EPISODE03. 静寂。
数日後、午前。
ヨハンは自分の部屋の机に座り、手帳を開いて、その上に文字を書いていた。
空っぽの機械の中に閉じ込められたかのように、静寂だけが私を締め付けてくる。
波乱を夢見た19歳、残されたのは傷だけという波乱。
「ちょっと恥ずかしいかな?」
しばらく首を傾げたヨハンが、再びボールペンを手帳の上に持ち上げようとした頃、チンとベルの音が聞こえてきた。顔を上げ、体を起こすヨハンの耳元に、妹の叫び声が響いた。
「コヨハン。おい、ブタ!ハミンお兄ちゃんが来たよ。」
クスクスと笑ったヨハンが下に向かって叫んだ。
「上がってこい!」
手帳を閉じて立ち上がったヨハンがドアに近づくと、ドアの外から木製の廊下を踏みしめる重々しい足音が聞こえてきた。
ヨハンがドアを開けると、いつも通り黒い肌に白い歯を見せたハミンがドアの前に立っていた。
「よ。出てこいよ。」
「来たのか?カフェは?」
「俺たちの偉大なスタートのために、カフェは一時休業した。」
「クレイジーな奴、小遣い稼ぎしてるんじゃなかったのか?」
「母さんが、この機会に内装を一新しろって。今まで気に入らなかったらしい。」
言い終えたハミンは頭をかき、すぐに小さく呟いた。
「母さんはデザインセンスがない。」
ハミンの呟きにヨハンが言った。
「うちの母さんも、あのカフェを見るたびに内装がダサいって言ってたよ。」
ハミンは額に青筋を立てながらヨハンを睨みつけた。
「いや、現役デザイナーの目利きが、それくらいしかできないのか?」
ハミンの軽い反抗に、ヨハンはくすりと笑いながら口を開いた。
「それ、タルーラ宣言してるの?」
タルーラという言葉を聞いて、一瞬で不機嫌になったハミンが、もごもごと言った。
「ごめん…」
ふさぎ込んだハミンから視線を外したヨハンは、机の上の手帳を引き出しにしまいながら口を開いた。
「ところで、何しに来たんだ?」
なんだかぶっきらぼうな声に、ハミンは顔をしかめた。
「俺、ここに来ちゃいけないの? あんたは毎日カフェに来て、ぶらぶらしてるくせに。」
ヨハンはハミンを見つめながら、くすりと笑った。
「いや、あそこは公共の場所だし、ここは私有地だろ。」
「お前の私有地じゃなくて、お前の母さんの私有地だろ。」
珍しく論理的なハミンの言葉に、ヨハンは驚いた表情を浮かべたが、すぐにまた笑った。
「どっちもどっちだろ。」
「俺は違うんだけど?」
ヨハンとハミンは互いを見つめ合い、くすくす笑った。
しばらく互いを見つめた後、ハミンが再び口を開いた。
「車を買ったんだ。ドライブに行こう。」
ハミンの言葉に、ヨハンは不思議そうな表情を浮かべた。
「車?」
「うん。車。かっこいい車。」
意気揚々とした表情のハミンが、舌を出して上唇をなめた。
「車?」
「うん。名前もつけたよ。『ヒルデガルド』。」
「…車の名前が? なんでそんなに大げさなんだ。」
「うちのヒルデはドイツから来たんだ。外国から僕と結婚しに来たんだよ。」
なぜか物思いにふけるような表情を浮かべるハミンを見つめ、ヨハンは呆れたような顔をした。
「お前、輸入車を買ったのか?」
「うん、俺が輸入車を買っちゃいけないの?」
「カフェも毎日、ハエばかりが飛び回ってるくせに。」
「大丈夫、遺産を前倒しでもらったんだ。」
ヨハンは口を大きく開けた。
目の前には、白いボディに前方に青い三角形が描かれた、古びたミニバス一台がその威容を誇って立っていた。所々に傷があり、バンパーは少しへこんでいる様子が非常に印象的だった。
「これが…ヒルデ?」
「うん、僕のヒルデ。これから永遠に僕と一緒にいる恋人。」
「この狂人め!」
ヨハンの拳が怒りを乗せてハミンの顎へと向かった。
