EPISODE15. 小さな演奏会。
2025年7月4日。
灼熱の太陽が降り注ぐ弘大のレッドロード。
赤褐色の歩道ブロックの上には熱気ぼたが立ち上り、その上を大勢の人波が埋め尽くしていた。
「ギョル、今、公演できるかな?」
ハミンがハンギョルをポンポンと突いて尋ねた。
「いや、夕方の時間は満員だって言ってたじゃないか。」
ハンギョルはイライラした表情でハミンを見つめながら言った。
「今日はもうやめようよ。これって仕事でもないのに、わざわざ定期的にやらなきゃいけないの?」
ヘジンが眉をひそめて言うと、ヨハンはその顔を見て笑いながら言った。
「今日はメイクもきれいに決まってるのに、なんでイライラしてるの?」
「この野郎が?」
ヨハンの皮肉な言葉に、ヘジンの右手が素早くヨハンの腹めがけて飛んだ。
瞬く間に腹を殴られ、うめき声を上げるヨハンを見つめながら、ヘジンが一言言った。
「可愛い拳で殴られて、気分がいいだろ?」
DJブースのハンギョルが、白い分厚い棒を2本持ち、空中で振り回すと、アンプを通して拍子を外したドラムの音が聞こえ始めた。新しく買ったというおもちゃのエアードラムだった。
ウンビは目の前に置かれた長いキーボードの上に左手を置き、単純なコードを繰り返し弾き始めた。
手前のヨハンが白いアコースティックギターの胴体を叩き始めた。
ドラム音の間々に重なり合う打撃音が、ドラム音の中核を成して響き渡った。
今日に限ってメイクが良く決まって美しいヘジンが、ドラムの音とギターのボディを叩く音の上を滑るように乗り上げた。
まるで都市の夜景を彷彿とさせる、洗練されながらも不安を帯びた演奏。
イントロが終わると、ウンビはキーボードの横に設置されたスタンディングマイクに顔を近づけ、口を開いた。
明かりの消えた窓の向こう、名もなき顔たち
笑ってはいるけれど、何も言わないね
低く重厚でありながらくっきりと響き渡る、夢幻的な声。
ウンビの口元がわずかに上がり、微笑みながら歌う姿に、観客たちは息をのむような表情を浮かべた。
ガラスカップに残った夜。冷めゆく温度
もう分かっている。夜が終わりつつあることを。
メロディーといえばベース音と単純なコードだけを奏でるキーボードの音の上に、抑揚がほとんどなく低く呟くヨハンの荒々しい声が重なった。
君の眼差しはいつも早くて、
僕の答えはいつも遅すぎた。
白い2本のスティックを空中で振り回していたハンギョルが、いつの間にかスティックを置き、DJブースのテーブルの上にある電子ドラムパッドを叩き始めた。
前に出ることなく、後ろから引き寄せるようなリズムだった。
同じ言葉を、違うリズムで、
ずれてばかりいて、傷ばかりが積もった。
アコースティックギターを弾いていたヨハンは演奏を止めず、自分の前に置かれたスタンディングマイクに口を近づけた。
ウンビの声の下に、自分の声を重ねた。
Smooth operator
互いを通り過ぎてぶつからない夜の軌跡のように
Smooth operator
掴みもせず、逃げもしない。選択ではない方式。
Smooth operator
名前はなくても、僕たちは同じ夜を確かに越えてきた
Smooth operator
終わりじゃない。ただここで少し止まっただけ
ウンビとヨハンがマイクから顔を離すと、ハミンが一歩前に歩み出た。
一音弾いて休んで、また一音弾いて休んで。
少し歪んだテンションの演奏の上に、ヘジンが親指で弦を叩き、人差し指で弦を弾き上げ始めた。
いたずらっぽい笑い声のような音。
ハミンがいたずらっぽい表情でヘジンを見つめると、ヘジンは顔を背けてその視線を避けた。
再び4小節のギターソロが過ぎると、今度はウンビの代わりに、ヨハンがマイクの前に顔を近づけた。
君の眼差しはいつも早くて、
僕の答えはいつも遅すぎた。
淡々と、低く呟くように。
視線は観客の最前列、真ん中に座って嬉しそうな表情で手を振る女性、イウムに向けられていた。
同じ言葉を、違うリズムで、
ずれてばかりいて、傷ばかりが積もった。
再びウンビの声が加わった。
Smooth operator
互いをすり抜け、ぶつからない夜の軌跡のように
Smooth operator
掴まなくても、逃げもしない。選択ではない方法。
Smooth operator
名前はなくても、僕たちは同じ夜を確かに越えた
Smooth operator
終わりじゃない。ただここで少し止まっただけ
ヨハンはギターを叩いていた手を止め、マイクを外して持ち、中央へと歩みを進めた。
ウンビの声が消え、ヨハンがラップのように話し始めた。
掴まない 逃げもしない
これは選択じゃなくて ただのやり方さ
短く、打撃感のあるドラムの音が飛び出した。
