EPISODE08. 初公演、大成功。
2025年3月8日。
後ろのドアに黄色いステッカーが貼られた青いミニバス一台が、ガタガタと音を立てながら道路を走っていた。
運転席にはハミンが座り、体をハンドルにぴったりと寄せ、頭を前に突き出したまま、楽しそうに歌っていた。
助手席に座ったヨハンは、ドアの上の取っ手をしっかり握りしめ、呆れた表情でハミンを見つめていた。
「おい。姿勢を直せ… それとも歌は歌わずに、運転に集中しろよ。」
「オール・ソウ・ブレイキン・マイ・ハート… え? 何だって?」
歌を止めたハミンが振り返り、ヨハンを見つめた。
ヨハンはそんなハミンを見て仰天し、叫んだ。
「おい!前を見ろ、前!」
ヨハンの叫びに再び前を見たハミンが、ぶつぶつと呟いた。
「自分で歌わせといて…」
ヨハンは鋭い目つきでそんなハミンを見つめながら言った。
「おい、運転は俺に任せろって言っただろ?」
「おい、お前は自分の妻を他人に任せられるか?俺の大切なヒルデを他人の手に渡すわけにはいかない!」
ハミンが悔しさをたっぷりと込めた声を上げると、後ろからヘジンの声が聞こえてきた。
「静かにして行こうよ、このバカども。」
ヨハンとハミンが同時に後ろを振り返った。ベースの弦を張っていたヘジンが、しかめ面をしていた。
「おい、いくらなんでもそれって酷すぎないか?俺がハミンと同じ扱いを受けるレベルなのか?」
「バカだって?ヨハンはともかく、俺は超スマートなんだぞ…」
ヨハンとハミンが同時に口を開き、再び互いを見つめ合って唸り合った。
「バカさが溢れ出ている間抜けたち。」
ヘジンはそんな彼らを見て、くすりと笑った。
「お兄ちゃんたち、言葉遣いをきれいにしようよ。子供じゃないんだから、大人になって何やってるの?」
ミニバスの後部ソファに半分寝そべって漫画を読んでいたウンビの声が聞こえてきた。
しばらく騒がしかったミニバスに平穏が訪れた。
少しすねたように静かに運転していたハミンが口を開いた。
「ところで、弘大に車を停める場所はあるかな?」
「どうかな。検索してくれる?」
助手席で鋭い目つきでハミンを見つめていたヨハンがスマートフォンを手に取った。
「どこかな。弘大の公営駐車場があるし、合井の公営駐車場もあるし、望遠の漢江公園駐車場?ここはちょっと遠いか?」
ヨハンが画面を素早く操作しながら検索を続けた。
「弘大の公営駐車場は空いてなさそうだし、合井に行こう。こっちの方が無難らしいよ。」
「ナビを。設定してくれ。」
ハンドルにぴったりと張り付いたハミンが、ヨハンにナビを目配せした。
「お前、どうせナビ見られないだろ。」
「俺の大きな目は180度見渡せるんだ。」
「このバカ…」
ヨハンは反射的に飛び出そうとした悪態を辛うじて抑え、後ろにうつ伏せになったウンビの様子をうかがった。
「ヨハン、ブタ!」
ウンビの声が飛んできた。
「なんで?」
「今、ハミンお兄ちゃんに悪口言おうとしたでしょ?」
「何言ってるの? そんなことしてないよ? もう耳が遠くなったの?」
ヨハンの小言を見ていたウンビが、持っていた漫画本を投げつけた。
ミニバスは平和だった。
***
合井の公営駐車場。
青いミニバスが、駐車されている車の間を何度も出たり入ったりしていた。
「おい、もう…そう、そう、そこでハンドルを最後まで切れ! いや、反対側だ、このバカ!」
後ろで駐車を手伝っていたヨハンが、大声で怒鳴った。
長々10分かけてようやく駐車を終えたハミンが、よろめきながら車から降りてきた。
「ハミンお兄ちゃん、お疲れ様。」
ウンビは床に崩れ落ちたハミンの背中を叩きながら、温かい声で慰めた。
「そうよ、なんで自分の実力もわきまえずあんなの買ったの?お兄ちゃん。」
温かい声でハミンの心を切り刻んだ。
