episode 09:猫の悩みは贅沢だ
ココアを2人分いれて、座卓に置く。
私がラグの上に落ち着くと、ネコが話し出した。
「兄貴がいるんだけどさ。いつも比べられるんだよね。周りにも、親にも」
よく聞くような話である。
というか、お兄さんがいたんだ。知らなかった。
ふと、そういえばネコのことなんて何も知らないことに気づく。
結構一緒にいたんだけどな。
つらつらとそんなことを考えていても、ネコの話は続いていく。
「出来がよくないからな。それでも幼い頃は素直に頑張ってみたが、そのうちいないように扱われはじめてな」
これまたよく聞くような話である。
実際にそれを体験している人を見たのは初めてだったけれど。
「兄貴は気にかけてくれるんだが、それも苦痛で家に寄り付かなかったんだ」
で、お兄さんは優しいと。そして自分はグレたと。
うーん、ほんとテンプレな気がしてきたわ。
とりあえず口を挟まず、続きを聞く。
「最近進路で家に帰らざる得なくて帰ったら、空気感が酷くなっててな。なんか、そこは俺の居場所じゃないんだな、と」
進路。
ん?
ネコは私より年上なの!?
驚愕の事実である。
てっきり同じか一つ下だとばかり…
表情に出さないように苦労する。
「なら、俺の居場所はどこなんだろうなーと」
しかし、なんとも女々しい話である。
とりあえず、思ったことをそのまま伝える。
「私には誰もいないわ。居場所なんて自分で作らなきゃどこにもないし。気にかけてくれる人がいるだけで幸せよ。といっても、その境遇を幸せだとは思わないけど。ネコはどうしたいの?」
「…わかんね」
ネコは座卓につっぷして、んーと唸っている。
「ゆっくり考えた方がいいわ」
用意したココアを飲み干して、立ち上がる。
それに合わせて、ネコも顔を上げて私を見た。
「…紗世は、将来の夢ってあるのか?」
夢?
てか、進路で悩んでたの?
家庭の悩みかと思ったわ。
「私?公務員よ」
やはり、安心安定高収入。
狙わない手はないだろう。
「…そうか」
ネコは私の答えをきいて、少し変な顔をしたけれど、また座卓につっぷしてしまった。
何を期待していたのか。




