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東方奇縁譚  作者: 久櫛縁
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第二百二十八話『男二人』

やはり、気楽だ。うん


「……うん、流石緋々色金。劣化や刃こぼれはなし、と」

「そりゃよかった」


 今日、僕は香霖堂に赴いていた。

 以前、森近さんに作ってもらった草薙の剣・レプリカのメンテのためだ。なにせ、核融合の炎とか鬼の攻撃を受け止めたりしたからな……見た目は大丈夫そうだったけど、念のため見てもらっているのだ。


「まあ、ある程度なら自己修復するからね。そんなに心配することはないよ」

「……伝説の金属すげえ」


 鞘に収められた剣を受け取りつつ、今さらながらこんなブツを僕が持っていていいのか、と思う。まあいいか。


「さて、お茶くらい飲んでいくかい?」

「あ、お願いします」

「じゃあ、少し待っててくれ」


 森近さんのお茶の淹れ方は年季が入っていて、とても美味いのだ。しかも、色んな茶葉をブレンドしてオリジナルのお茶を淹れたりするので、当たり外れはあるものの珍しい味が楽しい。

 ありがたく御馳走になることにして、僕は奥に引っ込んでいく森近さんの背中を見送った。


 ふむ、待つ間、香霖堂の店内でも見るかね。


「しかし……また増えたな」


 元々、物が多すぎて手狭な店だったが、明らかに商品が増えて空間を圧迫しまくっている。森近さんのなんかインチキしてるんじゃないかと疑いたくなるような整頓術がなければ、とっくに足場も見えない状況になっていただろう。というか、そこらの商品に下手に触れると、雪崩を起こしそうな嫌な予感がひしひしとするぞ。

 売れてんだろうか? 増えてる一方な気がするんだが。


 うーむ、森近さんにはお世話になっているし、売上に貢献してみるか?


「ふーん」


 何かを買うつもりで商品を見ると……これがなかなか目移りしてしまう。

 商品のラインナップはカオスだ。里の人達が使うような日用雑貨があるかと思えば、その横にサン○オのキャラクターグッズがある。さらに目を横にスライドすると昔懐かしの黒電話やあからさまに故障している洗濯機が鎮座してる。

 他にも昔の漫画雑誌が雑多に積まれてたり、あれはベータビデオか? こ○亀で見たぞ。あと、あの鯖缶絶対腐ってるだろ、膨らんでるし。


 とりあえず……ここは何屋だっけ? もはや『香霖堂』という新しい店のジャンルを開拓せんばかりの品揃えだった。しかも、頼めばオーダーメイドで服やら道具まで作ってくれるのだ。


