2章 49話「怒り心頭に発するって話」
ちょっと長いです。
どうもこんにちは、キアーラ・カサッツァです。
怒髪天を衝くという言葉があります。要するに激おこプンプン丸って意味です。
怒りで髪の毛が逆立っちゃうという意味です。つまり超野菜人です。
もうおしまいだぁ。伝説の超野菜人だぞ。勝てるわけがない。
……すいません。冷静ではない様です。
「どうやら大変だったようね?」
執務室のソファに座った俺に対面に座る開口一番マダムが言ってきた。
その表情はいつもと変わらない。仮面の笑顔だ。
どうにもその表情をみると心がざわつく。なんだか視界も狭まってくる様な気がする。
さっきまで冷静に色々考えていたが、マダムの顔を見たらぶっ飛んでしまった。
頭を冷やしてくれたフレアさんはマダムの後ろに移動した。最初は俺の隣に座ろうとしたのだが、マダムに溜息をつかれてその位置になった。まぁ、フレアさんもそっち側の人間だからな。
まるで悪びれることもなく、今回のことを気にもかけていないかの様なマダムの部下だからな。
「お陰さまで。どっかの誰かが、もっと早く今回のことを知らせてくれればこんなに大変じゃなかったでしょうけどね?」
少し言葉に棘が含まれてしまう。
だが俺が睨みつけながらそう言っても、マダムの表情は何一つ変わらない。
いつもの笑顔にいつもの格好。変わったことといえばすこし化粧がいつもより濃いくらいか?
「でもそうしたら、あなたと王虎君は劇場に行かなかったでしょう?」
何を当たり前のことをと言わんばかりの態度にもイラつく。
何笑ってんだよ。今がどういう状況かわかってんのか?
「馬鹿じゃないんで。行かないですね」
煽るような言い方になってしまったが、構わないだろう。
マダムが少し驚いたように感じたが気のせいだ。
「それだと困るのよ___」
「パピヨンに金が入らないからですか?」
マダムの言い訳をききたくなかった俺は遮るように言葉を被せる。
思ってもいないことだが、自然と口からついてでた。
「キアーラさん……」
フレアさん……そんな顔をしないでくれ。
マダムの後ろに立ったフレアさんが悲しそうな表情になるが仕方ないんだ。
マダムが言い訳しようとするのが悪いんだ。
「……私たちがお金のために裏切ったと?」
マダムの笑顔が少し強張った。
当たり前だなと思いながらも感情をぶつけずにはいられない。
「違うんですか?」
「……舐められたものね? 私たちはお金のために体を売っても誇りまでは売らないわ」
煽る様な……いや、煽るために言った俺の言葉でマダムから笑顔が消える。
どこかで不味いなと思いながらも俺は続ける。
「でも、俺たちは売ったわけだ。だって、そういうことだよな? 知ってて放っておいたんだから」
そうだよな? だって、ムキになっているもの。
冷静なマダムがそうなるなんてやましいことがあるってことだろ?
そうに違いない。
「……随分突っかかるわね。助けてもらえなかったのがそんなにショックだった? それならお生憎様。私が助けるのは家族だけ。甘ったれたマザコンは範囲外よ」
ほら見ろやっぱりそうだったんだ。自分達だけ助かろうって魂胆だったんだ。
マダムらしからぬ辛辣な物言いが証拠だ。人形のような仮面が剥がれて慌ててる証拠だ。
叱るように言ってくるのは自分の瑕疵を隠すためだ。
『一応言っておくけど今の君、支離滅裂だよ? 理論的じゃないね?』
俺の推理にケチをつけるように、頭の上からルナが覗き込むようにしながら言ってくる。
……なんだよ? お前までマダムの肩を持つのか?
そう俺が頭の中でルナに問いかけるとルナはやれやれと肩をすくめる。
アメリカ人が呆れた時にドラマで良くやるポーズだ。
まるで処置なしみたいなリアクションだな。
『よくわかっているね?』
言ってろよ。
俺はルナとの会話を打ち切ってマダムに向き合う。
「……友達だと思ってたんだがね?」
それなのにひどい話だ。
ひどい裏切りだ。
ルナが『んー、たまに思考が強く身体に引っ張られるね? 思った以上に相性が悪いのかな? ヤンデレみたいだね?』とか言っているが、よくわからない。
「友達って何? 一方的に甘えさせてくれる存在のこと? だったら私は友達なんていらないわ。対等でないならなんの意味があるの?」
柳眉を逆立ててマダムが吐き捨てるように言う。
それを聞いてとても残念な気持ちになる。
なんだかんだ言ってもマダムもこの世界の人間ということか。
「なるほどね。スラムに住む新移民なんていう卑き奴に生きる意味なんてないと」
だから王虎もバンビーニの奴らも生きようが死のうが関係ないってことか。
やっぱり前世の父親と同じく見下してたんだ。
ちょっとは違うと思ったのに。
「そんなこと、一言も言っていないでしょう?」
マダムが呆れた様にいう。まるで聞き分けがない子供に言い聞かせるみたいに。
でも言ってなくてもそう思っているんだろ?
