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東方奇縁譚  作者: 久櫛縁
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第二百二十七話『妖精の現れた日』

……人がしんどいときにちょっかいかけてきやがって

「そいや良也」

「んー?」


 それは人里の飲み屋で一杯やっていた日。

 偶然、里で出会って一緒に飲んでいた魔理沙が、つまみの煮物に舌鼓を打ちながら、ふと話題を振ってきた。


「聞いたか? 馬鹿チルノと三馬鹿(三妖精)の話」


 ……馬鹿だけでわかるのが嫌だ。


「なんのことだ?」

「連中、このまえやりあったみたいなんだけどな。なんか妖精大戦争とかつって、武勇伝っぽくそこらじゅうに自慢してるぜ」

「……初耳だな」


 しかし、大戦争て。チルノとサニー達じゃ、どう頑張ってもガキの喧嘩がせいぜいだろ……。チルノとほぼ互角な僕が言うんだから間違いない。


「んで、調子に乗ったチルノがこの前、私に喧嘩吹っ掛けてきてなー」

「……ちゃんと手加減してやったか?」

「なんだと? 良也、お前私を何だと思っているんだ」


 あ、流石に子供相手に本気は出さないか。うんうん、魔理沙も流石にそこまで大人気なくはな――


「弾幕ごっこで手を抜くのは性に合わない。きっちり全力で相手してやったぜ」

「鬼かお前は!?」


 ち、チルノ相手に魔理沙が本気て。獅子は兎を狩るのにも云々ってレベルじゃねーぞ。幻想郷の兎は妙に強いけど。


「私ゃ鬼じゃないぜ。萃香が聞いたら怒るぞ。……でさ、それがけっこうやるもんでさ」

「あー、調子良い時だったのか」


 チルノの場合、異変時とかに顕著なんだが、強い時と弱い時の差が激しい。平均が僕と同じくらいなのだ。


「ま、妖精が元気なのは平和の証だな」

「里への悪戯はやめて欲しいけどなー」


 カラカラと笑いあう。飲み屋で飲んでいる他の人達も、まったくだと頷いていた。


「あ、すみません。酒のおかわりと、里芋の煮付けください」

「私も焼酎追加。ついでに、ヤマメ焼いてくれ。せっかくの奢りなんだからな」

「……少しは遠慮しろよ?」


 そこで、その話題は終了。里の飲み屋で、僕と魔理沙は思う存分に痛飲した。


 うん、実にわかりやすい前振りだった。
















 そして、次の日。飲み過ぎた僕は、見事飲み屋で朝を迎えた。んでまあ、霊夢への土産にでもと、里でお菓子を購入して家路についたのだが、予想以上の二日酔いだった。飛んでたらまた気持ち悪いくなってきた。

 魔理沙の奴め……呑ませ上手な。うっぷ……


 そして、そんなにいっぱいいっぱいだというのに、


「……で、なんだって?」


 帰り道に四匹の子供に通せんぼされていた。

 あー、二日酔いで頭がガンガンするのにやかましい連中に捕まった……


「ふっ、今日からこの幻想郷はあたいたちのものだ! これから、戦争を仕掛ける。でも、腹が減っては戦はできないからね!」


 と、先頭でけたたましく騒いでいるのはチルノ。

 そして、その後ろには――


「ちょうどいい具合にお菓子を持った人間が通りかかったから」

「さあ、私たちの弾幕を食らいたくなければそいつを置いていきな」

「ジャンプしろー」


 サニーミルク、ルナチャイルド、スターサファイアのおとぼけ妖精三人組が舎弟っぽく声を上げていた。


 ……うーん、大ちゃん、大ちゃんはいないか。妖精の良心。……いないか。はあ……疲れてんのに。


「……まあ待て。いつからお前らつるみ始めたんだ?」

「ふん、つるんでなんかいないよ。この前、あたいが勝ったから子分にしてやったんだ」


 えっらそうに胸を張るチルノ。しかし、サニーとルナはともかく、スターはお前には御しきれないと思うぞ……地味に要領のいいやつだし。


「ま、人間と妖怪相手の戦争も、最強のあたい一人でじゅーぶんなんだけどね! まあ、親分だし!」

「いよ、親分!」

「カッコイー!」


 てんやわんやと……。ウゼェ。テンション高けーんだよ。二日酔いの日じゃなけりゃ微笑ましいんだろうが。


「と、言うわけで光の三妖精改め、妖精四天王を結成したというわけ」

「あっそう……」


 スターの補足に、僕は項垂れたように頷くしかなかった。なんつーか……なんなんだ、こいつら。全体的に。


「で、やってることは菓子のカツアゲか? みみっちいつうかなんつーか……」

「カツ揚げ? なに、揚げ物なの、そのお菓子?」


 馬鹿だ、馬鹿がいる。こんなんが親分で大丈夫か。あ、四天王筆頭と言ったほうがいいか? でも、最近四天王って聞かないよね。


「熱いのは苦手なんだけど……まあ、冷ませばいいか! お前たち、ちょっと下がってな! こんな人間、あたい一人でやっつけてやる!」

「……はあ~~」


 チルノが喧嘩腰なのはいつものことなのだが、相変わらず面倒臭い。下手に逃げるとしつこいし、しかも向こうは四人だから囲まれると逃げられそうにないし。


「まあ、ちょっと待て」

「へん、待ったは聞かないよ! 凍らせてやる!」


 ぬおっ!? いきなり撃ってきやがった!