 ……あの人は一体どこに行くつもりなんだろう。


 なんて森近さんの未来に思いを馳せていると、当の本人はしれっとした顔で戻ってきた。手に持ったお盆には急須と湯のみが二つ。


「お待たせ。今日のはちょっと自信作だよ」

「あ、どうも」


 手ずからお茶を注いでもらい、まずは一口。


「うっ」


 思わず呻いてしまった。すげー苦い。でも、森近さんはなんか平気そう。


「どうだい、お味は?」

「なんていうか……苦すぎます。本当に自信作なんですか、これ」

「そうだよ。僕はこういう味はけっこう好きなんだ。それに、身体にいい葉を混ぜているんだよ」


 言葉通り、森近さんは実に美味そうに茶を啜っている。

 試しにもう一口含んでみるが……いやいや、これは僕には難易度高すぎる。せめてお茶菓子はないのか。……ないか。


「冷ますと飲みやすくなるよ。ゆっくり飲むといい」

「……なら初めからぬるめで淹れてくださいよ」


 言われたとおり、フーフーしながらゆっくり飲む。……ああ、でも、慣れるとこれはこれで悪くないかも。

 なんて味わっていると、ふと思いついたように森近さんが口を開いた。


「そういえば、霊夢に頼まれてた服の仕立て直しが終わったんだ。帰り際に持って帰ってくれるかな」

「はあ……構いませんけど、仕立て直し?」

「ああ。背が伸びたらしいね」


 ……伸びたのか。正直、あいつはもう成長止まっているかと思っていた。


「しかし、相変わらずなんで森近さんに……。里の服屋で頼みゃいいだろうに」


 第一、いかに森近さんとは言え男だぞ、一応。服のサイズとか知られて平気なのか、あいつ。……平気そうだな。


「そりゃ、うちはツケが効くと思われているからね」

「もう、ほんっとすみません」

「ははは……君が謝ることじゃないよ」


 と、森近さんは乾いた笑い。霊夢には相当ヤられているようだった。


「でも、なんだかんだで引き受けるんですよね。断わりゃいいのに」

「そう出来たら苦労はない。霊夢は、僕が断ろうとするたびに珍しいものを持ってきたりするんだよ。それが、丁度僕が興味を持っているものだったりしてね」

「……空恐ろしいですね」


 相変わらず何者なんだ、霊夢は。


「それに、これは魔理沙もだけど、小さいころを知っているからね。なんだかんだで、断りづらい」

「へえ」


 そういや、すっかり忘れかけていたが、森近さんは半妖で見た目より年齢は上だ。当然のように、霊夢や魔理沙の子供時代を知っているはずなんだが……なんだろう、あの連中の小さい頃は全然想像つかない。

 昔、魔理沙が私に挑むのは十年遅いぜとかなんとか言っていたが、十年前でも普通に妖怪退治をしていそうなイメージだ。


「二人の子供時代ってどんな感じだったんですか?」

「そうだね……」


 と、森近さんは少し悩む。昔を回想しているのだろうか……


「……手足が伸びた以外、二人ともあんまり変わっていないかな。物心付いた頃には、あんな性格だった」

「なんか、考えてたとおりですね」


 しかも手足ってことは、胸も変わっていないのか。ハハハ、そんなこったろーと思った。


「ああ、でも魔理沙の魔法の腕前は、上達しているよ」

「霊夢は?」

「あの子は……最初に会った時から、妖怪を普通にノしてたな……」

「やっぱりですか」


 あの天才肌め。……って、ん? 物心付いた頃?


「あの、森近さん? 霊夢の両親って何やっている人なんですか? 会ったことないんですけど」


 魔理沙は、里の道具屋が実家だ。人気の店で、僕もよく買い物に行くが、魔理沙は寄り付かないらしい。

 でも霊夢はあの里から離れた神社に一人暮らし……。里に親がいるって話は聞かないし。昔は疑問に思ってたけど、いつの間にかまあいいやと思っていた。


「さあ……それは僕も知らない。霊夢は昔から博麗神社にいたからね。さて、いつからだったかな」


 とぼけているのではなく、本当に知らない様子で森近さんが頭を悩ませる。

 ……なんだろう、そろそろ長い付き合いになるのに、霊夢って謎な奴だ。


「本人に聞けば良いんじゃないかい? もしくは、紫さんなら知っていそうだけど」

「聞いても絶対にはぐらかされます。まあ、別にいいんですけど」


 気にならないと言えば嘘になるが、知ったからと言って、だからどうなんだという話だし。大体、僕は連中の実年齢すら知らないぞ……ここがエロゲの世界なら十八歳以上なのは間違いないんだが。