ヨハンは再び口を大きく開けた。パキッという顎が外れる音が聞こえた。
「どうだ? 俺のヒルデは?」
バスのドアを開けて中に入ると、そこには新世界が広がっていた。
木材で仕上げられた内装。奥には向かい合って座れるふかふかそうなソファとその間のテーブル。手前にはミニシンクと、その反対側の1人用ソファまで。何よりも圧巻だったのは、運転席と助手席の真後ろの天井から吊り下げられた巨大なテレビだった。
「この狂った野郎。ここで一体何をしたんだ?」
「元カノには惜しみなく尽くすのが常さ。」
「 「おい、お前、家から追い出されたのか?」
「そうじゃないけど、たまに小言を聞きたくない時はここで寝ようと思って。」
ヨハンの拳から炎が噴き出した
「車内の天井がちょっと高い気がするけど、下はどうしたんだ?」
ヨハンの質問に、ハミンは腰に手を当てて傲慢そうに笑った。
「俺様の天才的なアイデアがそのまま採用されたんだ。」
ハミンがバスの出入り口側の階段に近づいた。
「ここをこうやって、こう回して、こうすれば……ジャジャーン!」
床が持ち上がり、空っぽの空間が現れた。
「重いものを入れる収納スペースだよ。」
「ここに武器を隠して持ち歩くつもりか?」
「必要なら?」
ハミンがウインクを送った。
それを見たヨハンが、吐きそうになるふりをした。
「それでこれを買ったのか? いや、こんな風に改造した理由は何だ?」
「これだと? 私のヒルデにだ。ヒルデガルド様、あるいは義姉様と呼べ!」
「この瓶……違う。だからヒルデかヒルウィンか、これをこう作った理由は何なんだ?」
ヨハンが拳を突き上げると、びくっとしたハミンが再び意気揚々とした表情を浮かべた。
「これ、俺たちのツアー用。俺たちがバンドを再開したら、すぐに有名になるんじゃない?」
意気揚々とした表情で戯言を吐いた。
「チョンウォン高校最高のバンド。俺たち、コ・ヨハミン、ハンギョル、ヘジニが結集するんだから、すぐに有名になるだろう。それにバンドってのは元々キャンピングカーで回るもんだ。ツアー中に会う女性ファンと…」
やがて、なぜかぼんやりとした表情で頬に両手を当て、少し自信満々の声でまた戯言を吐き出した。
「お前の妻だろ? お前は妻の目の前で…」
ヨハンの言葉に、ハミンは真剣な表情を浮かべた。
「お前、バカか? これは車だ。」
「この野郎が…」
ハミンの言葉に、ヨハンの額に再び青筋が浮き出た。そしてヨハンの足が空を舞った。
「ギョルとヘジンは連絡取れるか?」
コンビニ前のパラソルの下でビール缶を開けながら、ヨハンが尋ねた。
「うーん、ギョルはたまに会うけど、ヘジンとは会ってないな?」
「連絡も取らずにヒルウィンドを準備したのか?」
「義姉さんと呼べ。」
「さっきは車だって?」
「あの時の俺は、一瞬だけド・ハミンではなく、ドーパミンだった。」
「こいつ…。」
怒鳴りつけようとしたヨハンに、ハミンが人差し指を立てて小刻みに振った。
「ギョルとヘジンは連絡取ってるらしい。それに、明日ギョルに会いに行くことになった。」
ヨハンはビールを一口口に含んだ。
「僕、彼女と一緒に行くつもりだ。」
「…このクソ野郎。」
口に含んだビールを辛うじて飲み込んだヨハンが、拳を振りながら罵声を浴びせた。
ビール缶がパラソルテーブルの上に山積みになる頃、ハミンはヨハンを見つめながら口を開いた。
「今日も一緒に演奏して行こうか?」
ハミンの提案にヨハンはうなずいた。
「いいよ。」
テーブルの上のくしゃくしゃになったビール缶を一気に片付けた二人は、よろめきながら路地を歩いた。
何も話さずただ歩いていた彼らは、白い塀を持つ対称的に向かい合う二軒の家の前で立ち止まった。
