EPISODE18. 再出発。
2025年12月27日。
10年前と同じように青空が広がり、12月にしては穏やかな日だった。
相変わらず白い塀、相変わらず鮮やかな青い門。
その門の上には、真っ白な雪を積もった松の木がちょこんと突き出ていた。
青い門の前には同じ色の古びたマイクロバスが停まっており、その横ではハミンが鼻歌を歌いながら体を揺らしていた。
門が開き、青い地に黄色い線が入ったトラックスーツを着たヨハンが、ふらふらと出て来た。
「おい。なんで他人の家の門を塞いでるんだ?」
ヨハンは、門をほとんど隠すように停まっているハミンのバスを見て、ぶつぶつと文句を言った。
「おい、他の場所に行くんじゃなくて、すぐ上に行けよ。俺がなんと15分もかけて駐車したんだぞ。」
「はあ…お前はなんで運転できないんだ?」
「あ…バックカメラが壊れてるんだって。」
「バカ。」
ヨハンはクスクスと笑うと、バスの中に入った。
「おい、お母さんには挨拶したか?」
ハミンがバスの中に向かって叫ぶと、ヨハンが答えた。
「戻ってくるさ。バカ。」
ヨハンのぶっきらぼうな言葉に、ハミンの動きが止まった。
「……」
「ママ、行ってくるね!」
門の中からウンビの声が聞こえてきた。
「うん、気をつけて行ってきて。ハミンには運転に気をつけてって伝えて。」
ヨハンとウンビの母、モクヨンの声が聞こえ、やがてウンビが門の外に出てきた。
「おっ。ハミンお兄ちゃん、今日肌ツヤがいいね?」
「あ。ウンビ、君しかいないよ。俺、昨日パックして寝たんだ。」
自分の顔を優しく撫でながら、ウィンクを送ってくるハミンを見て、ウンビは顔を背けた。
「朝から……」
「おい!」
***
黒い背景に白い線が引かれたアスファルトの上。
青く古びたマイクロバス一台が、後ろの尻尾に貼られた黄色いステッカーを揺らしながら、懸命に走っていた。
速度は時速90kmにも満たないのろのろとしたスピード。
周囲を他の車が次々と追い抜いていったが、何事もなかったかのように、ただひたすら自分のペースでガタガタと走り続けた。
車内からは笑い声と音楽が絶え間なく響いていた。
ギターの音と木板を叩く音。男たちと女たちの歌声。
「おい、狭いぞ!」
ひときわ鋭く突き出るヘジンの悲鳴が、かすかにそのほのかな音の向こうへと漏れ出た。
空は相変わらず青かった。
体を後ろに向け、窓の外を眺めていたヨハンの目に、北天安ICがすっと通り過ぎていった。
「おい、ドハミン!また通り過ぎたぞ!」
ヨハンが怒鳴ると、ヨハンの肩に頭を預けて眠っていたイウムが、びっくりして目を覚ました。
「え?何?」
「あ、ごめん。ハミンが道を間違えたんだ。」
「何、一日や二日じゃないのに、今さら。」
イウムは笑って、再びヨハンの肩にもたれかかった。
「着いたよ。」
顔色が少し青ざめたハミンが、ずっしりとした体をひねって後ろを振り返った。
「なんでお前は運転が遅いんだ?」
すぐ後ろの1人用リクライニングシートに座っていたハンギョルが、見ているノートパソコンの画面から目を離して尋ねた。
「それ、今朝ヨハンが言ってたことだけど…それに、お前、運転免許も持ってないだろ?」
ハミンは運転席のドアを開けながら、ぶつぶつと文句を言った。
「代わりに運転手がいるじゃないか。君。」
「ちっ…」
二人のやり取りを見ていたヘジンが体を起こし、口を開いた。
「バカども、行こう。このままじゃ日が暮れちゃう。今日の公演が終わったらすぐに大田に行かなきゃいけないだろ?」
「今日?なんで?天安で泊まればいいじゃない?」
「大田の温泉ホテルを予約しておいたんだ。」
「パーティールーム?」
温泉ホテルの話に目を輝かせながら、ウンビが口を挟んだ。