「そうか。君がそう言うならそうなんだろう。さて……お茶のおかわりはいるかい?」

「もらいますけど……次はもうちょっと飲みやすいものをお願いします」

「了解だ」


 と、森近さんは奥に引っ込んでいく。


 馬鹿な事を聞いたかな、とちょっとだけ思った。


















 んで、数時間後。僕はまだ香霖堂にいた。

 いつの間にかお茶からお酒にシフトし、森近さんが漬けたという漬物をつまみにぬる燗をちびちび飲んでいる。


 くだを巻きながら、僕と森近さんはくだらない話で盛り上がっていた。

 ようやく就職した僕の近況、森近さんが最近拾った外の品について、昨今の幻想郷事情、お茶に最適な茶菓子はなにか、そして、最近の香霖堂の売上状況に付いて。


「ここ一ヶ月ほどはあまり売れなくてね。僕は殆どお金を使わない生活をしているけれど、そろそろまずくなってきた」

「そんなことだろうと思っていました。じゃあ、僕がなにか買いましょうか。あそこのからくり人形とか」


 別に僕はいらないが、フランドール辺りの土産にはよさそうだ。


「あれは非売品だよ」

「じゃあ、そこのクラシックなカメラとか」


 壊れているかも知れないが、外に持ち帰って修理すりゃ売れるかもしれん。もしくはにとりとかに渡せば喜ぶかも。


「それもお気に入りでね……。可動品だから、たまに近所に撮りに行くのさ」

「……それなら、そこのウォータードリッパーでいいです」


 水出し珈琲を淹れるのは大変だけど、インテリアとしても使えそうだ。


「悪いね、僕はたまにそれで珈琲を飲んでいるんだ」

「売る気あるんですか?」

「勿論。幻想郷広しと言えど、僕ほど商売っ気のある人間はそうそういないよ」

「せめて非売品は纏めて奥にしまってくださいよ。紛らわしいじゃないですか」

「そうしたいのは山々なんだけど、既に私室は一杯になっちゃっててね。店に置くしかないのさ」


 くい、とお猪口を傾けて、しれっと森近さんが言う。……どの口で商売っ気を語るんだろうか。この人に比べれば、まだ菓子店を出してる僕の方が商売人に向いてるぞ……

 というか、料理人にでも転職したほうがいいんじゃないだろうか。漬物美味い。酒にも合う。


「でも、そうだね……買ってくれるというなら」


 ごそごそと、森近さんは手を伸ばして一つの品を見せる。


「この奇妙な花なんてどうだろう? 金属製で、なんでも『音に反応して踊る』という珍種なんだけど。しかし、どういう音を出しても反応しないんだよね」

「……あったなあ」


 そんな昔の玩具を持ってこられても困る。ていうか、絶対壊れているだろう。


「もうちょっと実用的なのは無いんですか?」

「実用的ね……服なんてどうだい?」


 あ、それはいいかもしれない。私服、あんまり持ってないし。それに、向こうの服はこっちじゃ浮くし。幻想郷風の服があればいいかも、とは思っていたのだ。ただ、服にあんまりお金を掛けたくない人間なので、のびのびになっていたけど。


「見せてもらえます」

「ああ。これだ」


 ……ええと。


「……なんですか、その服」

「僕の能力で読み取ったところ、『学生服』だそうだが」


 違う! 学ランは学ランだけど、ジス・イズ・バンカラファッション! 着れるか!


「残念だけど、僕にはサイズが合わなくてね。どうだろう?」

「着る気だったんですか!?」

「僕も、着たきりスズメだしね」


 うわあ……まあ、似合う……のか?


「……やっぱ結構です」

「おや、残念」


 あんまり残念でもなさそうに森近さんは肩を竦めた。


「おや、良也くん。お酒が空じゃないか。どうぞ」

「……どうも」


 な、なんかどっと疲れた。酌を受けて、酒を呑む。森近さんのも空いていたので、酌をした。


 ふと話が途切れる。でも、別に居心地の悪い沈黙ではない。

 しかし、まあ、なんだな……


「なんていうか……楽ですね」


 ふと、唐突に口にしていしまった。


「ん? なにがだい?」

「いや、男同士って楽だなあ、と。いつも一緒飲んでいる連中は、ほらアレですから……楽しいは楽しいですけど、疲れます」


 森近さんは得心がいったように笑う。


「それは、体力使うだろう。うちにもたまに妖怪の客が来るけど、変なのが多いしね」

「そうですね」


 さりげなく自分を棚上げしてませんか? と突っ込みたかったが、あえて無視した。

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