2章 48話 「急がば回れ。急いで回れって話」
どうもこんにちは、キアーラ・カサッツァです。
巧遅は拙速に如かずと言う言葉があります。
これは丁寧に時間をかけて仕上げるよりも、期限内に多少拙くても素早く仕上げろと言う意味です。これは本当にそう思います。
変にこだわりを見せて、最終的に仕事が仕上がらないことで、その後の尻拭いが地獄のデスマーチになる事が多いからです。
変にこだわりを持つ奴は大体自分は真面目だからと言い訳します。
プロは目標を達成してこそのプロで、それが厳守されない事こそ不真面目なのに。
目標達成のために行うことは犯罪でもない限りは全てが真面目な行動なのです。
真っ当で正当で正しい行動なのです。
つまり締切前にあえて寝ることも目標達成に向けた真面目な行動なのです。
「はい。こちらに匿っています」
パピヨンの庭に溢れる大人数を見て呟いた俺の質問に答えてくれるフレアさん。
何人か見た顔だったから気づいたが、どうやら本当にスラムの人間だったらしい。
老いも若きも疲れた顔で座り込んで項垂れている。
ん___?
大勢でひしめく庭を見てふと違和感を覚える。
あぁ。そうか。この場では当たり前の光景だから一瞬わからなかった。
「女性だけしかいない?」
「はい、女性だけです。パピヨンは男子禁制ですから」
娼館で男子禁制とはこれいかに。
たしかにパピヨンは顧客以外の男性は出入り禁止だけど、こんな緊急事態でも厳守するとは……。
「男達はどうしたんだ?」
「それについてはマダムから説明するとの事です」
済まなそうな顔をしながら言いにくそうにするフレアさん。
ふむ。きっとマダムに言っちゃダメだと言われているんだろうな。
まぁ、フレアさんは余計なことまで言っちゃうからな。
マダムからしてみたら計画が狂っちゃう事がままあるだろうし、情報規制も宜なるかな。
聞き出したい気持ちはあるけど、そうしたらフレアさんが板挟みになって可愛そうなので、大人しくマダムに聞くことにして話題を少し変える。
「女性だけって言ってたけど、それでもこの場にいるのはスラムの奴ら全員じゃないよな?」
再度周りを見回してみるが、考えてみればそこそこ大きく女性だけとはいえ、スラムの人間の全てを収容出来るほどにパピヨンの庭は広大ではない。
まぁ、それでも庭の隅が見えないほどには沢山の人間がいるけど。
「はい。流石に全員を匿うことはできません。ですからうちの家族と、家族と縁のある者を優先的に……」
おぉう。話を変えたけどまたまた言いにくそうにするフレアさん。
自分のところの人間を優先的に匿ったことに罪悪感を抱いているのだろうが、でもそれは仕方ないことだと思う。誰だって自分の所を優先するし、それを責めることはできない。
それに俺を見て目を見開いているメンツが何人か見受けられる。
彼女達は俺のチームの人間で、たしかパピヨンとは関係なかったはずだ。
それでもちゃんと匿ってくれてる。ありがたいことだ。
「ありがとうな」
俺がメンバーを指差しながら礼を言うとフレアさんは驚いた顔をしたあと俯いて「いえ……」と呟く。顔が心なしか赤くなっているが、俺の方が背が小さいので俯くことで逆に丸見えなんだよなぁ。多分あのメンバーを助けてくれたのはフレアさんなんだろうな。だから照れていると。エモォ。
ちなみにメンバーが俺を見て驚いてるのは、俺がボコボコに殴られて腫らした顔面をしながら、レイプされかかってビリビリになった服を着ているからだな。一応車に乗っている最中に応急処置はしたんだけどね? ポーションじゃないと後遺症が残るかもしれんくらいには酷い怪我ぽいからそりゃ見たら驚くよね。
いくら俺がチームの影のリーダーと言っても彼女達からしたら幼女であることには変わりないからな。幼い女の子がこんなになってりゃ心配もするだろう。
最近は昔と違ってスラムも平和になってきて、ボロボロの子供も減ってきた矢先の出来事だからひとしおだろう。だと言うのに、全くもってやってくれたよ……。これを仕掛けたやつには必ず報いを受けさえてやる。
「いてっ!」
俺が決意も新たに拳を握り締めると、わりかし鋭い痛みが襲ってきた。
多分ヒビ入ってんじゃねぇ? もうボロボロのボーロじゃんね?
後でちゃんと治療しなきゃなぁ。このままじゃ家にも帰れないからね。多分家族みんなぶったまげて失神しちゃうよ。
「この後すぐに治療しましょうね?」
俺が痛みに顔を顰めていると、フレアさんが俺の体をさすりながら言ってくる。
……あれ? なんか目の奥にハートマークが浮かんでるよ? さっきまで照れてただけだったのになんでぇ?