***
ハンギョルのスタジオは、いつも通りタバコの煙で充満していた。
ハンギョルは隅にあるソファに横たわり、タバコをくわえていた。まだ火はつけていない状態だった。
ぼんやりと天井を見つめていたハンギョルが、突然体を起こしてコンソールの前へ大股で歩み寄った。
椅子に座り、ヘッドセットをかぶった。小さなMIDIキーボードを弾いた。横に置いたノートパソコンを操作した。
「よし、この感じだ。」
しばらく熱心に操作していたハンギョルが顔を上げた。
「ふぅ、やっと終わったな。しばらくは曲の依頼を受けないようにしなきゃな。」
ハンギョルが疲れた表情でつぶやいた頃、電子ドアロックの暗証番号入力音が聞こえてきた。
「こいつら、タイミングが本当にいいもんだな。」
ハンギョルはつぶやきながら出入り口の方を見た。ドアが開き、四人がスタジオの中に入ってきた。
「来たか?」
ハンギョルは笑って挨拶をした。
「換気でもしたらどうだ?」
ヘジンが顔をしかめて小言を言った。
「何しに来たんだ?楽器まで抱えて」
冷蔵庫から缶コーヒーを四本取り出しながら、ハンギョルが尋ねた。
「何しに来るって、遊びに来たさ。」
ハンギョルの手から缶コーヒーを一本奪い取ったヨハンが、くすりと笑って言った。
「ここへ?」
「うん、お前、今日忙しいって言ってたから、わざわざ来てくれたんだ。」
ハミンが得意げに割り込んできた。
「忙しいのに遊びに来るのか?」
「うん。もともと今日、俺たちの練習の日だろ。」
ヨハンが空中でギターを弾く真似をした。
「忙しいって言ったのに?」
「俺も忙しいよ。俺のカフェは365日営業だから。」
ハミンが顔をしかめてハンギョルを睨みつけた。
「お前、カフェには行かないじゃん。アルバイトを雇ってるって言ってたのに。」
「アルバイトは今ここにいるよ。」
ハミンがウンビを見つめた。
「 ハンギョルお兄ちゃん、こんにちは?ウンビはね~ハンギョルお兄ちゃんのサインが欲しくて来たの~。」
ウンビが体をくねらせながら、舌足らずな声を出した。ヨハンが後ろで吐き気を催すような仕草をした。
ハミンの険しい表情が、さらに険しくなった。
ハンギョルの顔が真っ青になった。
ヘジンは無表情で、そんな彼らを見つめていた。
「それで、練習しに来たのか? よくやったな、お前たち。」
ハンギョルが笑いながら言うと、ヨハンは首を横に振った。
「いや、公演しよう。」
ハンギョルは呆れたような表情を浮かべ、小指を立てて耳をかいた。
「聞き間違いしたみたいだけど、何て言ったんだ?」
ヨハンが笑いながらもう一度言った。
「公演。」
「公演?お前ら?そのレベルで?」
ハンギョルが顔をしかめてヨハンを睨むと、ヨハンは肩をすくめてハンギョルの肩の上に腕を乗せた。
「できないわけないだろ。」
「いや、俺、ハンギョルがこんなアマチュア連中と一緒に公演するって?」
「その通り、僕たちのハンギョリお兄ちゃんとは、同じレベルでパフォーマンスできる相手じゃないよ~」
まだ舌が元に戻っていないウンビが口を挟んだ。
ヨハンは不機嫌な表情でウンビを見つめた。
***
弘大。レッドロード。
ギターケースを背負ったヨハンは、通りの中央に立ち、通りを歩く人々を眺めていた。
「人多いな。おい、ギョル。本当に通報しなくていいの?」
「いや、ダメだ。」
ヨハンの言葉に、DJブースを設置していたハンギョルが振り返りもせずに答えた。
呆れた表情でハンギョルを見つめていたヨハンが、ハンギョルのところへ近づき、脇腹をツンツンと突いた。
「おい?ダメだったらどうするつもり?」
「でも大丈夫だよ。」
「何?」
「週末に公務員が働いてるの見たことある?土曜日は取り締まりに来ないよ。」
「あ!」
何か悟ったような表情のヨハンだった。
通りの上に鋭い音が響き渡った。