「ギター持ってくる?それとも、うちの練習室にあるのを使う?」
ハミンがヨハンを見つめて尋ねると、ヨハンは「そんなこと聞くのか」と言わんばかりにクスクスと笑った。
「ちょっと弾くだけなのに、わざわざ持ってく必要ある?そのまま入って、君のお母さんのをこっそり使おうよ。」
ヨハンはハミンを軽く小突くと、目の前の黄色い鉄の門を開けて中に入った。
自分の家と庭とが正確に対称をなす形をした、こぢんまりとした庭。松の木やベンチはなく、その代わりにまだ枝ぶりの貧弱な桜の木が一本立っていた。
ヨハンは慣れた足取りで庭を通り抜け、モダンな2階建て住宅の門を開けて中に入った。
まさに自分の家とは逆の構造をした内部。キッチンとつながったリビングを通り過ぎ、奥の階段へ向かった。
自分の家とは違って地下へと続く階段を降りると、清々しい空気の香りが一気に押し寄せてきた。
重い防音ドアを開けて中に入った。
幼い頃から遊びに来ていたハミンの母親が作った地下の練習室。防音処理が施された壁面と、壁面の前に置かれた楽器ケースは、音の反射を考慮して天井まで隙間なく届いていた。楽器ケースの中には高価な楽器が。スタンドの上に固定されていた。
ヨハンは練習室の中央、少し盛り上がった壇の上へと足を踏み入れた。来るたびにいつも弾いていた古いアコースティックギター一台が、ヨハンを歓迎するかのように存在感を示していた。
椅子の上に置かれたギターを手に取った。ギターのストラップを撫でた。古くなってほつれかけた糸が指先に引っかかった。
ふとハミンのギターに目をやった。小さくて薄いエレキギター。
ほぼ長方形のボディ、ヘッドのないネック、ブリッジ側に一体化されたチューニングマシン、青い地に白い稲妻模様が塗装された、短くて小さなギター。
「おい、俺の大切なミョルニルをなんで睨んでるんだ?欲しがってるのか?」
「このクソ野郎が?」
ヨハンは顔をしかめたかと思うと、軽く笑った。
高校に入学した2013年、あの日もそうだった。
***
2013年。新学期を迎えたチョンウォン高校。
学校の正門から本館へと続く上り坂は騒がしかった。
白いシャツ、赤茶色のジャケットとズボン、同色のネクタイを締めて歩く生徒たち。まだ制服に慣れていないのか、不快そうな表情を浮かべている生徒も多かった。
上り坂の右側にある小運動場には、赤茶色の上下の運動着姿で走り回る生徒たちや、ダウンジャケットを着てコンクリートの階段の上に座っている生徒たちもいた。
長い上り坂を歩いて登っていたヨハンに、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「ヨハン、一緒に来い!」
足を止めて後ろを振り返った。
決して大切ではない産婦人科のメイト、保育園、幼稚園、小学校、中学校とずっと同じ空間で過ごしてきた、敵ではない敵。
もしかすると妹よりも憎い敵が呼んでいた。
「ドパミン、カムオン~。」
ヨハンは、ハクハクと息を切らしながら駆け上がってくるハミンに、人差し指をパチパチと振った。
ハミンの目に炎が燃え上がった。
坂道を走っていた太ももの筋肉の繊維が硬化し、厚みを増した。分厚くなった太ももが、より強く地面を蹴り出し、急激な加速を生み出した。黒く丸い体が転がるように飛び出した。
ハミンは走りながらそのまま、ヨハンにショルダータックルを仕掛けた。
分厚く、丸いハミンの肩が急激に迫ってきた。ヨハンはハミンの肩に軽く左手を当てた。右足を体の後ろに引き、すぐに体を回転させながら、左足を右足の前に出した。瞬く間にハミンの体とヨハンの体がすれ違った。互いに背中と背中を合わせている状態で、回転の勢いを殺さず、そのまま右肘を突き出した。体の回転で生まれたエネルギーがそのまま肘先に乗り、ハミンの脇腹を打ち抜いた。
