第82話 新しい生活
今日はミナと桜井さんの結婚式だ
仲人の私は招待されて出席をした
ずっと愛されたいと願っていたミナがようやく愛する人と結婚して幸せになれた姿を見れて
心の底からホッとした
大好きな親友が幸せになってくれてよかった
私がミナを幸せに出来るほど人間性が出来ていなかったから
桜井さんに安心して任せることが出来てよかった
これでハッピーエンド
私の役目は終わり
元の小説しかない世界に戻る
また孤独に小説を書く生活に
私はミナが出て行った部屋に戻り1人になったことを実感する
私も新しい家を見つけて引っ越さないといけない
相変わらず私はズボラで自ら引越し先を見つけたら選ぶことが苦手で先延ばしにしてしまった
この部屋はあと1週間ほどで出ていかないといけない
「もういっそ本当に北海道とかに思い切って引越しちゃおうかな…」
小説を書くのはどこでも出来るんだ
でも、南さんに締切前後は1人で食事も睡眠もしないから3回救急車に運ばれてることから1人で暮らすと通報する人もいないから死ぬと言われている
小説を書き出したら他のことが出来なくなるこの性質をどうにかすればいいんだけど…
そんなこと出来ていればとっくの昔にやっている
「ハァ…もう引越し先も南さんに決めてもらおうかな…」
プライベートなところまで大人になっても面倒を見て貰っているのは情けないが、このままでは出て行くことごめんどくさくて部屋の解約日に荷物と共に野宿することになりそうだ
それか純也さんに頼んじゃおうかな…
あの人結構我儘聞いてくれるし…
ピンポーンとインターホンのチャイムが鳴った
私はカメラで確認をすると
「こんばんは。」
と拓人さんが言う
「…何かご用ですか?」
「とりあえず部屋に入れてくれないか?長話になりそうだし。」
「えぇ…私、今日結婚式の帰りだし疲れてるからまともな話し合いなんて出来ないよ。」
「そんなに長くないから。」
「じゃあインターホン越しでいいじゃん。」
「大事な話だから。」
「…。」
私は納得がいかなかったけれど、インターホン越しに言い合うのも近所迷惑かと思い扉を開けた
「久しぶり。玲。」
「3日前に会ったじゃん。」
「3日も前だよ。」
拓人さんはリビングのソファに腰を掛けて話を進める
「今日はミナの結婚式だったよね。」
「そうだよ。」
「玲は言ったよね。ミナが幸せになったら俺と付き合ってくれるって。」
「そんなこと一言も言ってないけど。」
「言ったよ。」
「私は考えるって言っただけ。付き合うなんて一言も言ってない。」
「ほぼ言ってるじゃないか!!」
「全然言ってないわよ…それどころか私は一回ダメだった関係がやり直して上手くいくわけないって何回も言ってる。」
「もう一度やり直してみよう。上手くいくかもしれないだろう?」
「いや。」
「ねぇ…俺のこと嫌いとか言ってくれたら俺だって諦められるよ。でも、玲はずっと上手くいかないしか言わない。それって俺のことが好きな気持ちは変わってないからじゃないのか?」
「話が飛躍しすぎ。そんなことない。」
「じゃあ嫌いって言ってよ。」
「…。」
「フフッ…玲は嘘をつくことが嫌いだからね。自分の気持ちに正直に生きていることにプライドがあるからこそ嘘はつけないんだ。」
「嫌いじゃない。でも上手くいくわけない。付き合う気がないと言う気持ちも嘘じゃない。」
「ダメだよ。嫌いって言ってくれないと。そんな理由で諦められるわけないだろう?玲が好きすぎて病むぐらいまで愛が重いんだ。そんなことで諦めないよ。」
「うー…その話また今度でいい?もう疲れた。」
「いいけど今寝ようとしてる?」
「当たり前でしょ…」
「玲が好きな男の前で堂々と無防備に寝るのは危機感がなさすぎると思うけど。」
「うるさいなぁ…拓人が出て行けば問題解決でしょう…?早く出て行ってよ…」
「そんなドレスのままソファで寝るの?髪の毛のセットもそのままだし、メイクもそのままだけど…」
「そんな細かいこと気にして生きてないわよ…おやすみ…」
私はそのまま眠りについた
嫌いと言ってしまえばそれだけでこの関係を終わらせることが出来るのに
変なプライドが邪魔をして言うことがいまだに出来ない
本当に子供だなと思ってしまう
大人なら綺麗な嘘も優しい嘘もつくことが出来そうなのに
真実が美しいとは思っていないけれど
正直に生きることにプライドがあるのは我ながら厄介な性格をしているな…
目を覚ますとふかふかのベッドに寝ていた
「…?」
見覚えのない場所だ
ここはどこだ?
