第三十五話 お茶会
ミュージカルを無事に見て、クロードさんとキャッキャしながら帰りました。
このミュージカルのチケットは、なんと『アニキの聖地巡礼ツアー』の参加者に当たる物の一つだったそうです。……うん、ちょっと複雑な気分。
そして誘っていただいたお礼をきちんと伝えた、その翌日。
帰宅する生徒に紛れ、学園の正門で仁王立ちで待っているフィオナ様が居た。
わぁ……。何でここに居るの? って、答えは一つですよね! 行動、早いな!
「メリアナ・ラニード。今日こそはお話を聞かせていただきたい」
「あー……、ハイ……」
本日、お断りの返事に使えそうなバイトはお休みで、友人たちはそれぞれ用事があるため私は一人である。
「それでは、一緒に来てください」
「はあ……」
そう言われて素直について行く。
え? 素直について行くなって? 大丈夫です。この国にはどこにでも筋肉が居る。それに、私の肩にはミシェルが居るしね。
よくよく考えれば、オーバーキルなのでは? と思わないでもない布陣なのである。
そして、しばらく歩いた先に在ったのは、何の変哲もないカフェであった。
フィオナ様が店員に声をかけ、個室に通された。
「単刀直入に言います。貴女、クロードにはプリシラ姫という立派な方が居るのでクロードに付き纏うのは止めていただきたい」
「え? クロードさんが好きだから手を出すな、では――」
「ぶごふぉっ!?」
フィオナ様が盛大に吹きました。
おおう、大丈夫ですか!?
「大丈夫ですか?」
「ごほっ……!? あ、貴女、何を――」
「あ、ご安心ください。クロードさんは貴女の気持ちに全く気付いてな――」
「キャーー!?」
……フィオナ様、可愛い悲鳴ですね。
「な、な、何で……」
「え? 何で知ってるのかと聞きたいと?」
フィオナ様は真っ赤な顔で何度も頷いた。
「いや、凄く分かりやすかったです。明らかに私に嫉妬してましたよ? 私以外に気付いている人は沢山居ると思います」
「そんな……」
頭を抱えてテーブルに突っ伏してしまいました。
わぁ。何この人。からかいがいのある人だな。
「明らかに好意を垂れ流してましたよ。見ていて『プリシラ姫相手なら諦められる』って思ってるんだろうな、と――」
「何で分かるんですか!?」
貴女が分かりやすいからです。
「話を戻しますけど、クロードさんとは今の所お友達です。貴女には腹立たしく聞こえるでしょうけど、あちらからはともかく、私は現状ではクロードさんに感じている感情は、友情です。だから、私に文句を言われても困ります。クロードさんとプリシラ姫様の仲が確定してから文句を言って下さい」
フィオナ様はギュッ、と眉間に皺をよせ、私を睨みました。
そんなフィオナ様の死角から玩具の様な、けれど威力は半端ない小さい銃をミシェルが構えます。わぁ、命の危機!
「正直に言いますと、クロードさんに初対面でいきなり告白された時の彼は嫌いでした。だって、明らかに囲い込みに来てましたから。私に対する配慮が感じられませんでした。実際、貴女の様な方に睨まれ続けてましたから」
あの頃の学園は針の筵でしたよ。
「運良く、とでも言うべきでしょうか、守護妖精のミシェルが私の元に来て、そして、クディル兄様が派手に目立ってくれたので最近ではとても平和になりました」
フィオナ様の目に迷いが生まれました。うむ、この方、割とお人好しと見た。
「つい最近、クロードさんがクディル兄様にお仕置きされて、そこからようやく私と対等な目線で話してくれるようになりました」
「え……」
パチリ、と目を瞬くフィオナ様に、私は大きく溜息を吐いて見せた。
「それまでは、何というか、明らかに上位者の目線でした。上段から降りてこないというか……。まあ、侯爵家で天才と名高い英雄様ですから、仕方ないんでしょうけど」
恐らく、フィオナ様は一行に選ばれるだけの実力者なので、クロードさんと目線が近かったんだろう。フィオナ様は意外そうな顔をしていた。
「私、そういうタイプ、駄目なんです。だから基本、お断りの姿勢だったんですけど、最近クロードさんが上段から降りて来るようになったので、ようやくお友達になれたような気がするんです」
ただし、今の所恋愛感情には達していない。
「私に言われるのは腹が立つでしょうが、クロードさんが欲しければ、私の所に来るより、彼を落とす事に注力して下さい。今の彼の立場は、権力でどうこう出来るものでは無くなってしまっています」
そして私も権力でどうこう出来ない人間の一人です。権力でどうこう出来なくなったのは、ほぼクディル兄様の所為ですね! 最近の流れは、権力より筋肉です。……うちの国は大丈夫なのだろうか?
「前のクロードさんには、一ミリも恋愛感情を抱けないと思ってましたけど、今のクロードさんだと将来は分からないな、と思えます。なので、今の所私が恋愛感情を感じていない今のうちに彼を落とすべきかと思います。万が一私と両思いになったりしたら、私との間に入り込む隙間は作りませんよ」
何というか、私本当に嫌な女状態ですね? けど、本当に私の所に来られても困るんだよね……。今まで拒否の姿勢だったけど、それでも寄って来たのはクロードさんだったんだよ。今も基本、恋愛感情は無いし……。クロードさんが誰かとくっついても笑顔で祝福できる自信があるよ。
「……分かりました。お時間を取らせて申し訳ありませんでした」
渋い顔をして、フィオナ様はそう言い、席を立ちました。
そうやって気まずいお茶会が終わった訳で、どうにか暴力沙汰にならなかったことに安堵していた私は、気付かなかった。
隣の部屋で実はクロードさんが待機していた事を。
そして、話を盗み聞きしていたクロードさんが私の言葉に打ちひしがれ、内心爆笑しているゼクスさんと真面目に同情しているゼクスさんの先輩さんに慰められていた事を。
私は何も知らず、一日を終えたのでした。
最近パソコンの調子が悪いです。
打った筈の文字が打てておらず、誤字になるんですよね……。