だって___
「じゃあ、なんで王虎を見捨てたんだよ! なんでバンビーニを見捨てたんだよ!!」
たまらず俺は叫ぶ。マダムだったらなんとかできたんじゃないか?
今まで良好な関係を気付けてきたと思ったのは勘違いだったのか?
それともやっぱりその程度だったのか?
俺がそう言うとマダムが目を釣り上げて叫ぶ。
「八つ当たりはやめてよ! 貴方のファミリーで貴方の部下でしょう?! 貴方がどうにかするのが筋でしょうが!」
その言葉を聞いてハッとする。
そりゃそうだ。それは俺がやるべきことでマダムに当たるのはお門違いだ。
___でもこうも思ってしまう。
「あんたが今回のことを教えてくれていれば、みんな救えたかもしれないだろ!」
いや、どうだろう? 難しくないか?
「無理に決まっているでしょう? 出来もしないことを言わないで!」
マダムも当然の様にいう。
「俺と王虎なら出来たさ!」
いやいや、出来てないし。自分でも呆れてしまう。
「出来なかったからこそのこの結果でしょう? 私が介入しなければ貴方だって連れていかれてたのよ? ……あまり私を失望させないで」
マダムが悲しそうな顔をする。
それを見て俺はまずいなと思うと共にマダムがそんな顔をするのでとても悲しい気持ちになる。
『なるほど。強いストレスを感じると幼児退行するんだね? 二重人格ではないけど思考の基準が分かれるのかな? 君は自己否定感が強いから、自己嫌悪中はそれが如実に出るのかもね?』
ルナがふむふむと何やら推察しているのを聞いて、ふと脳内自分会議という単語が浮かんだところで、うっすらどこからかドスンドスンと言う音がする。
どこから聞こえるのかと耳を澄ませてみると、さらに誰かが何か言っている……?
___ケンカするほどぉ……
やっぱり何か言っている!
とそこでルナが俺の頭を掴む。
『あぁ、一応命の危険から守るねぇ?』
やる気のなさそうな声に反して掴む手には力が入っている。
そしてルナのセリフに被せるようにフレアさんが驚いた様な顔をして、
「マダム伏せて……」
言ったか言わないかのところで、今度は俺の視界が無理やり下げられて床に伏せらされたところで___
「仲が良い♪!!」
爆発したような音が聞こえたと思ったら、頭上を何かがかすってぶっ飛んでいく。
「ぎゃぁああ?!」
「きゃぁああ?!」
肌で感じた致命の一撃に悲鳴を上げてしまう。
そして同時に聞こえる叫び声。そちらを見ると、マダムが同じように床に倒れている。
そしてその向こうの壁にはソファとドアがブッ刺さっている。爆音の正体はこれだ。
「「殺す気?!」」
俺とマダムは下手人の方を向いて叫ぶ。
「あらあら♪ やっぱり仲良しさんね♪」
思った通りトントンさんだ。ドスンドスンと聞こえてきたのは彼女が歩く音。
そして聞こえてきたのは彼女の叫びだろう。
たまに都合よく現れるので、どっかでここの会話を聞いてるんだろう。
「今しがた埋めがたい溝ができたところだよ」
身震いしながら俺は言う。
白い目でトントンさんを睨むのも忘れない。
「そんなのは私の豊満ボディで埋めちゃうんだから♪」
だがトントンさんにそんなものが通じるはずもなく、俺は捕まって彼女の肉に埋められてしまう。
「むぎゅぅ!」
うおぉ! 息苦しいい!
肉が! 肉がぁ!
