王妃の誇り
「まずは、あなたの魔法の謎を解かないとね」
ミリルは片手に魔力を集中させ、それに雷の形を与える。そしてさらに、雷をそれぞれ細い線のように分割して、分割したひとつひとつの雷を刃のように鋭く研ぎ澄ます。
雷を利用した超高速の多重斬撃。
「汎用型魔法応用形、多重電流斬」
操られている集団の頭上を掠めるように放つ。
当然攻撃は何も無い中空を切り裂き、建物を掠めることすらなく霧散した。
「なるほど。魔力で作った糸みたいなのは無いのか。なら操り人形というよりも……」
「なにぶつぶつ言ってんだよ!」
マダリアが空中でピアノを弾くように素早く指を動かす。すると操られている男たちが、全員手のひらに電気を発生させた。またも整えられた、全く同時のタイミングであった。
「また全く同時。けど、改めて感じると、なんか魔力の流れが歪……歪めた? いや、無理やりそうさせられた? やっぱり操ってるのは間違いないか……けどその割に」
ミリルは魔法の名手だ。五百年の時が経ち、アリシア・ステイルからミリル・カルフになろうともその事実は変わらない。だからこそ、相手の魔力の流れすらも看破する。今回の場合は、相手の魔力の流れの「歪さ」を感じ取っているのだ。
敵から一斉に電気が放たれる。それをミリルは同じ電気の壁を展開して、全て受け止めた。
「くっ! 魔力出力が違うのか!?」
「また単純な放出攻撃……」
ある意味当然だが、違いの反応は大きく違う。
ミリルのリアクションが、マダリアを冷静かつ、深く反省させた。
焦りは時として必要だ。己の首を絞める場合もあるが、通常では発揮できないスペックを目覚めさせることもある。
マダリアの場合は、焦りをほぼ完全に支配できていた。ただ頭を支配する煩わしい感情ではなく、脳みそに覚醒と仕事を促し、思考というワークフローの効率化を図る無駄に意識の高い要素として語りかけてくる。
焦りというスパイスによって、マダリアはより効率的に魔法を使うことができるようになった。より早く、より強く、より抜け目のない魔力操作。強者との戦闘が、本来はあり得ないレベルの急成長を促しているのだ。
自分自身の魔力の流れを効率化し、改めて魔力による波長を放つ。その影響を受けたものたちは支配下に置かれ、自分の脳みそで物事を考えられなくなる。意識はブラックアウトし、本来は使用できない魔法さえも使用できるようになる。
「猟奇楽団!」
「なるほど。魔力による支配か。でも、動揺してたってことはそれまで正気だったってこと」
ミリルは魔力を今まで以上にたぎらせた。腕、それから手のひら、体の中心部から末端へ魔力を集め、沸騰するような力を併せ持った魔力を、両手の間で合体させる。二つの魔力は、それぞれ別の形を与えられている。それぞれが合わさることで全く別の新しい形を与えられる。
「汎用型魔法合成形、火炎雷」
両掌の間に現れた黄色い閃光とオレンジの光が合わさり、雷を纏った炎が生まれる。
生み出された全く新しい魔法を、ミリルは惜しげもなく発射した。マダリアは反射的にとびのくが、操っている奴らにまで意識を割けるわけではない。マダリアは目の前で、仲間の七割が焼けこげる瞬間を目撃した。炎に全身を包まれ、電流で体の隅々までをやけ焦がされる。
二重に焦がされた仲間(道具)たちが目の前でバタバタと倒れていく光景は、マダリアに恐怖を植え付ける。しかし同時に、冷静で巧みなマダリアを呼び覚ましてしまう。
「魔法がうまいみたいだな! けど、その程度!!」
マダリアはミリルに音波のような魔力を放った。操るために使用する第一歩のような魔法「気狂い(エチュード)」である。
この魔法は魔力で思考回路や魔力の流れに介入し、相手の意識と体を支配する。
相手に直接関与する魔法であれば、魔力により抵抗できる。多くの魔法使いは体外でしかそれができないが、上位の魔法使いになれば体内でそれができる。当然のようにミリルもそれが可能であり、マダリアの「気狂い(エチュード)」に対して抵抗のための魔力を体に巡らす。
強者同士の戦闘であれば、その一瞬は命取りである。
ミリルが体内の魔力に集中した瞬間、マダリアは残っていた三割の兵士を走らせた。スタン状態から回復したミリルの目の前まで、すでに迫っている。
(こいつらの後ろからマダリアの気配!)
マダリアが兵士に攻撃させる瞬間、ミリルは再び合成形を発動させて敵を焼いた。自らの視界を覆い尽くすほどの大規模で。
息を吐こうとした瞬間、炎と雷の中から、マダリアが飛び出してきた。腕を大きく広げ、まるでしなるような遠心力を生かした拳が、ミリルの腹に命中する。
物理攻撃を受けるのはいつ以来か。ミリルは口からよだれを垂らし、二、三歩後ずさる。さらに蹴りが迫った。咄嗟に身体強化魔法を発動させたミリルは、腕でガードの姿勢をとる。その上であろうと構わずマダリアは蓮撃を叩きつけた。
「ははははは!! 魔法の実力があるからって油断したな! あんたのフィジカルが優れていることくらいわかるさ!! レベルの高い魔法使いだからな!!」
雨のように拳が降り注ぐ。
「それでも! アタシの身長と体格! 鍛え抜いた筋肉があれば!!」
ハイヒールの蹴りが腕に突き刺さった。筋肉が歪み、骨が軋み音を立てる。
「ぶち抜ける!!」
マダリアの拳が、腕の交差させた部分に命中する。踏ん張りきれず、地面に足跡を残して廃墟に吹っ飛ばされた。
マダリアは息を切らしもしていない。身体強化と元々あったフィジカルが組み合わされば、この程度のことは容易い。
酷使した拳にキスを落とし崩れた建物を睨みつける。
「早く起きな。この程度じゃあんたは死なない。わかってるよ」
瓦礫の中から、観念したようにミリルが姿を表した。額から血を流しているし、腕には痛々しい痣がいくつもできているが、立つ足は一切揺らいでいない。
「なるほど。支配の魔法で仲間を動かし、あとは自分のフィジカルで。変則的で、魔法使いというより、グラディエーターね」
「ああ。独自のスタイルを求めた」
「けど、誇りに対し、仲間に対するリスペクトが欠けている点は」
瞬間、視界の先からミリルがかき消えた。
頭を動かしてミリルを追う暇もなく、マダリアの鳩尾に強烈な痛みが現れた。体をくの字に折って痛みの原因を探ると、ミリルが拳をめり込ませていた。
「減点」
「クソが!!」
鞭のように素早く、強烈な蹴りを体の側面に受ける。
吹っ飛ばされながらも、地面に手をついて勢いを殺し、細身の体で攻撃を受け切った。
「その体が、鍛えた魔法と体が誇りなら、私はそれを打ち砕く。それが、ステイル王国の女王としての誇りだから」
手を銃の形にしてマダリアの眉間へと向けた。
その構えに、マダリアは黄泉的な笑みを返す程度のことしかできなかった。
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