威風堂々
キュレイブは再び引き金を引いた。
真っ直ぐに飛んだ弾丸を、ジンは当然のように躱す。
ジンが地面に深い足跡が残るほど強く跳躍した。暗闇に飛び立つように空へとジャンプしたジンを、キュレイブは両手で銃を構えて冷静に狙う。
装填された通常の弾丸に、自らの魔力により発生させた雷の属性を足し合わせる。
金属は帯電し、通常の弾丸よりも早く、より鋭い攻撃となって放たれる。
「汎用型魔法複合形! 雷の支え(リードボルト)!」
通常よりも早く放たれた弾丸を、ジンは完全に見切って回避する。
キュレイブは魔法で相殺させると完全に思い込んでいた。今までもジンは力場を発動して弾丸を受け止めていた。
完全に目論見が外れたキュレイブは、舌打ちをしながらリロードをする。
「ふざけんな! そもそもなんだよ銃を普通に躱すって!」
敵に背を向けて走り、思わず顔を真っ赤にして叫ぶ。その姿は癇癪を起こした子供そのものだった。
それを追うジン。
牽制で発砲しようかと考えたが、ジン相手には脅しにもならないとわかっている。
(そもそも手に穴が空いたんだぞ? 痛いはずだろ! なんで当たり前みたいに戦えるんだよ!)
キュレイブとて、戦いの中で怪我をしたことはある。
痛みは、あらゆる状況の中で有効だ。痛い、と意識させるだけで相手の判断力を多少奪うことができる。それに、その部分が痛いと気づいているだけで反射的に庇ってしまうのが人間の生態。
傷を庇うことは自然な反応であり、どんな強者でも共通する行動なのだ。
それが普通のはずなのに、ジンは自分の手から滝のように血が溢れることを気にすることもなくキュレイブを追いかけて、魔法付きの弾丸すらも当たり前のように回避する。
これを化け物と言わずしてなんと表現すればいいのか。キュレイブは適切な言葉を知らなかった。
「君、さっきからなぜ、あの異常な速度の弾丸を使わないんだ?」
走りながら声をかけてきた。
キュレイブはそれを無視して発砲する。
「使わない、使えない、言葉はいくらでもあるだろうが、思いついた最も適当な理由は一つ」
言葉が途切れた。
キュレイブが反射的に振り返ると、そこには暗闇があるばかり。
「使いたくないんだろ?」
突如横から声がした。そこにはジンが、いたずらっ子を見つめる老人のような、宥和な笑みを浮かべていた。
直後鈍い痛みが走った。
地面を転がり、素早く立ち上がってジンに銃口を向ける。
「そこそこ。今俺を撃てば殺せるはずだ。なのに使わない」
ジンは自分の心臓のあたりを指で叩く。
キュレイブは奥歯が軋むほどに歯軋りをした。
「魔力消費が大きすぎるんだろ? だから日に使える回数が決まっている。違うかい?」
「!!」
思いっきり自分の頬を叩く。表情に出してしまった、それは相手に答えを与えたも同じだ。
「さっきから、汎用型の魔法を使っている。それで残弾数が余計に減ってしまったはずだ」
ジンは見せつけるように電気を発生させる。
弾ける電気を見て、キュレイブはようやく、誘導させられていたのだと理解した。
癇癪を起こしたい気持ちを押さえつけて、ひたすら引き金を引いた。ジンはわかっていたかのように力場を展開し、それを受け止めた。空中で弾丸が止まった光景に、キュレイブはまた血走った目で見ることしかできなかった。
「君は素晴らしい銃手だ。けど、だからダメだ」
ジンが気付けた理由には、キュレイブの腕が関わっている。
ジンはずっと、動き回って攻撃を躱していた。乱戦における銃撃というのは、むしろむやみやたらに逃げ回る方が当たりやすいもの。撃つ側もめちゃくちゃに撃ちまくる場合があるからだ。ジンは回避した後に、元々居た位置に正確に着弾しているのを見て、キュレイブの銃手としての実力をおおよそ把握した。格闘能力は、体格も相まってそこまで脅威と感じるほどではなかった。あとは魔法使いとしての実力を測れば、相手の実力を把握したことになる。
銃を利用した魔法を何度か発動してきた。しかしそれはほとんどが固有型ではなく、汎用型の魔法だった。決して素人というほどではなく、年齢の割に洗練された魔法だったと言える。
その中で唯一脅威と感じられたのは、やはり引き金を引いた瞬間に撃ち抜いたという結果を作り出す魔法だろう。
「あの魔法はすごい。固有型の開発で最も難しいイメージの構築が簡単になるし、道具を経由することで魔法そのものの構築プロセスも楽になる」
銃という要素の理解度は低い。それはジンが猟銃程度にしか接触してこなかったせいだ。だから魔法と銃を組み合わせたキュレイブの戦術を、ジンは純粋に「見事だ」と感じていた。
そして銃という要素を、ある意味最大限に活かした魔法を、ジンは高く評価している。
評価を高めている理由の大きなところは、キュレイブが二丁の拳銃を使用している点だ。
片方の銃で普通に射撃したり、魔法を撃ったりして相手を牽制し、相手がキュレイブの戦闘スタイルを「銃を主体に魔法で補助する戦闘スタイル」と誤解したところを必殺の一撃で確実に殺す。一対一の状況において、相手の不意をつく確実なやり方は有用。兵士として有望な人材だと言えるだろう。
「君は有能だろうね。その年にしては強いし、魔法の才もあるようだ」
力場を展開し、足に纏わせる。イメージは大木。ハンマーよりも鈍く太い力の塊。
「それでも、倫理を知らない」
「なんだよ……強いやつには奪う権利がある! 弱いなら奪われたって仕方ない! そんな弱肉強食のルールのルールがあるから! 俺は強くなったんだ!」
もはや魔力残量的に固有型を発動する余力は無い。ならば、残りの魔力を全て注ぎ込み、倒すのみ。
ジンは目を閉じた。瞼に、今まで見てきた全てが過ぎる。
「そのルールは、間違いじゃない。けど、押し付けるべき相手が違う」
全ての魔力が片手の銃に集中した。キュレイブが戦ってきて、込めたことが無いほどの魔力を集中させている。発射のために、両手で銃を支え、足腰に力を込めた。
「俺たちは人間じゃ無い。戦場に足を踏み入れた時点で、自分を人間とは別だと考えるべきなんだ。普通に生きている人を、弱肉強食のルールに巻き込むことだけは、してはならない」
もはや魔力に形は与えない。ただ高出力、高水準の魔力砲。これも銃があるからこそ成立する純粋魔力の攻撃だ。
「基本的な倫理もわからんガキに、お仕置きしてやる」
「ほざけ!!」
発射する。あまりの威力に支えきれず、銃が頭の上に吹っ飛ばされるほどのリコイルが発生し、地面に電車道を残しながら後ろに下がった。
圧倒的な出力の魔力砲は、地面を抉りながらジンへと迫る。
普通の使い手ならば、腹を抉られ、血を吹き散らしながら地面へ倒れ伏すことだろう。だが、目の前にいるのは五百年前にこの大陸を統一した伝説の王その人なのだ。
ジンは力場を拳に纏い、砲撃を弾き飛ばした。
弾かれた魔力砲は、建物の端っこを掠めて、夜の闇へと消えていった。
圧倒的な光景にキュレイブは脱力し、その場にぺたんと座り込む。
「どうする? もうやめとくか?」
「……うん。もうむりだ」
もはや抵抗する気すら起きず、銃をその場で手放した。
ジンはにっこりと笑いかけ、地面に置いた銃を拾い上げ回転させた。
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