第4話 聖七光学園
世界には、力が正義である場所がある。
聖七光学園はその典型だった。
大聖都の中枢に聳えるその学園は、外観だけを見れば荘厳という言葉しか浮かばない。七つの属性を象徴する七色の尖塔が天を指し、その足元を巨大な回廊が取り囲む。
石畳の広場には噴水があり、季節の花が咲き、遠目には貴族の邸宅か神殿のようにも見える。
しかし一歩中に踏み込めば、そこに流れる空気は全く別物だった。
格付けが、空気に滲んでいた。
誰が強く、誰が弱いか。どの家系が上位で、どの属性が権力を握っているか。そういった情報が、言葉を介さずとも全身で伝わってくる。
上位の生徒が廊下を歩けば、下位の生徒は自然と道を開ける。
視線の向け方、歩幅、声の大きさ――あらゆるものがヒエラルキーを語っていた。
七つの属性はそれぞれが派閥を形成し、互いに牽制し合っていた。
最も勢力が大きいのは土属性だった。勇者六十二柱の中で最多の人数を誇り、ジーク・タイタンを頂点とする組織力は学園内で圧倒的な存在感を放っていた。次いで光属性、風属性と続き、音、水、火、智慧の順に続く。
火属性に至っては、人間のレゾナンターが実質存在しないという異例の状況が続いており、その勢力は名目上は維持されているものの、実態は空洞に近かった。
そしてこの学園において、力の証明は一つだった。
啓示の巡礼によって測定された、光の求心力のレベルだ。
数値が低いほど光の核心に近い。共鳴域に達した者だけが一人前とみなされ、光核の域に踏み込んだ者は畏怖の対象となる。逆に数値が高い者――すなわち光の核心から遠い者は、いかに家柄が良くとも、いかに努力を重ねていても、この学園では底辺に置かれた。
それが、聖七光学園の現実だった。
◆ ◆ ◆
入学の日、アークは測定室に通された。
測定は啓示の巡礼の形式に則り、学園内に設けられた小祭壇で行われる。担当の測定官が淡々と手順を説明し、アークは指示通りに祭壇の中心へと立った。
測定官が術式を起動した。
光の求心力を可視化する術式は、対象者の周囲に薄い光膜を生成し、その収束具合
から数値を割り出す仕組みだ。通常であれば数秒以内に結果が出る。
しかし今日は、違った。
光膜が展開した瞬間、それは揺らいだ。収束するどころか、逆に拡散し始め、やがて術式そのものが不安定な振動を起こした。測定官が眉をひそめ、もう一度術式をかけ直す。同じことが起きた。三度目も同様だった。
「……測定不能」
測定官は困惑した顔でそう記録した。
「誤差の範囲として処理します。暫定的に下層レベルとして登録してください」
アークは何も言わなかった。測定官が何を困惑しているのかは、おおよそ察していた。
しかしそれを説明する言葉を、アークはまだ持っていなかった。
◆ ◆ ◆
下層レベルの登録は、即座に意味を持った。
学園内での扱いが、それで決まるからだ。
アークに割り当てられた寮室は、最も古い棟の最上階だった。エレベーターはなく、
石造りの螺旋階段を七十段登らなければならない。食堂では上位生徒が着席してから下位生徒が席に着く慣習があり、アークが席を探す頃にはいつも端の席しか残っていなかった。
授業においても事情は変わらなかった。
実技の時間、アークが何かをしようとするたびに、上位生徒たちの視線が集まった。
嘲笑ではなかった。それよりも質の悪い、無関心に近い軽蔑だった。測定不能イコール底辺、という図式が学園内では既に共有されており、アークはその日のうちに「イオ家の厄介者」というあだ名を頂戴していた。
エルヴィ・イオの世話人という立場が、むしろアークの評価を下げる皮肉な結果を生んでいた。
しかしアークは、特に気にしなかった。
気にする理由が、見当たらなかった。




