯である斎藤真由美は勿論刑事事件にして徹底的に追い詰めてやる
あまりにも身勝手な動悸で自己中心的すぎる犯行
死刑を求刑したいが、殺人未遂では難しいだろう
必ず無期懲役にしてやる
2度と迫田さんと出会うことがないように
斎藤真由美に薬を売った反社会勢力も潰すことにした
この時代にも何でも屋なような職業はあり
金を積めば危ない橋も渡って反社会勢力を潰してくれた
拓人も被害者であるが、迫田さんを守りきれなかったことは許せない
拓人に迫田さんを任せてやることは出来ない
拓人は迫田さんがいなければ、狂ってしまうから時々会わせてはやるけれど
俺が迫田さんを囲って守らないといけない
もう2度と迫田さんを危険な目に遭わせない
要塞化した迫田さんと拓人さんの新しい家は迫田さんの私物を勝手に拓人が捨てたことにより
迫田さんは大激怒をして家出をして私の家に暫く居候することになった
拓人に任せるのは不安だったので
俺が囲って守ろうと
私の自宅のセキュリティも高性能なものに全部入れ替えた
迫田さんは私の家に来てからはよく寝てることが多かった
本当に疲れていたんだろう
小説を読むこともなく、書くこともなくただただ眠り続けている
まだ事件から3ヶ月しか経っていないんだ
体の傷も心の傷も癒えていないだろう
今日、迫田さんは珍しくソファで座って起きていた
「迫田さん。少しは元気になった?」
「全然。全く。私の大事なヒナ君捨てやがって…生きる気力なくなるわ。本当に酷い。」
「拓人は絶対全て買い揃えてくれるよ。大丈夫さ。」
「買ってくれるまでやる気出ない。」
「迫田さん…右腕の傷とお腹の傷って痕が残っているの?」
「うん。」
「見せてもらうことってできる?」
「いいですけど…」
迫田さんは服を捲って見せてくれた
右腕もお腹も痛々しい傷痕が残っていた
「迫田さんの美しい白い肌にこんな傷痕が残ってしまうなんて…許せない。」
「プールとかは行きにくくなっちゃったな。えぐい傷痕で子供がこわがっちゃうからねぇ。」
「本当に…ごめん。」
「純也さんは何も悪くないじゃないですか。」
「あの日のパーティを主催したのは私だ。私が斎藤真由美を招待した。私の落ち度だ。」
「そんなこと言い出したらみんな罪人になっちゃいますよ。」
「私の責任もある。本当にすまない。謝って済む問題ではないが…」
「悪いのは犯人だけですよ。純也さんは悪くありません。」
「もう2度と迫田さんを危険な目に遭わせないと誓うよ。」
「フフッ。ありがとうございます。」
「拓人と無理して付き合う必要もない。嫌だと思ったらすぐに縁を切って貰って構わない。死なないように私達で監視するから。」
「心配しなくても大丈夫ですよ。私は同情で拓人さんと付き合っているわけではありません。こう見えてちゃんと愛してるんですよ。実は。」
「見えないな。」
「フフッ。小説の次にですけどね。」
「大事なモノを捨てるのに?」
「それは許せませんが。でもまた買い揃えてくれたら許してあげます。」
「甘いな。」
「惚れた弱みです。」
「迫田さんが望むならずっとここに住んでもいいんだよ。私なら迫田さんを守っていける。」
「お気遣いありがとうございます。でももう一度刺されても構わないから私は拓人さんと暮らしたいです。」
「縁起でもないことを言うな。今度こそ死ぬかもしれないぞ?」
「その時は今度こそ好きな人を守って死にたいですね。」
「笑えない。」
「私にも…人を愛することが出来た。仕事だけだった私の人生を変えてくれたのは拓人さんだから。」
「…。」
「純也さんなら私の気持ちわかりますよね?仕事だけの人生を変えてくれた存在がどれほど特別で大事か。」
「わかるよ。だから私は迫田さんに死んで欲しくない。ここで暮らして守らせてほしい。」
「死んでもいいから一緒にいたいと望む人に出会えたことは私達にとっては奇跡だと思いませんか?」
「奇跡だよ。絶対に失いたくない。」
「私も死にたくはありません。自己防衛もちゃんとしますから。私も拓人さんのことを温かく見守ってくれませんか?」
「ハァ…愛は厄介だな。」
「理屈じゃないですからね。でもだから面白いんですよ。昔も今もきっと未来も恋愛小説は人気コンテンツですから。」
「わかった。迫田さんの望むようにするよ。でもその傷痕は消えるように美容外科に通わないか?いくらお金をかけてもいいから。」
「めんどくさいから無理ですね。」