寝ぼけた頭で昨日の出来事を思い出す
昨日はミナと桜井さんの結婚式の後にまっすぐ家に帰ったはずだ
そして拓人さんを部屋に入れた後、ソファでドレス姿のまま寝落ちしたはず…
この部屋は知らない場所だ
ドレスを着ていたはずなのに今はバスローブを着ている
「き…記憶喪失!?!?」
初めての記憶喪失の展開に小説家としてテンションが爆上がりする
ワンチャン転生物もあるかと鏡を確認してみたが、迫田玲のままだった
「おはよう。玲。朝から元気いっぱいだね。」
と拓人さんが部屋に入ってきて言った
「こ、ここはどこ!?私は誰!?」
錯乱したまま私は拓人さんに言った
「ここは俺達の新居だよ。君の名前は迫田玲だよ。」
と冷静な口調で答えられた
「…は?…え?…私は迫田玲…ここは新居…」
「そうだよ。」
「…そうだよ??」
「玲は昨日ここの新居に引っ越してきたんだ。」
「ハァ!?」
「今日から俺と同棲生活だよ。」
「意味がわかりません!!」
「荷物も全部運んであるからね。」
「な…なんで??」
「なんでって…俺達は恋人になって愛を育む為に同棲をするからだろう?」
「私達はより戻すつもりないって言った!!」
「俺は却下したよ。だからここに連れてきたんだ。」
「意味がわからん!!」
「玲に惚れてる男の前で無防備に寝るからこんなことになるんだ。もう少し警戒した方がいいよ。」
「今すぐここから出て行くから!」
「えぇ?玲は他に行く場所なんてないはずだよ。美奈子と同居していたあの部屋だってあと1週間で解約だったのだろう?丁度よかったじゃないか。」
「うぬぬ…」
「俺は気づいたんだ。俺に足りなかったのは行動力だって。玲に嫌われるかもと考えて行動することが出来なかった。でも、美奈子が無理矢理俺達の家に玲を同居させているのも見て思ったんだ。俺も美奈子を見習うべきだって。」
「変な行動力見習うな!!」
「玲は極度のめんどくさがり屋だから一緒に住む状況さえ作れば流されてそのまま居着いてしまうからね。」
「今回はすぐに出て行くから!!」
「そう。俺は止めないよ。頑張って。」
こいつ…私に出来るわけないと確信している
むかつく
出来ないんだけど
「誘拐犯だ。」
「監禁罪も付け加えようかな。」
「開き直るな。」
「俺はこれでも浮かれているんだよ。やっと玲と同棲生活が出来ることに!!」
「人を騙して連れてきたくせに…」
「もう一度やり直し貰えるように俺頑張るよ。」
「寝てる間に服を脱がすようなやつは信用出来ないわ。」
「あぁ…寝ている間にドレスからバスローブに着替えさせたのは家政婦の鈴木さんだよ。髪の毛もメイク落とすこともやってくれた。俺は紳士だからね。勝手に玲を脱がしたりしないよ。」
「…。」
「惚れた?」
「ちょっと安心しただけ。」
「素直だね。そんなところも大好きだよ。」
私はまた騙されて引越しを余儀なくさせられた
拓人さんと同棲生活なんて不安しかない
惚れたらどうなるんだろう
地獄しかない気がするけど




