第89話 逢瀬
自分という人間が嫌いだ
幼い頃から人と関わること苦手だった
容姿が派手なせいでたくさんの人に声をかけられたが
上手く話すことは出来なかった
人の期待に応えることは出来ずに
勝手に失望された
相手も傷つけて
自分も傷つけた
だから私は本の世界にのめり込んだ
誰とも関わらなくても
私の心は満たされた
常に1人でいることが好きだった
誰も私に話しかけないでほしい
誰も私の邪魔をしないで欲しい
孤独でいる世界が心地よかった
お願いだから私を1人にさせて欲しい
誰も私に関わらないで
お願いだから
今日は拓人さんと会う日だ
北条さんが3ヶ月間私を面倒見てきてくれたが
もうそろそろ恋人話し合ってけじめをつけろと怒られてしまったので
拓人と話し合う場を作ってくれた
「事件からもう3ヶ月経ったんだ。体の傷も回復したし、心の傷も癒えただろう?」
「何バカなこと言ってるんですか。たった3ヶ月で体も心も癒えるわけないでしょう?右腕の傷もお腹の傷も心の傷も一生残りますよ。」
「一生残るなら3ヶ月でいいだろ。一生話し合わないつもりか?」
「そのつもりでしたけど。」
「いつまでも逃げていたらダメだぞ。大事な恋人なんだろう?ずっと迫田さんを心配していたんだ。拓人の気持ちもわかるだろう?」
「一生逃げまわりたかったですよ。本当は。でも拓人さんに会うのは北条さんへの恩返しのつもりです。お世話になった北条さんが会えって言うから渋々会うだけにすぎません。」
「今回の顔合わせはより戻せとかまた一緒に暮らせとかそんなことを話すわけじゃない。お互いの無事を確認するだけだ。」
「わかっていますよ。だから了承したじゃないですか。」
「迫田さんだって本当は会いたかっただろう?」
「一生会いたくないですよ。」
「嘘つき。」
「嘘なんてついてません。」
「だって迫田さんが目を覚ましてすぐに言った言葉は“拓人さんは無事でしたか?”だったじゃないか。」
「包丁持った女と2人きりにしたんですよ。当たり前じゃないですか。」
「迫田さんは拓人さんの心配をずっとしていた。俺が無事だと答えても信じられない様子でパニックを起こすほどにね。」
「…。」
「自分の目で確かめてきなよ。拓人は迫田さんが守ってくれたから無事だってこと。」
「本当に…それだけですからね…無事を確認したら今日はもう帰りますから。」
「あぁ。それでいい。」
私は北条さんと共に待ち合わせのホテルへと向かう
ホテルの一室で待ち合わせをしているのは
私がパニックを起こした時にすぐに医師が駆けつけて対処できるようにだ
この扉の向こうに拓人さんがいる
震える手でノックをして私は部屋へ入った
「玲!!」
もう既に来ていた拓人さんは私が部屋に入った瞬間に抱きついてきた
「ごめん!!玲!!俺が…俺があの女に薬を盛られたせいで…玲が…!!」
「ごめん…なさい…私…ごめん…なさい…」
私はポロポロと涙を流して言う
今でも鮮明に蘇る
女の人が右腕を刺した瞬間に
小説が書けなくなる恐怖で
拓人を置き去りにして
逃げ出した
あの夜を
「玲は何も悪くない!!俺があの女を部屋に連れてきたから玲が殺されかけたんだ!本当にごめん!!謝ってすむ問題じゃないけど…一生かけて償う!!」
「わ…私は…こわくて…逃げ出して…」
「刺されたんだ!誰だって逃げる!!玲は悪くない!!」
「違う…小説が…書けなくなるのが…こわくて…私は!!」
呼吸が荒くなる
息が上手く出来ない
苦しい…
「迫田さん!大丈夫!?過呼吸だ…紙袋!!これを吸って落ち着いて!!」
北条さんに紙袋を渡されて私は呼吸を整える
「玲!!玲!!玲!!!」
「拓人も落ち着け!まずは迫田さんを落ち着かせないと…」
拓人は同席していた純也さんに宥められていた
私は呼吸が整ってきてソファで話すことになった
「拓人さんは…私が逃げた後…女の人に襲われましたか…?」
私は怖くて聞けなかった質問をした
命が無事であることは女の人の口ぶりからなんとなくわかっていた
でも…問題は無抵抗の拓人さんを女の人が襲ったかもしれなかった
こわいけど…せっかく会えたんだ
私は聞きたかった
「俺は無事だったよ!玲が鈴木さんに連絡してくれたおかげで助かったんだ!鈴木さんはスタンガンで女を気絶させて助けてくれたんだ!」
「そっか…よかった…」
心の底から安堵した
よかった…
鈴木さん…包丁持った女相手に殺される可能性だってあったのに…本当にすごい…私とは大違いだな…
「鈴木さんも無事でしたか?」
「ああ!死にかけたのは玲だけだよ。本当に…ごめん…」
「私も北条さんが助けてくれたおかげで元気になれました。」
「北条に…?」
「はい。血まみれの私を病院に連れて行ってくれたのです。感謝しかありません。」
「そうか…北条には特別に謝礼をしなければいけないな。」
「そんな…俺のことはいいですから。」
「拓人さんが無事で安心しました。今日は帰ります。」
「待て!玲はどこに帰っている?」
「…教えられません。」
「また2人で暮らそう!今日から俺の家に帰ってきてもいいんだぞ!?」
「無理です。今日は帰ります。」
「せめてどこに住んでいるか教えてくれ!」
「無理です。ごめんなさい。」
「連絡を…!電話とメッセージも返してくれ!!ブロックは解除して欲しい!!」
「ごめんなさい…」
「愛してる!玲がいないと俺は生きていけない!!側にいさせてくれ!!もう絶対に危険な目に遭わせない!!一緒玲を守ると誓う!!」
「私は1人が好きなんです。もう私に関わらないで欲しい。」
「違う!玲は言ってた!本当は結婚して子供が欲しいって!!」
「!!」
「本当は1人じゃなくて幸せな家庭が欲しいって!そうなんだろう?玲!!」
「私にはそんな資格ないの!もうほっといてよ!!」
「嫌だ!絶対諦めない!俺は…玲がいないと生きていけない…お願いだから…俺を捨てないで…一緒にいて…側にいて…」
心が揺れる…
私が側にいるだけで本当にいいの…?
本当に…?
また…同じことを繰り返すだけじゃないの…?
「どうして…私は拓人さんを1番に大切に出来ないよ?私との未来なんて…幸せになれないのに…」
「玲が側にいてくれるなら俺は幸せだ!!1番じゃなくても構わない!!もう2度と玲を不安にさせないから!!」
「不安だよ…こわいよ…1人でいさせてよ…」
「玲だけは諦められない!玲がもう一度付き合うと言ってくれるまで一生口説き続ける!!」
「今回は助かったけど、次は私に見捨てられて死ぬかもしれないよ?」
「それでもいい!俺と結婚してくれ!!」
「バカじゃないの…」
「バカでもいい!玲!!お願いだ!」
「…わかった。そこまで言うなら付き合ってあげる。」
「ほ…本当か!!玲!!一生幸せにする!!玲!!玲!!玲!!愛してる!!本当に…ありがとう…」
孤独が好きだ
本が好きだ
1人の時間が好きだ
誰にも邪魔されない自由が好きだ
でも…拓人さんになら
1人の時間を壊されてもいい
だって私も愛しているから