「ギャッ!」
「どこから豚の首を捻る音が?」
「豚だなんて! 俺、まだ80キロしかないんだぞ!」
「162センチで80キロなら十分豚だ。」
「違うってば!」
「敗者は口出しするな。これで俺たちの戦績は…うーん、1228勝、0敗くらいにしておこう。」
「千回も戦ってないよ!」
***
「また同じクラスか?」
「また同じクラスだね。」
ヨハンとハミンが互いを見つめ合い、同時に言った。
「うんざりだ。」
「運命だな。」
ヨハンがハミンを睨みつけた。
ハミンの黒い顔に白い歯がのぞいた。
「こうなったんだから、また仲良くやろうぜ、パートナー。」
ハミンが拳を差し出した。
「うんざりだけど、まあいいか。」
ヨハンの口元が上向きに跳ね上がり、開いた唇の間から犬歯が覗いた。拳を伸ばして、ハミンが差し出した拳に軽くぶつけた。
***
昼休みの食堂はいつも騒がしかった。
食器がぶつかる音、子供たちの騒ぐ声。時折聞こえる喧嘩の声、そして先生の怒鳴り声。
ハミンが、食事に夢中になっているヨハンに声をかけた。
「おい。昨日見たあの兄ちゃんたち。」
ヨハンは口の中の食べ物を飲み込んでから言った。
「ああ。あの兄ちゃんたち、どうした?」
「マジで羨ましくなかった?」
ハミンの口から飛び散るご飯の粒を左手で払いのけながら、ヨハンは顔をしかめた。
「何が?」
「いや、女の子たちが気に入って、大声で叫んだりしてたじゃん。」
ヨハンの表情などお構いなしに話すハミンの目がキラリと光った。
「俺は、それしなくても『好きだ』って叫んでたけど?」
ヨハンがまるで当然だと言うように言った。
「おい、それ、お前が『好きだ』って叫んでるわけじゃないだろ」
ハミンが叫んだ。口の中の米粒が、まるでクレイモアの鉄球のように空を舞った。
ヨハンは素早く身を屈めてご飯粒の空襲をかわすと、素早く右手を伸ばしてハミンの顎を塞いだ。
「おい、口を閉じて話せよ!」
舌を軽く噛んだのか、目に涙を浮かべたハミンがヨハンを睨むと、ヨハンはクスクスと笑って再び口を開いた。
「で、あの兄貴たちが羨ましくて、どうしたんだ?」
「うっ。痛い。それ、俺たちもやろうよ。」
「何を?」
「バンド。」
「ん?」
「名前も決めてあるんだ。」
「何だって?」
「ハミンとヨハンが出会ったから、ハミンヨハン。」
「正気か?」
「気に入らなきゃ、君を先に行かせてあげるよ。『静かなるハミン』。どう?」
「……」
ヨハンは心から、ハミンの脳の構造が気になり始めた。
***
日がゆっくりと沈みかける頃、ヨハンとハミンは言い争いながら家路についていた。
白い塀に黄色い門がある家の前だった。
「おい、ド・ハミン。」
ヨハンは門を開けて中に入っていくハミンを呼んだ。
「ん? どうした? 別れるのが惜しいのか? 兄ちゃんが遊んでやるか?」
「それはいいから。」
ヨハンは少し躊躇してから、再び口を開いた。
「やろう。あれを。」
「あれ?」
「ああ、あれ。」
「あれって何~? どんなこと?」
もじもじするヨハンの様子を見て、ハミンはニヤリと笑った。
瞬く間に額に血管が浮き出たヨハンの体が空中に飛び上がった。まっすぐ伸びた両足がハミンに向けられていた。
***
その夜。
ヨハンは自分の部屋の隅へ行き、天井をじっと見つめた。一本のロープがぶら下がっていた。
ロープを引くと、屋根裏部屋へ上がる階段が降りてきた。ほこりの匂いと、少し湿気た木の匂いが漂った。
少し躊躇いがちな足取りで、慎重に階段を登った。
階段の上、手すりにある電源ボタンを慣れた手つきで押して明かりをつけた。瞬く間に屋根裏部屋が明るくなり、木の壁や柱、その間に置かれた箱たちがヨハンの視界に入ってきた。