「待て待て待て!」

「待ったなしさ!」

「菓子が潰れるから! それでいいのか!?」


 ――あ、とチルノは呟いて、バツが悪そうにそっぽを向いた。


「は、早く置いてきなよ」

「おう」


 僕は、深い深い溜息を付きながら、地上に降りて荷物を置くのだった。このまま逃げ――さすがに無理か。


 さて、と。……面倒臭いなあ。
















 ちなみに、今日はたまたま……本当にたまたま、火符を十枚位持っていたりなんかしちゃったりして。

 二日酔いで頭痛いし面倒なので、火符火符火符火符火符の連打で、チルノを打倒した。ひゅるー、と落ちていって、今は地上でぴくぴくしてる。


 アイツの場合、直接当てなくても熱いのが近くにあるだけで力落ちるので、楽勝だった。今日は調子良くない日だったみたいだし。


 ふう。


「……で、お前らもやんの?」


 ビクッ、と三妖精が反応する。

 んで、ヒソヒソ声が聞こえてきた。


「ど、どーする?」

「どうするもなにも……チルノがやられちゃったんだから、大人しく逃げたほうが……」

「うーん、氷の妖精を炊きつけて、簡単にお菓子ゲット作戦が……」


 なに、その安易な作戦名。


 なんて心で突っ込んでいると、連中がちらり、とこちらに視線を向けた。なんだ、と思うとまたしても内緒話に戻る。いや、聞こえてるんだが。


「なんか今日のアイツ不機嫌っぽいよ」

「酒臭いし、どうせ二日酔いかなんかよ」


 スター、正解。


「じゃ、じゃあ、下手に弱気なところを見せたら襲われるかも」

「こわっ、変態!」


 突っ込むのも面倒くせ―。このままスルーして行っちゃだめかな?


「よし、じゃあ強気に行こう。ええと」


 と、サニーが悩む。重ねて言うが、ここまでの会話丸聞こえである。いつもの僕ならとっくにツッコミを入れているが、疲れているから入れない。余程のことがない限り、僕はスルーするつもりだ。


 んで、内緒話は終了で、ここからは意図的に聞かせるつもりなのか、やや大きな声で三人は喋り始めた。


「チルノがやられたようね……」

「ふっふっふ……あいつは四天王の中でも最弱……」

「良也ごときに負けるなんて妖精の面汚しよ!」


 ………………おい。


「……おらぁ!」

「わーー! 予告もなしに撃ってきた!」

「卑怯者め!」

「逃げるわよっ」


 全力で弾幕を撃つと、三妖精は慌てて逃げに走る。サニーの力で姿が消えて、ルナの能力で声も聞こえなくなったが、僕は構わず撃ち続けた。


「どっこで、そんなネタを仕入れてきた!? 頭痛いのにツッコミさせんなぁああああああああ!!」


 見えなくても、どっかここらへんにいるだろうって場所に弾幕を張る。元々、狙いなんぞあまりつけない霊弾だ。当たりゃめっけもん。

 ……そんな感じで五分位撃ち続けたが、結局手応えはなく、くたびれもうけとなった。


「……くっそ。無駄な体力を」


 我ながら本当に無駄な体力を消費した……。博麗神社に帰って二度寝しよ……


 痛みの激しくなった頭をかきながら、地上に置いたお菓子を忘れずに回収するため降りる。菓子のすぐ傍では、チルノが相変わらず倒れていた。


「おい、こんなところで寝てると風邪ひくぞ」


 氷の妖精が風邪を引くのかという話もあるが。いや、そもそもなんとかは風邪を引かないわけで、チルノみたいな筋金入りのなんとかは一生風邪に縁はないかもしれん。

 でもまあ、チルノとはこれでも友人のつもりなので、社交辞令的に心配してやる。


「う、うーん……はっ!?」

「おはよう」

「りょ、良也! これで勝ったなんて思わないことね」

「起き抜けにそれかよ……」


 面倒くさい奴である。


「……ところでいいのか? 子分たちは逃げちゃったけど」

「ええ!? あいつら~~。親分を無視して行くなんていい度胸じゃない」


 ああ、結局利用されるだけされてぺいっと見捨てられたよな。そう考えると、若干哀れを誘う。

 ふむ……


「ほれ、この羊羹をくれてやる」

「え? いいの?」

「まあ、勝者からの施しだ」

「ふーん、まだあたいが勝ち越してるもんね! ええと……十戦七勝三敗?」


 指を使って数えるチルノだが、ちなみにこいつに喧嘩をふっかけられた回数はとっくに両手で数えられる数を越えている。最新十回しか覚えちゃいないのだ。

 ちなみにトータルだと……いや、それでも僕が若干負け越してるか?


「ってわけで、敗者からのけんじょーはちゃんと受けてやらないとね」

「あー、もう勝手にしろ……」


 包装を破り、チルノはむしゃむしゃと羊羹を頬張り始めた。……良くお茶もなく食えるな、おい。

 でも、身体の小さいチルノは胃も小さいのか、三分の一程食べたら残りをポケットに突っ込んだ。


「くっそ、あいつらー! こうなったら、第二次妖精大戦争の始まりよ」

「……大ちゃんに心配かけんなよー」


 あ、もう聞いてねえ。ぴゅー、と飛んでいったチルノを見送り、はあ、と大きくため息を付いた。


 あ~、くっそ。色々動いたせいか、吐きそう。唾がいっぱい出てきた。

 一回吐いとくか。楽になるだろう。


 と、僕は草むらにいそいそと向かい、喉に指を突っ込むのだった。











 ちなみに、その日のうちに始まった第二次妖精大戦争とやらもチルノの勝利のうちに収まり。

 調子に乗ったチルノが霊夢に喧嘩をふっかけ、あっさり返り討ちになったとか何とか。

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