ハミンがウンビの前のマイクのそばに、ヘジンがヨハンの前のマイクのそばに並んで立ち、口を開いた。
ハンギョルはDJブースの上にあるテーブル用スタンディングマイクの近くに顔を近づけた。
Smooth operator
名前はなくても、僕たちは同じ夜を確かに越えてきた
Smooth operator
終わりじゃない。ただここで少し止まっただけ
メンバー全員が口を開き、一緒に歌い始めた。
そしてハミンのギター音が消えた。
次にウンビの手が止まり、ドラムの音が消えた。
ヘジンのベースの音だけが残っていたが、徐々に小さくなっていった。
いつの間にか、何の音も聞こえなくなっていた。
「うわあ!」
観客の歓声が広がった。
***
夕方。弘大の片隅にある小さなパブ。
メンバーたちとイウム、そしてセリンが、6つのテーブルのうち2つをくっつけて座り、賑やかに騒ぎながら遊んでいた。
「今日も大成功!」
「ハミンさん、今日も素晴らしい演奏でした。」
「ハミン、お前、今日のライブでミスを3回もしたぞ。」
「ヘジンは今日もメイクが最高だったし。」
「うちのハミンさんにそんな生意気なことを言うなんて、よくもまあ。」
「ゴキブリのいない場所で暮らしたい。」
「カクルチュ?」
すでにかなり酒を飲んだのか、支離滅裂な会話を続ける一行に、パブの店主が近づき、十数個の寿司が載った皿をテーブルに置いた。
ハンギョルが不思議そうな表情で店主を見つめると、店主は笑いながらハンギョルを見て口を開いた。
「これは前金だ。ハンギョルさん、今日ちょっと仕事を手伝ってくれ。」
ハンギョルが不思議そうな表情で店主を見つめると、店主は店の片隅に置かれたアップライトピアノを指さした。
「あれを調律してくれないか。前に調律して行ってから随分経つだろ。」
「店主さん、僕今酔っ払ってるんだけど?」
「いつ酔っ払ってなかったんだ?」
ふらふらと目を泳がせるハンギョルを見つめていた社長が、くすりと笑った。
「久しぶりに一曲弾いてくれよ。」
よろめく足取りで、熊のような巨体を動かしていくハンギョルの姿を見つめていたヨハンとハミンが、互いに意味深な眼差しを交わすと、すぐに食卓に並んだ寿司を口の中に放り込み始めた。
「おい、お前らその寿司に手を出したら死ぬぞ…」
隅のピアノに向かって歩いていたハンギョルが、寿司に手を出すなという警告をしながら振り返り、寿司を頬張っていたヨハンとハミンを見つめた。
「このクソ…」
罵声を浴びせていたハンギョルとハミンの目が合った。
口いっぱいに頬張ったご飯と魚の身をゴクッと飲み込んだハミンは、目をそらしながら口を開いた。
「もしかして傷んでないか確認してるだけだよ。うちのギョルはいつも変わらず大切にしてくれるから。僕の気持ち、わかるよね?」
再びハンギョルと視線を合わせ、ウインクをちらりと送るハミンだった。
その大きな体でアップライトピアノの前面パネルをすべてはがし、狭い下の方に入り込んでしばらく調律をしていたハンギョルが、調律を終えてピアノの鍵盤の前に座った。
「久しぶりだけど、何か聴きたい曲があるやつはいるか?」
ハミンが友達たちを見回して尋ねると、ハミンが手をパッと挙げて叫んだ!
「僕!僕!民謡を聴こう!『国民遊び』のOST。人間種族のテーマ曲!」
「サ・イェ、そういうやつ?」
「いや、それじゃなくて、トゥドゥドゥドゥン、トゥントントンと始まるやつ。」
ハミンの言葉に、ハンギョルはピアノの椅子からお尻を離し、ピアノの方へ身を乗り出した。
左手で胴体を叩き、右手でパネルが外れて内部が露出したピアノの弦を弾き始めた。
タッ、タッ。4分の4拍子で押し下げるようなダウンビートのリズムと共に、かつてネットカフェで皆の血を沸き立たせた馴染み深いメロディーが、まるでギターの音のように広がり始めた。
左手が鍵盤へと移動し、右手は弦を弾き続けた。
左手が華麗に動き始め、やがて右手が再び鍵盤の上に戻ってきた。
左右の手の位置が入れ替わったまま、指が黒と白の鍵盤の上で華麗に動いた。
アップライトピアノの前に立ったまま両腕を交差させ、激しい演奏を繰り広げていたハンギョルのそばに、ハミンが自分のギターを持って近づいてきた。
「民族音楽は我慢できない!」
エフェクトのかかっていないエレキギターの音が、スマートフォンのスピーカーからかすかに広がっていった。
ハンギョルのピアノの音と音の隙間を滑るように繋ぐように割り込んできた。
演奏中の音とは似つかわしくないコードを弾くハミンの電子音が割り込むと、ハンギョルはくすりと笑うと、ピアノの鍵盤の上に不協和音に近いテンションコードを放った。
互いの音を押し引きし、拍子を奪い合う奇妙な戦い。