通りすがりの人々が顔をしかめ、音がした場所を見つめた。
真っ先に、中央には拡声器を持ち、白いアコースティックギターを背負った男性がいた。その左右には、小さくて奇妙な形の青いエレキギターを持った太った黒人男性と、金色に輝くベースギターを持った、白いクラシックスーツに白い中折れ帽を被ったスレンダーな女性が見えた。後方には黒い折りたたみテーブルが置かれており、そこには野球帽にサングラス、マスクを着用し、その上にマフラーまでぐるぐる巻きにした大柄で怪しげな人物が立っていた。
中央の男性が拡声器を口元に当てた。
[皆さん、こんばんは。美しい夜ですね。]
唐突な挨拶に、所々から笑い声が聞こえてきた。
[長い挨拶は省いて、早速始めましょう。]
男性の言葉が終わるやいなや、アンプからドラムの音が聞こえてきた。
低く重々しい音が一度鳴り、鋭い金属音と木と木がぶつかるような音が同時に一度鳴った。
低く重々しい音が二度連続で、金属音と木がぶつかる音が交錯しながら、ほぼ同時に聞こえてきた。
規則的だが微妙にずれたリズムが繰り返された。
ドラムのないステージから聞こえてくるドラムの音に、見物していた観客がざわめき始めた頃、誰かの声が聞こえてきた。
「あ! あそこのDJブース。」
後ろのテーブルの上に置かれた、小さくて黒いゴムの塊を叩く、顔を隠した大柄な人物が見えた。
人々のざわめきの合間から、低く速く、規則的なベース音が聞こえてきた。
白いクラシックスーツの女性が金色のベースギターを手に、華麗に指を弾かせた。
微妙にずれていたドラムの音の下に、規則的なベース音がオフビートで重なり始めた。
黒い肌のギタリストが静かに弦を弾いた。
聞こえそう聞こえそうで、ベースの音程とずれる小さな音。
拡声器を持った男性が口を開いた。
明かりの消えた窓の向こう、名もなき顔たち
笑ってはいるけれど、何も言わない
音の高低のない、低く荒い声が、拡声器特有の雑音と混ざり合って漏れ出た。
ざらついた質感の声で、歌わずに、ささやいているかのように、話しているかのように、無造作に呟いた。
ガラスカップに残った夜。冷めゆく温度
もう分かっている。夜が終わりつつあることを。
しばらく男性の声が止むと、ギタリストが前に一歩踏み出した。
聞こえそう聞こえそうで、かすかに囁いていた電子音が、はっきりと語りかけ始めた。
何のエフェクトもかけられていない、澄んだ音が聞こえてきた。
高い声で叫び、音を空にした。
低い声で囁き、余韻を流した。
エレキギターの音に合わせてベースギターが呼応した。
柔らかく、強く、柔らかく、強く。
二つのギターが交錯し、不釣り合いな一体となった和音を作り出した。
うつむいていた中央の男性が再び顔を上げ、拡声器を口元に当てた。
君の眼差しはいつも早くて、
僕の答えはいつも遅すぎた。
感情のない淡々とした声だった。
同じ言葉を、違うリズムで、
ずれてばかり、傷ばかりが積もった。
男性が拡声器から口を離すと、音が変わった。
エフェクトをたっぷりかけて歪んだ音を出す電子音と、疾走するドラムビート、その上に鮮明な存在感を放つベース音が飛び出した。
Smooth operator
互いをすり抜け、ぶつからない夜の軌跡のように
もはや静かに話すことはなかった。
荒々しく、怒っているかのように、ラップするように叫んだ。
Smooth operator
掴まえることも、逃げることもない。選択ではない方法。
歌う声の上に激しい電子音が一瞬重なり、徐々に消えていった。
Smooth operator
名前はなくても、僕たちは同じ夜を確かに越えた
ベース音が徐々に伸びて、消え去った。
Smooth operator
終わりじゃない。ただここで少し止まっただけ
ドラムの音が次第に遠ざかり、やがて静寂が残った。