ヨハンはためらうことなく、隅に向かって歩いた。
隅に置かれた小さな子供用机、その上に埃をかぶったCDケースが見えた。一つを手に取り、埃を払った。
公園のベンチに座り、イーゼルを広げて子供たちと松の木を描いている女性の後ろ姿、そして下部に小さく書かれた白い文字。コ・モクヒョン、永遠を歌う。
父の最後のアルバム。治療を拒んで作った歌たち。
ヨハンはCDケースを再び置き、机の右側に隠れるように置かれた、古びた黒い革製の角ばったギターケースを見つめた。
手を伸ばしてギターケースを持ち上げ、机の上に横たえた状態で下ろした。ケースの上に積もった白いほこりを払い、横にある留め金を開けた。手が空中で一瞬迷ったかのように、ためらったが、すぐにケースを開けた。長い間使われていなかったため、蝶番からきしむ音がするとともに、白いアコースティックギターが姿を現した。
木に無理やりはめ込まれたような四角いパネル。何なのか分からない丸いダイヤルが三つ。丸くしなやかな曲線のボディは、降り積もったばかりの新雪のように真っ白に輝いていた。
下の方には小さく刻まれた文字が見えた。
モクレン。
母と同じ名前。母が父への贈り物として渡し、父が刻んだ名前。
ヨハンはギターを抱きしめた。
「パパ………」
ヨハンはしばらくの間、そうしてギターを抱きしめたまま、その場にへたり込んでいた。
***
2階の自分の部屋、モニターの前に座ったハミンの右手が忙しく動いた。右手の動きに合わせて、モニターの中の鮮やかな黄色の小さな矢印も、あちこちを忙しく駆け巡った。
手が止まり、矢印が静止した。ハミンはモニターをじっと見つめた。
「見つけた。俺のミョルニル」
画面の中には、四角いボディにヘッドのないエレキギターが一本映っていた。
「これからはお前が俺の武器になる。ウヘヘヘ。」
ハミンの不気味な笑い声と共に、胸の高鳴りに満ちたその夜は、そうして更けていった。
***
ハミンのエレキギターの音がアンプを通じて電子音に変換され、流れ出した。まるで集中しろと言わんばかりのギターの音に、物思いから我に返ったヨハンがハミンを見つめた。
「何ぼーっとしてるんだ。準備しなきゃ。」
「あ、ちょっとあのギターを見てたら昔のことが思い出されて。」
「ミョルニルが欲しくなった?」
「また勝負する? 俺たちの戦績はどうだったっけ?」
「俺のミョルニルが火を噴いたら、お前は死ぬ。俺が我慢してるんだ。」
ハミンの根拠のない自信に、ヨハンはくすりと笑った。
「いいや、始めよう。」
ヨハンの白いアコースティックギターが音程を吐き出した。ハミンの青いエレキギターが音程を重ねた。
二本の異なるギターを、指を弾く同じ奏法で演奏した。 柔らかな電子音と柔らかな金属音が広がっていった。
ヨハンがギターの弦とボディを交互に叩いた。様々な金属を叩く音と、空洞の木を叩く打撃音が飛び出した。
ハミンのギターが不規則な音を吐き出しながら速くなった。電子音でできた波が室内を吹き荒れた。
ヨハンは笑いながら、左手の指板を素早く弾いた。鋭い金属の摩擦音が通り過ぎていった。
ハミンは不機嫌そうな表情で、ギターのピックアップの下に付いた長いバーを掴んで引いた。電子音が伸びたり縮んだりした。
華やかな地下の練習室を、華やかな音が満たした。まるで笑い声のように。
***
ヨハンのこぼれた汗の滴が、白いギターの柔らかな曲線に沿って流れ落ちた。演奏は終わったが、音の余韻とギター弦の震えが残り、空間を埋め尽くした。
「もう一曲?」
ヨハンがハミンを見つめながら言った。
「マイクを持って。」
ハミンが顎でマイクを指した。
純金にダイヤが埋め込まれたマイク。ハミンの母親の宝物。
