第88話 休息
迫田さんが刺された事件から3ヶ月が経過した
迫田さんの真中家関係の人間には絶対に会いたくないという意思が固く
入院生活の間、迫田さんは拓人さんも純也さんも美奈子さんでさえ面会謝絶をして門前払いをしていた
迫田さんが面会を許していたのは俺と担当の南さんと両親だけだった
入院して1ヶ月後、退院日になったのだが
「あの家に帰りたくない…」
と迫田さんは呟いていたので
「実家に帰ればいいのでは?」
と伝えてると
「実家になんて帰ったらすぐに拓人さんに見つかるじゃない。」
「いつかは見つかりますよ。会うのは嫌だという気持ちは理解出来ますが、早く話し合いをしてあげても…」
「北条さんの家に泊めて。」
「は?なんで俺の…」
「まだ顔を合わせる覚悟がないの。」
「しばらくホテルで泊まれば…」
「ちょっとの間なら泊めてくれたっていいじゃない!命懸けで助けた相手が心が病んでまた死んだら夢見悪いでしょう!?」
「嫌な脅し方しないでくださいよ…」
「泊めて。」
「…少しの間だけですよ。」
とこの時に俺の家へ泊めてしまったことが運の尽き
迫田さんはその後、2ヶ月間俺の家から出ていく気配を全く見せずに住み着いている
「おかえりなさい!北条さん!今日のご飯はビーフストロガノフですよぉ!」
と玄関で迫田さんがお迎えをしてくれる
小説家であることにも関わらず、初写真集が30万部売れた美人小説家がお迎えに来てくるなんて世の中の男は愛おしくて堪らなくなるだろうな
残念ながら俺はゲイだからそんな感情は湧かないのだが
「迫田さん。いつ引越すのですか?もう2ヶ月経ちましたが。」
「永久就職です♡」
「笑えない冗談やめてください。」
「本気なのに。」
「なおたちが悪いですよ!やめてください!」
「まぁまぁ。そんなことはどうでもいいじゃないですか!私のお手製のビーフストロガノフが冷めちゃいますから!早く着替えてリビングで一緒に食べましょう!」
「はぁ…着替えてくるよ。」
俺は自室でスーツから部屋着へと着替えてリビングへ行く
迫田さんは今日も美味しい料理を作って待ってくれていた
「迫田さんの作る料理ってオシャレなものが多いですよね。」
「そうですか?私に料理を教えてくれた鈴木さんがオシャレ料理人だったのかもしれません。」
「迫田さんは庶民的な料理はほとんど作らないからね。ハンバーグとか肉じゃがとかカレーとか。定番の男受けする料理はしないの?」
「そういう料理が好みなの?」
「そうだね。一般的な男だから俺は。」
「じゃあ明日は北条さんの為にハンバーグを作っちゃおうかな。」
「拓人は料理のリクエストをしなかったの?」
そう言うと空気が冷える
迫田さんに拓人の話はNGワードだ
事件を連想させることは一切してはいけないからだ
パニックになって過呼吸になることもある
しかし俺はわざと口にした
2ヶ月もここに居座っているんだ
そろそろ出て行って貰いたい
心を鬼にして俺は迫田さんの心の闇に踏み込む
「…拓人さんは私の料理に文句を言ったことはなかったわね。なんでも美味しいって言って食べていたわよ。」
拓人の話をする迫田さんは辛い思いを押し殺して儚げに話す
「あいつはジャンクフードとか食べたことなさそうなお坊ちゃんだからな。」
と俺は明るく答える
「御曹司だからね。家にシェフがいるとか言ってたし…」
「会いたくなった?」
俺はまっすぐと目を見て言う
「会いたくないわよ。北条さんだって元彼と会うのは億劫でしょう?」
「そうだね。でも俺と迫田さんは違うじゃん。仲違いして別れたわけじゃない。もう一度話し合うべきだよ。」
「…なんの為に?別れることしか選択肢がないわよ。」
「それでも別れ話をしてあげるべきだよ。そうじゃないとお互い次へ進めない。」
「…時間が経てば忘れる。」
「無理だよ。拓人は美奈子と結婚してからも迫田さんを忘れられなくて病んだこと忘れたの?」
「…。」
「ねぇ。ここに来てもう2ヶ月経った。そろそろ向き合ってもいいんじゃない?」
「やだやだやだ!!どうしてそんなこと言うの?私達2ヶ月間上手くやってきたじゃない!何も不自由することなく楽しく同居生活してた…そうでしょう?」
「あぁ…そうだな。俺が生きてきた中で1番平穏で穏やかな2ヶ月間だったかもな。手作り料理に洗濯、掃除とかもしてくれてとても快適なプライベートを過ごすことが出来たよ。」
「それなら…!」
「でも迫田さんがいる限り、俺は新しい恋人が出来ないからね。」
「私は恋人なんかより快適な毎日を届けているわよ。毎日穏やかで楽しかったでしょう?」
「迫田さんがやってるのは家政婦さんと同じだよ。快適に過ごすことが出来ても…それだけだ。」
迫田さんは俺をソファに押し倒して言う
「お望みなら北条さんを満足させてあげようか?」
と迫田さんは俺を押し倒して言う
「ふん。女はすぐ体で誘惑しようとする。だから気持ち悪くて嫌いなんだよ。」
「私に欲情しない?ちっとも?」
「全然しない。反吐が出る。早くそこをどかないと殴り飛ばすぞ。」
迫田さんはフフッと笑いながらどいてくれた
「こんな美女をふるなんてひどいなぁ。」
「こんな美女なんだから誰でも面倒見てくれますよ。早く出て行ってください。」
「恋人なんかより永遠の友情の方が価値があると思いませんか?私達はお互いに恋愛感情がないからこそこの2ヶ月間穏やかに楽しく生活することが出来ました。この日常が毎日続けば幸せだと思いませんか?」
「迫田さんと過ごす毎日は楽しかったよ。」
「だったら…!」
「迫田さん。男はみんなスケベなんだ。エロいことをしないで毎日生きていくことは出来ないんだよ。」
「…北条さんが男を連れ込んでいる時はクローゼットで大人しくしてるから…」
「嫌だよそんなプレイ!早く出て行け!!」
「性欲なんてこの世から滅べばいいのに…」
「そんな人生楽しくないよ。エロこそ万国共通。世界平和の象徴だよ。」
「…北条さんとずっと一緒にいたかった。」
「ごめんね。」
「…拓人と2人きりで上手く話し合える気がしない。同席してくれるよね?」
「あぁ…もちろんだよ。」
迫田さんはようやく拓人と話し合う覚悟が出来たようだ
俺は2人の日程を調節して
話し合いの場を設けた