「いや、部屋は4つ。」
ヘジンの言葉に、ウンビはがっかりした表情を浮かべた。
「私、あの有名な大田の温泉パーティールーム、一度行ってみたいと思ってたのに。」
「それは後で彼氏ができたら行けばいいじゃん。」
ヘジンはくすりと笑うと、天井の収納ボックスを開けて楽器を取り出し始めた。
「くだらないこと言ってる場合じゃない、荷物を降ろそう。」
***
赤と黒の弾性ウレタン製の床が敷かれた遊歩道。
おそらく春になれば華やかなピンク色に染まるだろうが、今は枝だけが残った桜の木々。
湖と陸地を分ける境界となっている木製の柵。
ヨハンと友人たちは、手押し車に楽器や機材を載せて遊歩道を歩いていた。
「前もこんなに遠かったっけ?」
ハミンが汗だくになりながら愚痴をこぼした。
「前はもっと近いところまでタクシーで来たよ。」
ハンギョルが道路を指さしながら言った。
「駐車場のせいだな。」
「お前の運転技術が悪いんだ。」
「免許もないくせに。」
しばらく歩いた一行の目の前に、カフェ街と湖の方を見渡せるステージが見えた。
ヨハンはその風景を眺めながら呟いた。
「10年前と全く同じだな。」
ヨハンのつぶやきに、ウンビは不思議そうな表情を浮かべた。
「10年前?」
「うん。あそこにクルミ菓子を売ってるフードトラックが見える?」
「うん。」
「あそこで特大サイズのクルミ菓子を売ってたんだ。ほら、今だって売ってるよ。ハミン、あいつまた見てよ。」
いつの間にかぴょんぴょんと走ってクルミ菓子を買ってきたハミンが、にこにこ笑いながら近づいてきた。
「おいおい!これまだ売ってるぞ。」
「このマジで豚野郎。」
自分の拳ほどの特大クルミ菓子を持ってきていたハミンは、ハンギョルの毒舌に硬い表情を浮かべた。
「違う!俺、無根無血統の豚じゃないぞ。なんとイベリコ血統だ。ソウル産。」
指をパチパチさせながら、でたらめを吐き出した。
「……」
ハミンは呆れた表情で自分を見つめるハンギョルを無視し、特大サイズのクルミ菓子を一口かじった。
すぐに喉に詰まったのか、ゴホゴホと咳き込んだ。
「あれさえも10年前と全く同じだな。」
ヨハンはその姿を見て、くすりと笑った。
10年前、2015年12月27日、天安の丹大湖カフェ通り。
ハミンが引いていた手押し車を放り出し、飛び出していった。
「おい、あいつどこへ行くんだ?」
「おい!」
まるで転がるかのように、思ったより速く走り去ったハミンが、フードトラックの前で何か話すと、自分の頭の半分ほどの大きさの何かを持って走ってきた。
「おい、お前何してるんだ?」
「え?これ、天安の名物。特大クルミ菓子。」
ヨハンの質問に答えたハミンは笑いながら、クルミ菓子を口に押し込んだ。
一口かじって噛んでいたが、すぐにむせ始めた。
「水…水を…」
「この野郎。」
ヘジンがカバンから水を取り出して差し出すと、ハミンは慌てて蓋を開け、水をゴクゴクと飲み干した。
「おい!この野郎!口をつけて飲むなって言っただろ!」
ヘジンが水筒に口をつけて水を飲むハミンに怒鳴った。
ヨハンとハンギョルはその様子を無視し、知らぬ顔をしてそのまま歩き続けた。
2025年12月27日
ハミンは10年前と全く同じように喉を押さえ、ゴホゴホと咳き込んだ。
「水…水をくれ。」
待っていたかのように、ヘジンはカバンから緑色の缶を取り出し、蓋を開けてハミンに手渡した。
「サンキュー。」
ハミンは缶飲料を受け取ると、ゴクゴクと飲み干した。
両目が大きく見開かれ、ふっくらとした頬が膨らんだ。
「ゲッ!」
口の中から透明な水滴が噴き出した。
小さな虹が生まれた。
「これ何だよ、このクレイジー野郎!」
ハミンがヘジンを睨みつけた。