「おい、あれに手を出してバレたら、お前はボコボコにされるぞ。」
「もともと使ってたやつを俺が遊んでたら、コードが切れてしまったんだ。」
隅でコードが切れて転がっているマイクが見えた。
「まあ、そうか。それなら、お前が殴られるんだろ、俺じゃないし。」
「ああ、俺がタンクだ。」
ヨハンはマイクをアンプに接続した後、マイクの前に立った。
「さあ、始めよう。」
ヨハンは背負っていたギターの胴体を規則的に叩いた。四回の叩き、四回の繰り返し。
ハミンが持っていたギターを、指で弾いた。
白いアコースティックギターの胴体を叩く音の上に、青いエレキギターが吐き出す低く、しかし鋭い電子音が重なった。自由奔放で、クスクスと笑いながらふざけているようなメロディーが飛び出した。
またしても4回の叩き、4回の繰り返し、それだけ繰り返されるギターのメロディー。
ヨハンがマイクに顔を近づけて口を開いた。
昨日、今日、そして明日。
どうせ同じことの繰り返し。
低く、不安定で、荒々しい音程。高低がほとんどない陰鬱なメロディー。鉄を引っ掻くような荒い声。低く囁くかと思えば、ただ高低なく話すかと思えば、ゆっくりとラップをするかのように歌った。
演奏を続けながら悲しげな目でヨハンを見つめていたハミンが、ギターに付いた丸いノブを回して音量を下げ、低い音で柔らかなメロディーを奏でた。
去年もそうだったし、
来年も同じだろう。
マイクから口を離したヨハンは、うつむいてギターのヘッド部分を見つめた。指板の上にある六本の弦のうち、三本をそれぞれ違う指で押さえた。ボディを規則的に叩いていた右手が、弦とボディを同時に叩いた。鈍い打音が鋭い悲鳴へと変わり、練習室の中を漂った。
ハミンは笑いながらノブを回して音量を上げると、少し荒々しく弦を一本ずつかき鳴らした。一番上の弦は下から上へピックでかき鳴らす。手首を軽くひねり、そのすぐ下の弦は上から下へ。再び上の弦と下の弦を交互に弾いた。深い低音がアンプから漏れ出し、瞬く間に散っていった。
ギターのボディと弦を規則的に叩き続け、コードを次々と変えながら、ヨハンは再びマイクに顔を近づけた。
どうせ同じことだろう、
もう、どうでもいい。
高音も、快感もない、ただ淡々とした荒い声。
ハミンが再び丸いノブを回して音量を上げると、足元に置かれた黒いペダルを踏んだ。鋭かった電子音が、もこもことした音に変わった。ヨハンの荒々しい声の上に、ハミンのもこもことした演奏が重なり、まるで声が高低の音を奏でているかのように聞こえてきた。
思いっきり遊んでいれば、
何だって何とかなるさ。
ヨハンが最後のフレーズを吐き出すと同時に、叩いていたままの手のひらを弦とボディに押し当てた。
ハミンが手のひらでネックを包み込んだ。
一瞬にして訪れた静寂、そして歌が終わった。
ヨハンはハミンを見つめ、ハミンはそんなヨハンを見つめた。
「バカ、その声は何だ?」
「笑わせるな。お前の演奏、クソ下手だぞ、アホ。」
二人は互いを見つめ合って笑った。
二人の笑いの間に、黄金色のダイヤモンドが埋め込まれたマイクがきらめいていた。
***
日が昇る時間が近づいた明け方。ヨハンは眠れなかった。歌っている時に喉をくすぐったあの感覚が、頭から離れなかった。
10年ぶりだった。
海雲台に置いてきたあれ。今なら向き合える気がした。逃げずに済んだ。
ヨハンは目を閉じた。波の音と悲鳴、そして流れる血の匂いが、今も鮮明だった。
夜明けの冷たい空気が開いた窓から流れ込んできた。
ヨハンは目を開けた。
窓辺を見た。薄明かりに包まれつつある空に、松の木が手を振っていた。それでいいのだとでも言うように。
その姿を見ながら、ヨハンは無理に笑った。