「ちょっとキキちゃんは頭に血が上りすぎね♪ そんなんじゃ自慢の賢い頭もうまく動かないわよ♪」
バタバタと抵抗を試みるもやはり通用せず。彼女は痛痒を感じてはいない。
「それにマダムも♪」
「ふぎゅぅ!」
見えないがどうやらマダムも捕まった様子。
曲がりなりにも上司だろうに……。
「余裕がないのは分かるけど、冷静じゃない子の癇癪くらい笑って流さなきゃでしょ? いつもの貴女はどこ行っちゃったのよ♪」
「「もがもが」」
そんなことより息をさせてくれ!
取り込まれちゃう! トントンさんに取り込まれちゃうよ!
「まずは話し合いすることが重要よ♪ ケンカなんて些細なすれ違いが原因なんだから♪」
多分いいこと言ってるんだろうけど、入ってこないんだよなぁ!
物理的にも心情的にもだ!
今俺ってどこの部分に埋まってんの?!
「あの……トントン姉さん。二人を離してあげてください。息ができないみたいです」
ナイスフレアさん! 救世主だよ!
「あら?」
その惚けた声とともに解放される俺。
ぷはぁ! 溺れるところだった! 肉に溺れるところだった!
エロい意味ではなく物理的な意味でな!
横目で見るとマダムも荒い呼吸を繰り返している。
しかもちょと化粧が落ちちゃってる。
……少し顔色悪いか?
マダムを観察しているとふいに目が合う。
俺は気まずくてつい目を逸らしてしまう。
「……何を話し合うんだよ」
ぶっきらぼうになってしまったのは、未だに精神が揺さぶられている故か。
「まぁ、キキちゃんたら拗ねちゃって♪」
トントンさんはそう言いながら、いやんと頬に手を当てて体をくねらせる。
「……もう、話し合うことなんてないわ」
意外にもマダムが不貞腐れたように口を尖らせて言う。
「マダムもいい歳して拗ねても可愛くないわよ?♪」
「ふん……」
マダムもトントンさんにかかれば形なしなのか。
どう言う関係なんだろうな? この二人は。
俺が二人を見ているとルナがニヤニヤした顔で覗き込んでくる。
『いい歳して拗ねても可愛くないらしいよ?』
うるせぇ。身体は幼女だからいいんだよ。
俺はおっさんと幼女をうまく使い分けるハイブリット生命体なのだ。
『さっきまで、全然上手く使い分けられてなかったね?』
その辺はお前の不手際じゃないの? 幼女が強まるとか初期不良じゃね?
『強まるのは幼女と言うよりも、ネガティブメンヘラかな?』
生きづらい! 男のネガティブメンヘラは人生ヘルモード!
なぜあの陽キャ全開の両親から、かくも罪深い生命が誕生したのか……。
『ふむ。安定したのかな? あんまり魂に負荷をかけないでほしいね?』
そう思うならデバックしてくれよ。
俺の切実な頼みにルナは、そのうちねといって姿を消す。
「はぁ。仕方ないわね。マダムがこんなだから私の口から説明するわね♪」
その間もマダムを説得していたトントンさんがマダムの説得を諦めて俺を見る。
「まず、マダムが手を打たなければ、キキちゃんの周りの人達は全員死んでいたわ。もちろん私達も」
真剣な顔でトントンさんが言う。
そ、そこまで?
「それをマダムがなんとか王虎君一人で済む様に命懸けで頑張ったのよ? 彼一人なら捕まっても大事には至らないから」
命懸け……それでマダムの顔色が悪いのか。
しかし王虎一人なら大事に至らないってのはなんでだ? あと、なんでマダムは命をかけることになったんだ?
トントンさんにそう聞くが、それよりもとスルーされてしまう。
「それだっていうのに貴女達ったら、こんな大変な時にフレアと健全な治療行為に勤しむもんだからマダムも苛ついちゃったのよ?」
【速報】マダムが苛立っていたのはどうやら俺のせいだった模様。
『女といちゃついて待たせた挙句、命をかけてくれた女性に恨みつらみをぶつけるなんて、とんだクソ野郎だね?』
おい、やめろ下さい。返す言葉もないです。
『今どういう状況かわかってんのか? これは先ほどの君の言葉だね?』
うるせぇな。思っただけで言葉に出してねぇよ。
『ブーメランって知ってる?』
ちょっと黙っててくれる? 今大切なこと考えてるから。
俺は背中に流れる大量の冷や汗を感じながら、とりあえず土下座かなと考えるのだった。
お読みいただき有難うござます!
ちょっと主人公がウザすぎたので、もしかしたら修正するかもしれません。
そうなったらごめんなさいです。
こうならない様に先週フレアさんと治療したんだけどな……?
なんでだろう?