「そんなに怪我をしているのに、私やあの子達の心配をしてくれるなんて……尊い」
いや〜、大袈裟すぐるでしょう?
ぶっちゃけ魔物がいるこの世界では、これくらいの怪我は日常茶飯事とまではいかずとも稀によくある事で、死ななきゃ安いの世界ですよ? そんなに尊くないですよ?
俺はなんか連れ去られそうな感じがしたので、話を戻す。
「しかし家族の縁者だけとはいえ、それでも全員をここで面倒を見るのは無理じゃないのか?」
「ええ。流石に全員は無理でしたので、今はパピヨンで働いていない家族にも匿ってもらっています」
なるほど。たしかここで客を取っているメンツ以外にも職を斡旋しているんだったな。
さまざまな業種に食い込んでいるそのメンバーのところでも引き取っていると言うことか。
だが、いくら身内とはいえずっとは面倒は見れないだろう。その辺はどうするんだろうか?
うちのメンバーもここでずっと面倒を見てもらうわけにはいかない。
早急に対応が必要だ。なにから手をつけるべきか?
「その辺りはマダムにお聞きください」
パピヨンはどう考えているのかフレアさんに聞くとその様な回答が得られた。
そりゃそうか。こんなところで立ち話する様な内容ではないな。
それじゃあ、急いでマダムと面会と行こうかね?
そう思って建物内に入ってマダムの部屋に行こうとしたところで、服を引っ張られる。
「マダムのところに行く前に治療をしましょう」
フレアさん俺を引き止める。心配はありがたいが治療する時間も惜しい。
これくらいの痛みなら耐えられるし、捉えられた奴らも助けなきゃいけない。
やらなきゃいけない事は腐るほどある。治療はそれらが終わってからで良い。
俺がそういうとフレアさんがしゃがんで俺に目線を合わせながら言ってくる。
「身体の傷もそうですが、心の傷も癒さなくてはダメですよ? どちらの傷も出来立ては自覚がなくても後々に引きずる大事に至るものですから」
その表情はいつものポンコツなものではなく、慈しむ様な母性を感じられる様なものだった。俺がその表情に見惚れているとふわりと頭を胸に抱かれる。
「迅速に事をなさなければならないと焦る気持ちはわかります。私たちも全員の家族を守れたわけではないですから。でも、今必要なのは拙速ではなく巧遅ですよ? 貴女が万全になる事こそが近道です」
ね? そう言ってニコリと笑うフレアさん。
気持ちがわかると言っている通り自分も焦燥感を抱いているだろうに。
それを感じさせない笑顔を見てなんだか肩の力が抜けたような気がした。
そして……フレアさんに抱き抱えられる。獣人であるフレアさんにかかれば幼女の俺を抱えるなんて朝飯前だ。
「じゃぁ、治療しましょうねぇえ?」
あれ? 瞳のハートが戻っているよう?なんでちょっと息が荒いのかなぁ?
そんな場合ではないですよ?
そう思って引き剥がそうとしたところでフレアさんの瞳が揺れる。
あぁ……。なるほど。気持ちはわかるって事は、フレアさんも焦って不安な気持ちを抱いているってことだ。マダムの側付きとして毅然と今回の対処をしていたが、その心労は押して測るべし。そしてそれをすぐに見抜けなかった俺も冷静なつもりでグッチャグチャなんだなぁ。フレアさんの不安が加速してしまう程度には。
「はぁ。じゃあ、治療を先にしちゃいますか」
俺がため息と共にそう告げるとフレアさんがパッと花咲くような笑顔で返事をする。
「よろしくお願いします!!」
この後めちゃくちゃ治療した。
その後ずっと部屋で待っていたであろうマダムのなんともいえない表情が印象的だった。
お読みいただき誠にありがとうございます!
最近はYoutubeでVtuberをどんどん開拓していっている作者ですが、アングラであればあるほど面白いですね。
知らない世界詳しくない世界の裏話や、従事する人の考え方がわかって楽しいです。
それに少し演技をかじっている人が見れば、完全に演じているタイプの方でも、滲み出てくる人間と本性が隠しきれてなくて、それを見抜くのを楽しめたりして興味深いです。いま嘘をついたな!キュピーン!みたいなw
でも一番面白いのは人間をVが侵食して乗っ取っていっているのを見るのが面白いです。これも肩書きが人間を作ると言えるのでしょうかね?
うちの主人公も幼女をやってますが、見る人がみれば一瞬で看破されるでしょうね。いつか幼女という肩書きが侵食するのでしょうか?