「あれはソルノム。」
ヘジンが魅惑的に目尻を上げて笑うと、ハミンの表情が歪んだ。
「こ…この…」
ステージの前に立ったヨハンは、少し迷った後、口を開いた。
「あの時、こんな風に始めたっけ?こんにちは。私たちはチョンウォン高校バンドのコヨです。」
ハミンがヨハンの顔の横に自分の顔を押し付けた。
「ハミン。」
ハンギョルは、もうどうしようもないという表情で口を開いた。
「ハンギョル。」
ヘジンは顔を背けて無視していたが、自分をじっと見つめる友人たちの視線を無視できず、小さく囁いた。
「ヘジン」
ヨハンがクスクスと笑いながら、ヘジンの背中をポンポンと叩いて口を開いた。
「でしたよね?たぶんこんな感じだったよね?」
その様子を見ていたウンビが、隣に立っていたハンギョルをツンツンと突いて言った。
「お兄ちゃん、私は何て言えばいいの?」
「自分で考えなよ。」
「じゃあ、私は絶世の美女、ソロ歌手ウンビです。」
ステージの下でその様子を見ていたイウムが、それを見てクスクスと笑った。
「お姉ちゃん、なんで笑ってるの?」
「あ… あなた、間抜けな魅力が移っちゃったわ。」
ウンビは泣き顔になった。
ステージ上で機材を設置していたハンギョルに、ウンビが近づいて尋ねた。
「お兄ちゃん、届出は出した?」
「いや。調べてみたんだけど、短いならそのままやればいいってさ。」
ウンビは細めた目でハンギョルを睨みつけた。
「あ!調べてみたんだって。」
「到底信じられるわけないじゃない。」
ぶつぶつ言っていたウンビは、自分の肩をポンポンと叩く感触を感じて振り返った。
ヨハンがウンビの肩を指先でポンポンと叩くと、口を開いた。
「心配しないで。もしうまくいかなかったら、ハンギョルがあの野郎を放り出して逃げればいいだけさ。」
「……ちっ、この火傷野郎。」
すべての準備が終わり、ヨハンはマイクの前に立ち、深く頭を下げ、手にした白いギターをじっと見つめた。
「モクレン。」
どこかでぶつかったのか、塗装が少し剥がれている箇所が見えた。
どれほど丁寧に塗装したのか、白いペンキが木そのものを染め上げ、コーティングが剥がれた部分も白く染まっていた。
母が自ら塗装して父に手渡した、父から受け継いだ白いアコースティックギター。
母の名前を持つ自分の友。
顔を上げた。
周囲を通り過ぎる通行人たちは、彼らに何の関心も示さなかった。
ヨハンは笑った。
10年ぶりだった。
楽しかったし、これからも楽しいだろう。
「行こう!」
ヨハンの叫びと共に演奏が始まった。
10年前の照れや不安は残っていなかった。
「私がここにいる」という存在感。
不協和音で構成されたハーモニー。
そして、10年前にはなかったウンビの声。
そうして、天安でのストリートライブが始まった。
首の血管を浮き立たせ、マイクを噛みしめるように歌った。
黒い手が視界から消えるほど素早く動き、音符の青い稲妻を放った。
ゆったりと、しかし乱れることなく、黄金色のベースギターが中心を保った。
左手では電子ドラムパッドを叩き、右手ではラップトップのトラックパッドを擦った。
細く美しい指が、キーボードの黒と白の鍵盤を、時には激しく、時には優雅に撫でた。
みんなの動きが、それぞれの音が合わさって音楽になった。
遊ぶのが一番楽しかった。
一緒に遊ぶのが。
いつの間にか広場を埋め尽くした人々が、疲れ切ったヨハンの目に飛び込んできた。
そうだ。
ヨハンは歯を見せて満足そうに笑った。
顔を向け、友人たちを見つめた。
友人たちも笑いながら、互いを見つめ合っていた。
人々の歓声と拍手の音を全身で受け止めながら、ヨハンは、友人たちは互いにそうやって見つめ合い、笑っていた。