拍手も、歓声もなかった。ただ、ぼんやりと催眠にかかったような観客たちの視線だけが残っていた。
男性が再び拡声器を手に取った。
他のメンバーたちが男性のそばに立った。
「こんにちは。私たちはバンド『ゴヨ』です。」
黒い肌のギタリストが拡声器の前に顔を近づけた。
「ハミン。」
顔をしっかりと隠した、大柄で怪しげな人物が拡声器の前に顔を近づけ、一瞬ためらった。
「ハンギョル。」
白いスーツを着た女性が赤い唇を動かし、
「ヘジンです。」
中性的な声。
観客から歓声が沸き起こった。
***
公演が終わる頃、笛の音が聞こえた。
「来たぞ、逃げろ!」
ハンギョルは簡易ブースを素早く折りたたんだ。機材がついたまま、そのまま折りたたまれた。巨大な熊のような体躯で、真っ先に駆け出した。
「この…クソ…!」
ヨハンが罵声を吐きながら、足元にあるアンプを素早く掴んで走った。アンプに繋がれたコードが外れ、ピピッという音がした。
ハミンとヘジンが互いを見つめ合った。
「逃げよう!」
「走れ!」
二人の友人は走った。
ウンビは観客の中に紛れ込み、逃げ出す4人の間抜けたちの後ろ姿を見つめた。
「土曜日は来ないって言ってたのに?」
ウンビが呟いた。
***
みんな、今日ライブ中に逃げ出したバンドの話をするよ。
今日、彼女と弘大に遊びに行ったんだ。
一緒に歩いてたら、なぜか変な連中4人が簡易ステージでストリートライブの準備をしてるんだ。
イケメンが1人、黒人の男が1人、それから全身を覆い隠した男が1人。最後に、超カッコいいガールクラッシュのお姉さんが1人。
ちなみにそのお姉さん、昔あったシカゴのギャング映画、あるでしょ? あれに出てきそうな白いスーツを着ていて…うわぁ、オーラがマジで
とにかく、準備が終わってボーカルが、あの、体育の時間に先生が子供たちを呼ぶ時に使う、あのラッパみたいな形の赤いもの。あれをパッと手に取った瞬間から、オーラがズバッと感じられたんだ。
そして演奏が始まったんだけど、ロックじゃなくてちょっとジャズ?いや、何て言うか分からないけど、なんかゾクゾクしてすごく爽快?うーん、爽快ってわけじゃないけど、何て言えばいいか分からない妙な感覚?がすごく湧いてきた。
あ、そうそう、面白いことがあって、そこのドラムが、僕らが普段見慣れているドラムじゃなかったんだよね。
DJブースみたいな感じで、上に複雑な装置がごちゃごちゃついてて、そこに黒いゴム板みたいなのをドラムスティックでバシバシ叩いてたんだ。
ちょっと笑えるけど、それもめっちゃカッコいい。
あ、そうだ。さっき話したCrushのお姉さんいるでしょ?そのお姉さんのベースが金色なんだ(笑)
あと、ギタリストが黒人だったんだけど、ギターがすごく変わった形をしてた。
まず青色で、小さくて、あのフレット?指板?指で押さえるところがあるでしょ?そこが他のギターとは違って形してたんだ。
でも、それがまためちゃくちゃカッコよかった。
もしかして、兄ちゃんたちのうちで、僕が説明したものが何か分かる人がいたらコメントして。
あ、バンド名って「静かなハンギョル」みたいな?そんな感じだった。
検索しても出てこないんだけど、もし知ってる人がいたら教えて。
***
ハンギョルのスタジオの隅にあるソファを独占したハミンが、スマホを手にクスクス笑っていた。
「おい、おい、これ見てよ。もうコミュニティに載ってるよ。」
ウンビがハミンに近づいた。
「もう?早いね?」
「うん、これ見てよ。コメントが超ウケる。」
「何て書いてあったの?」
「うーん、ベーシスト、可愛い?」
ヘジンは鋭い眼差しでハミンを見つめた。
ハミンはヘジンの視線を無視して、コメントを読み続けた。
「それにベストコメントがマジで呆れるよ。『後ろでガチガチに包んでる人、めっちゃカッコいい。あれがオーラってやつだ』って。」
