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忠臣

 ジェッスたちが馬車で襲撃を受けるのとほぼ同時刻。建物の外で焚き火を囲っていた三人は、妙な気配を感じ取った。


「ミリル、ザイル」


 ジンの言葉に反応すらも返さず、二人は即座に立ち上がり構えた。

 気配は目の前の通りに並ぶ建物たちの中からまばらに感じる。人数もまちまちだが、それぞれ小隊のようにばらけて隠れているのだと予想がついた。


「さて、どう動くか」


 ジンが力場を発生させようとした時、後ろから複数人が飛びかかってくるのがわかった。反射的に飛び退いて攻撃を躱す。だが相手はそれを予想していたようで、すぐに拳銃を発砲してきた。力場で問題なく弾丸は防いだが、三人の警戒度はすぐに上昇した。


「何だお前ら!!」


 ザイルの叫びには、並々ならぬ苛立ちが含まれている。

 初撃に対応できなかったこともそうだが、何よりも王をすぐに攻撃させてしまったことが腹立たしい。盾であり矛であることが己の存在価値。そう自認するザイルだからこそ、後悔は強い。


 攻撃が起点だったのか、建物の影からゴキブリのように敵が湧いてくる。

 ジンは思わずその光景にわずかに動揺する。バレバレではあったが、まさかここまでの人数とは思わなかったからだ。

 人数が揃っているのに隠れる、というのは、もちろん偽装や奇襲など、戦術的な意味合いもあるが、理由として何より大きいのは力不足を補うためだ。真正面からぶつかっても勝てない。だから奇襲をするのだ。

 弱く、価値の薄い兵、言い換えれば使い捨てにできる兵がこのように運用されるのだが、今日、ザイルはその弱い兵をこれでもかと殺し尽くしたはずだ。相手の実力はある程度知っている。なのに、なぜまたこんな無謀なことをするのだろうか。こんな兵士を無駄遣いにするようなことをするのだろうか。

 あたりもしない銃をそこまで信頼できるものなのだろうか? 時代が違うからこそ、武器に対する認識が違うのかもしれない。とジンは心の中で呟く。


「ジン、それだけじゃない」


 ミリルが建物の影を睨みつけた。ジッとそこを見ると、所作、挙動の全てが、他の敵よりも明らかに一段上の存在が居た。キクリよりもさらに幼い少年の風体だが、全てが不釣り合いなほどに、夜の暗殺時に慣れきっていた。

 後ろからはボンが続き、さらに後ろには足に詰め物でもしているのではないかと思うほどの高身長女が居た。足と胴のバランスが悪いとさえも言える足の長さで、そのせいか全ての部位がやけに長く見える。鷲鼻で異常に目付きが鋭いのも、より異質感を際立たせていた。


「なるほど。周りの連中はあれのサポートってか。でもま数じゃねえだろ問題は」

「だよね。任せられる? 俺は、あの小さい子と楽しむよ」

「ボンじゃなくていいの? 一番強そうだよ」

「彼は、ザイルが殺したいでしょ?」


 ジンはザイルに向かってウインクをした。

 お茶目というべきか、腹が立つというべきか、ジンは自分の心を全て見透かしているようだった。ザイルはそんな王に喉をくつくつ鳴らして笑った。

 

「……よくお分かりで」

「なら、勝てよ」

「もちろん。汚泥を注いでやるよ」

「ミリルは俺と二人で。まあできればにはなっちゃうけど」

「嬉しいですわ旦那様」


 ミリルを、ザイルは極めて意外そうな目で見た。

 生まれ変わり、アリシア・ステイルからミリル・カルフとなった。ジンへの愛情こそ残しているものの、口調や雰囲気が若々しく、前世を引っ張っていないものだと思っていた。

 だが、今目の前の少女は、心からジンと戦えることを楽しもうとしてるようだった。

 心境を読み切れた訳では無いが、ちょっとだけ気持ちがわかってしまい、嫉妬してしまう。


 それはそれとして、目の前の敵には対処しなくてはならない。

 敵は数と囲いで完全に自分たち優位を作り出したと勘違いしている。その思い上がりを、正してやろうではないか。


「鱗を落とせ、水晶龍ミズチ


 ザイルが切先を天へと向けた。すると、はるか空中から薄く鋭い水晶がいくつも落ちてくる。三人へ接近していた集団の方へ、無数に落ちていく。

 敵の集団はそれぞれ必死になって回避した。だが、不規則に落ちていたはずの水晶は、やがて法則性が生まれ、一列に並ぶように落ちて通りを二つに分けた。

 一つの通りにはザイルが、もう一つにはジンとミリルが残され、それぞれが半分になった相手の勢力と向き合う。


 ザイルが残った分断先で、ボンと、その他潜んでいた敵たちと睨み合う。


「まさか。ここまで大胆な宝具を持っているとはね」

「まあ、使い方一つだけどな」


 ボンは動揺しながらも、ザイルをしっかりと睨みつけた。圧倒的な力を見せつけられておきながら、未だ相手を睨みつける胆力を残した相手に、ザイルは少しだけ感心した。

 前からも後ろからも、ゾロゾロと建物の中から出てくる敵の集団がやや鬱陶しく感じて、夜の街に響く舌打ちをした。敵は、明らかに勝てると思っている。いかに力の差があろうとも、敵がどれだけ強力な宝具を有していようとも、数と戦術があれば勝てる。そう思っていると態度でわかる。

 今度は大袈裟にため息を吐いた。息を吐く音が声となって残響し、敵対する彼らの耳にも届く。


「お前らはさ、銃を信じてんだろ? 撃ちゃ死ぬ、数で殺せる」




「バカじゃねえの?」




「俺たちには魔法がある。鍛えてきた力がある。教えてやるよ」


 ザイルが肩に剣を乗せる。月光の輝きが、霞に濡れたような刃を薄く照らした。

 輝きが仄かに放たれる。その時、ほう、と息の漏れる音がした。美しい白色の光に惚れる心を、抑え切れなかったのだ。だが魅了された皆が知っている。あの輝きは命を奪う輝きだ。こちらの命を狙う、牙の輝きなのだ。

 ボンがハンドサインを送った。「全員警戒せよ」言われるまでも無い指示だが、全員が心の帯を締めなおした。

 全てを、自身へ敵意を向けるもの全ての心を感じ取ったザイルは、唇を一度舐めた。


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