2025年12月28日。午前8時24分。大田。
数え切れないほどの人が列をなしている建物の前に、ウンビとセジン、そしてイウムが立っていた。
「お姉ちゃんたち、パン食べられる?」
「聞いてみたんだけど、今並んだら2時間かかるって。」
セジンはシャツのボタンを一つ外しながら、イライラした表情でぶつぶつ言った。
「お兄ちゃんたちが怒るよね?」
「どうするつもり?」
ウンビが少し萎縮した表情を浮かべると、イウムはふざけて拳を振った。
「とりあえずヨハンを殴ればいいよ。」
同日。午後12時24分。ヒルデガルド。
長いソファに横たわっていたヨハンが、突然悲鳴を上げた。
「うわっ!」
「え、どうしたの?」
ヨハンの悲鳴に、ソファの反対側でスマホでゲームをしていたハミンが驚いて体を起こした。
「お腹空いたんだ!ご飯はいつ来るんだ!」
「お前が行ってこいよ。」
ちょうどバスの中に入ってきたハンギョルが無造作に言った。
「面倒くさい。疲れる。」
ヨハンは再び発作を止め、大人しく横になった。
「うっ、今何時だ?」
「……」
「今何時だって?」
ヨハンはイライラしながら目を開けた。
周囲を見回したが、誰もいない空っぽのミニバスの車内しか見えなかった。
「おい?みんなどこに行ったんだ?」
窓の外を覗いてみたが、窓の外は光一つない完全な闇だった。
「何だよ?」
ソファから体を起こそうとしたが、足がすくんでよろめき、床に倒れ込んだ。
「くそっ……何だよ、ふざけるな!」
視力が失われ、闇だけが訪れた、あの時の記憶がヨハンを襲った。
「おい!」
叫んでみたが、誰も答えてくれなかった。
全身に力が込められなかった。
「くそ。俺、ヨハンだ!」
声を張り上げて叫びながら、ミニバスのドアに向かって這っていった。
「ちくしょう…」
やっとのことでドアを開けると、闇と共に臭いが押し寄せてきた。
どこかで何度も嗅いだことのある臭い。
うんざりするほど何度も嗅いだことのある臭い。
死にかけている自分の体から漂っていた匂いだった。
「はあ。俺、死んだのか?」
「くそ、それでも痛くはなかったな。」
ヨハンはふっと笑うと、床に手をついて体を起こした。
よろめきながら、闇の中へと歩み出した。
「死んだら、本来なら光の道が見えるはずじゃなかったか?」
「あ、俺、天国には行けないのか?」
クスクスと笑いながら、辛そうに足を踏み出した。
数歩も歩かないうちに、前方にある人の影が見えた。
イウムだった。
「イウムか?」
ヨハンの声を聞いたイウムが顔を向けた。
悲しげな目で自分を見つめ、口を開いた。
「おい。起きろよ、パンでも食え!」
馴染みのある軽快な声と共に、額に衝撃が走った。
馴染みのある衝撃だった。馴染みのある拳だった。
ヨハンが目を開けると、バスの中は明るく、暖かかった。
パンの香りがバスの中に満ちており、周りの友人たちは真剣な表情でパンを受け取っていた。
腕章をつけたイウムが、横たわっているヨハンを見つめながら、腰に両手を当てた。
「おい、この怠け者。毎日こんなふうに寝転がってゴロゴロしてたら、お腹が出ちゃうぞ!」
「えっ……。」
ヨハンはイウムの目をそらして顔を背けた。
「はあ、この情けない奴。パンでも食えよ。早く立って選べ!」
イウムの声のトーンが低くなった。少し笑いが混じった声だった。
ヨハンは体を起こし、テーブルの上に並べられたパンを素早く眺めた。
「イウム。」
「何?」
「チョコソボルない? 俺、あれ食べたいって言ったのに……うっ……。」
イウムの拳がヨハンの後頭部に炸裂した。
「ただ出されたものを食え!」
彼らの遅めの朝食は、穏やかで温かく、幸せなものだった。
ミニバスの車内は、いつも通り平和だった。




