第81話 別れ
家に帰ることが楽しみと思えることがこの世で1番の幸せなのかもしれない
“おかえり”と笑顔で迎えてくれるだけでその日の疲れが吹き飛ぶ
私には一生手に入らない普通の幸せが突然転がり込んできた
拓人を救ってもらうように同居した玲は
私を救った救世主になった
拓人も純也さんも玲に救われたのだろう
今ならわかるよ
玲を手放したくないって気持ち
玲の笑顔を独り占めに出来ればいいのにって思う気持ち
女の私でさえ堕とされてしまったのに
拓人や純也さんはあの笑顔をされたらひとたまりもないだろう
人と関わることが苦手なくせに
人の本質を見抜くことが得意で
弱っているところに救いの手を伸ばすことが出来る
他の人には塩対応なのに自分にだけは心を開いて懐いている姿も愛着が湧いてしまうし
独り占めにしたいなって思ってしまう
自分だけ特別扱いされたいと思ってしまう
孤独な玲が私に依存すればいいのにとそう願ってしまった
でも…玲と私は違ったんだ
私は愛されたいのに愛されない孤独を抱えていた
普通の幸せを求めていた
玲は愛されることなんて望んでいなかった
人と関わることが苦手で孤独であることも困っていなかった
寧ろ孤独でいることに心地よさを感じていた
一日中だれとも話すことがなくても
玲は寂しさを感じたりしないタイプだった
玲には小説さえあれば何もいらなかった
私のことなんて必要とされてなかった
支え合う関係性は築くことが出来なかった
だって玲は必要ないから
玲が小説を書いている間は当たり前だけど、私は放置された
玲にとっては小説が1番で
私が1番になることはないから
寂しさを感じなかったと言えば嘘になる
玲の小説は大好きだけど
私のことをいないもののように扱われるのは正直辛かった
玲もそれがわかっていたのだろう
私に“幸せになってほしいから”と言ってお見合いをした
そして…私に桜井さんを紹介してくれた
交際は順調に進み
突然手に入れた普通の幸せに戸惑い、拒絶反応をするようにもなったけれど
羽賀先生のカウンセリングのおかげで愛情を素直に受け取ることが出来るようになった
玲が見つけてくれた私の幸せを
玲が見つけてくれた幸せを
私は大事にするんだ
今日は玲と一緒に高級レストランで食事だ
仕事が終わり、先にレストランで待っていると
「お待たせしました。」
と玲は赤いドレスで入ってきた
出会ってすぐもここのレストランで食事をしたけれど
あの日の玲も美人で美しかったけれど
今日の玲は一段と輝いて見えた
「懐かしいわね。玲と出会った時を思い出すわ。」
「あの時とミナは随分変わりましたね。」
「そう?」
「うん。幸せそうに笑うようになった。」
「それは…玲のおかげね。」
「私がやったことはきっかけだけです。今、ミナが幸せなのはミナのおかげですよ。幸せはいつだって自分で掴むものですから。」
「…桜井さんと結婚することになった。」
「それはそれは。おめでとうございます。」
「私はこれから新しい家に引っ越して桜井さんと暮らすことになる。今、同居している家は解約しようと思っているわ。」
「うん。じゃあ私は新しい家を探さないとだね。」
「…私は玲に出会ってからの人生が1番幸せだった。家に帰りたいと思えることの幸せを玲は私に与えてくれた。本当に感謝している。あの家を解約して出ていくのは寂しい。ずっとずっと玲と同居する生活でも私は幸せだったよ。」
「うん。私もミナと出会えてよかった。人と会話することが苦手なのにミナとはずっとずっと楽しく会話することが出来た。楽しかった。本当に。だからこそ私がミナを傷つけたくなかった。ミナにどうしても幸せになって欲しかった。私だって寂しいけど…ミナが世界一幸せになってくれるなら、喜んで送り出すよ。」
「私がいないと寂しいの?」
「当たり前じゃん。」
「どっちでも変わらないと思ってた。」
「まぁ…私は1人でも楽しめるタイプだけどさ。」
「フフッ。そうね。結婚した後も誘ったら私に付き合いなさいよ。純也さんはよくてまさか私の誘いを断ったりしないわよね?」
「なるべく行くようにする。」
「絶対に行くと言いなさいよ。」
「こっちにも都合があるじゃない…」
「玲が忙しいのは月末だけ。それ以外はニートの暇人のくせに。」
「毎日コツコツ書くタイプに変貌してるかもしれないわよ?」
「絶対無理。玲に出来るわけない。」
「フフッ。冗談よ。ミナが誘ってくれるから地球の裏側かららだって会いに行くわ。」
「絶対よ?玲は私の唯一の友人なんだから。結婚した後に疎遠になるなんて許さないからね。」
「うん。」
「玲…ありがとう。私の友人になってくれてありがとう。私を幸せにしてくれてありがとう。」
「幸せになるのはこれからでしょう?桜井さんと共に幸せな家庭を築いてね。応援してる。」
本当はずっと一緒に暮らしたかったよ
玲は嫌がるだろうけど
玲と暮らした時間は私の人生の宝物
色褪せることなく輝くだろう
そうだな願うなら…
もっと早くに玲に出会いたかったな
拓人よりも先に出会っていれば
私達はずっと一緒に暮らす未来もあったのだろうか
寂しくて離れがたいよ
大好きだったよ
本当に…
ありがとう