ハンギョルは得意げな表情を浮かべて、胸を張った。
「俺、かなりオーラあるだろ。いくら隠そうとしても隠せないオーラだってさ。」
ヨハンがハンギョルを見つめながら、何気なく言った。
「メイ・ザ・フォース・ウィズ・ユー」
「何言ってんの?」
ハンギョルがヨハンを見つめた。
「うん、そうだよ。お前にオーラ全部持っていってくれ。」
ヨハンがクスクスと笑った。
「ここ、ここ、また面白いのがあるよ。」
ハミンが友達たちを見て、意味深げに笑った。
「俺たち、めっちゃカッコいいらしいよ。フフフ。」
***
弘大の片隅にある小さなパブ。
土曜日にふさわしく、他の店では席が取れなかった一行を、ハンギョルが自分の行きつけだと連れてきた場所だった。
店内には長いバーカウンターが一つあり、その横にテーブルが四つ並んでいた。壁には様々なフィギュアが飾られ、無数の落書きが書き込まれていた。
ハンギョルがビールグラスを高く掲げて叫んだ。
「ジーンズ!」
「部長かよ!」
ハミンが小言を言いながらビールグラスを掲げて差し出した。
4つのビールグラスがぶつかり合い、泡が空中に舞い散った。
「今日、俺のミョルニルが放つサンダーボルトを感じたか?」
ハミンが嬉しそうに叫んだ。
「サンダーボルトは知らないけど、お前今日感電したかと思ったよ。」
「何言ってんだ?」
「さっきギター弾いててブルブル震えてたやつ、あれは感電して震えてたんだろ?」
「ふざけるな~」
ヨハンがクスクスと笑うと、ハミンは指を立ててヨハンを指さした。
「この野郎、まだ俺の『弾指神通』の味を十分に味わってないのか?」
ヨハンはハミンの指をつかんだ。
「え?」
折った。
「おいおいおい、降参!」
「また床で転げ回るつもりかよ。」
「......」
ハミンの指が折れるのを見ながら、ヘジンはビールグラスを傾けた。
そんなヘジンの姿を見て、ヨハンが尋ねた。
「ヘジン、お前、なんで男型に変身しないんだ。」
「面倒くさい。家に帰ってやろうと思って。」
まだ女装中のヘジンが、世にも呆れた表情で言った。
「今日、家に帰らないんじゃない?ハミンを見てみろ、もうヘロヘロだぞ。」
ヨハンは、指が痛くて震えているハミンの脇腹をツンツンと突いた。
「大丈夫。10時になったらタクシーで帰るから。」
「血も涙もない奴。」
ヨハンがぶつぶつ言うと、ヘジンはクスクスと笑って、再び口を開いた。
「今、俺の血管にはビールが流れている。」
「……お前はそれを冗談だと言うのか。」
ヘジンをからかっていたヨハンは、顔をしかめて席から立ち上がった。
「みんな、ちょっとトイレに行ってくる。」
***
ヨハンは蛇口から流れ出る冷たい水に顔を近づけた。
体が熱すぎた。そして寒かった。
「もうか?まだ3月なのに?」
ヨハンが呟いた。
12月は遥か昔のことだった。
***
「今日は楽しかった。来週また会おう。」
ハンギョルがよろめきながらスタジオに入った。
「あいつ、ここで住んでるのか?自分の家があるのに。」
ヨハンが呟いた。
「……」
ヘジンは、体を支えきれないハミンを支えていた。
「ヨハン。」
「何?」
「これ持って行って。重いから。」
ヘジンがハミンをヨハンに引き渡した。
「俺は行く。」
闇の中へ、白いスーツを着たヘジンが消えていった。
「ヨハン。」
ヘジンの後ろ姿を見ていたヨハンに、ハミンの声が聞こえた。
「何?」
寄りかかっているハミンを見つめた。
「ヨハン。」
「何?」
「ヨハン。行かないで。」
「......」
「僕を置いて一人で行かないで。」
ハミンが呟いた。
「一人でご飯を食べないで。一人で登校しないで。」
ヨハンがくすりと笑った。
「そうだな、いいところには一緒に行こう。いつも。」
夜はそうして深まっていった。




