親の希望
離婚届に署名してから、俺は両親に「すみれと離婚した。」とだけメッセージを送った。
すると、両親が来ると言う。
引っ越したこともメッセージで伝えた。
スマホが五月蠅く着信音を奏でた。
「もしもし!」
「母さん、何?」
「あんた! 離婚したって?」
「うん、したよ。」
「何でなの?」
「俺が不倫したからだ。」
「それくらいで離婚なの?」
「それくらいじゃないけど?
あ、俺、アパートに引っ越したから。」
「アパート!」
「住所はメッセージで送るからさ。見といてよ。」
「なんでなの?」
「それはね、財産分与の為だよ。」
「あんた……情けない……。」
「まぁ、出来損ないの息子だと諦めなよ。」
「次に結婚する時は、子どもが居なくてもいい!って言ってくれる人よ。
分かってる?」
「分かってるから、分かってるよ。母さん。」
「もう、あんたって子は……。」
「仕事中だから切るよ。」
「一度ちゃんと説明しに来なさいよ。」
「分かった。切るよ。」
「それで」
母が何か言い掛けたが、俺は電話を切った。
その日、俺は実家に帰った。
「何故、離婚したのか、ちゃんと説明しなさい。」
「父さん、俺が不倫してたこと知ってるよね。」
「あぁ、情けないお前が泣きついたから、相手の女に会ったじゃないか。
あの女とは別れられたんだろう?」
「別れられました。その節は、ありがとう。
父さんのお陰です。」
「別れられたんなら、離婚しなくていいだろう。」
「否、もう修復は不可能だったから……離婚したんだ。」
「お前、すみれを嫌になったのか?」
「嫌いになったとか……そういうんじゃないんだ。」
「じゃあ、何なんだ?」
「責任……だよ。」
「責任?」
「うん………それに、俺と一緒に居ると、また何かあるかもしれないから。」
「何かあるって、何のことだ?」
「俺は高校の同級生の牛島杏樹という女性にストーキングされてたらしい。
その牛」
「おいっ! ストーキングってお前がされてたのか?」
「そうみたいだ。全く気が付かなくて……俺の妻だという理由だけで襲われた。
すみれが………全く関係ないのに……怪我させてしまった。」
「そんな………。」
「それで、怪我の具合は?」
「幸いなことに腹部と腕を切られたけど、治ったよ。
傷は残ったけど………。」
「大変だったのね。」
「すみれには怖い思いもさせて、痛い思いもさせて……。
俺の不倫でも気付いていたらしいんだ。
それを気付かない振りしてくれてた。
ふっふふ………知らぬは夫ばかり也。
妻の心を気に掛けても居なかった。」
「……それはな。男は仕事があるからだ。」
「父さんの若い頃は、そうなんだろうね。
でも、すみれも仕事をしてた。
同じなんだ……同じ。
それさえ気付かなかった。
だから、俺が悪いんだ。」
「はぁ…………長男が種無しの上、離婚だとは………。」
「お父さんの言う通りだわ。全く恥ずかしいったらありゃしない。」
「父さん、母さん。
申し訳ございませんでした。」
「それで、あんた、勿論、再婚するんでしょうね。」
「再婚?」
「そうだ。早く再婚しろ! いいなっ!」
「もう、お父さんに恥をかかせないでね。
今度は親が居る人がいいわ。」
「そうだ。親が居ない女は止めなさい。
それに学歴も大切だぞ。そして、家柄は最重要だ。」
「分かった? 分かったら、お父さんに返事しなさい。」
「ご要望に沿うべく……。」
「まぁ、すみれさんと離婚で良かったんじゃないの?」
「この離婚は、プラスだな。」
「そうね、お父さん。」
「もう、親の反対を無視しての結婚は許さないぞ。」
「………分かりました。」
頼ったのが間違いだったと後悔しきりの俺だった。