あまりにも多く聴いて慣れ親しんだ民俗遊びのテーマ曲が変質し始めた。
その瞬間、ベースの音が入り込んだ。
トゥントゥン トゥドゥドゥン トゥン トゥン トゥン
それは人類の根源にあるメロディーだった。
椅子の上に片足を乗せ、薄暗いパブの照明の下でかすかな光を浴びて金色に輝くベースギターを、ヘジンが弾き始めた。
すでに原曲の形を留めていないギターの電子音とピアノの打鍵音の隙間を貫き、中心を結びつけた。
すでに馴染み深いヘジンの、誰も割り込めないほど完璧だったノードを中心に戦いを繰り広げていたハミンとハンギョルの不協和音が形を取り戻し、圧倒的な戦場の様相を描き出し始めた。
ハミンのギターがサイオニックの剣となって振り回され、ハンギョルのピアノがシズモードでコードを放ち続けた。
そしてヨハンがスマートフォンを顔のすぐ前にかざし、口を開いた。
「エスシービー・ゴーズ・ゴー・スール!」
「サア、イェー!」
ヨハンの声が響き渡ると同時に、パブの中にいた数少ない観客たちから爆笑が湧き上がった。
そうして演奏が終わり、ヨハンと友人たちも互いを見つめ合って笑った。
店主が演奏を終えたハンギョルに近づき、背中をポンポンと叩きながら口を開いた。
「またチューニングしなきゃな?」
小さなパブの中は賑やかだった。
友人たちは引き続き楽しそうに演奏を続け、数少ない客たちは彼らの熱烈なファンとなり、楽しそうに音楽を聴き、一緒に楽しんでいた。
一曲が二曲になり、二曲が四曲になり、この四曲目の演奏が終わり、皆が疲れ果てて息切れし始めた頃だった。
ウンビがヨハンを見つめて言った。
「ねえ、お兄ちゃん、ブタちゃん。昨夜、一人で気取って歌ってた曲あるでしょ?あれ、イウムお姉さんに聞かせようとしてたんでしょ?今ここでやってみて。いい曲だったよ。」
ウンビがニヤリと笑いながらヨハンに言うと、ヨハンは静かに自分の白いアコースティックギターのボディを親指で一度なぞった。
木が低く響いた。
息を吸い込んだ。
歌おうとする息ではなかった。
ただ、癖のように出る呼吸だった。
「夜空に二つの星。」
抑揚がほとんど感じられない、ただの呟き。いや、ぶつぶつ呟き。
ギターの弦を弾いた。
アルペジオでもなく、コードでもなかった。
慣れた位置を探す手の動き。
「その下に流れ落ちた。」
ヨハンの視線が周囲を巡った。
歌いながら、友達たちを見つめた。
「銀色の水銀を。」
声も、ギターの伴奏も、しばらく止まった。
再び右手でギターの弦を撫で下ろした。
指が金属の弦を撫でることで生じる摩擦音が響いた。
「指先で拭い取れば。」
ゆっくりとしたメロディー、かすれた声。
「ぼんやりと固まって」
弦を軽く撫でる手の動きに、音は瞬く間に消え去りそうなほど小さく、繊細なギターの音色が続き、
「流れ落ちて、消えた。」
次第に弱まり、ほとんど聞こえないほど声が小さくなった。
「冷たかった銀色の液体。」
音がわずかに上がった。
「体温で温かくなる。」
パッと、手のひらでギターのボディを軽く叩いた。
弦を弾く指が、柔らかなメロディーを作り出していった。
「ふんわりとまとまった。」
ヨハンの声が一瞬震えた。
歌のせいではなく、息が詰まったからだった。
「溶けて消えてしまった。」
ヨハンはギターを見下ろした。
弦の上に手を置いたままだった。
「指先には銀色の痕跡。」
声にはもはや抑揚がなかった。
「温もりだけは残っている。」
ただ呟くような声。
「夜空に二つの星。」
ギターの伴奏の音はほとんど聞こえなかった。
「その場所に、相変わらずあるね。」
ただ、荒く低い声だけが聞こえてきた。
そして、瞬く間にすべての音が消えた。
歌が終わり、顔を上げたヨハンが友人たちを見つめた。
ヨハンをじっと見つめる視線たち。
驚いた表情でヨハンを見つめていたハンギョル、ニヤリと笑いながら親指を立てたハミン、大きな両目に涙を浮かべているイウム、そして友人たち。
「おお、最高じゃないか? ただの詩人なのか?」
ハミンの軽薄な笑い声と声が、静まり返ったパブの静寂を破った。
観客となっていたパブの他の客たちが、歓声と共に拍手を送った。
歌を終えたヨハンは、観客に向かって一度手を挙げて歓声に応えた後、息を切らしながら椅子にそのまま頭を深く垂れて座っていた。
そんなヨハンの姿を見たウンビが素早くヨハンに近づき、背中を叩きながら何かを話した。
ハミンはそんなヨハンを悲しげな目で見つめ、歓声が収まる頃になって口を開いた。
「私たちの名ボーカル、ヨハンが今回の公演のエンディング曲を歌ったみたいだけど、そろそろ皆さんお帰りになるべきじゃない?」
「えー!」
盛り上がっていたところ突然終わってしまったことにがっかりしたのか、観客からブーイングが飛んだ。
「もう一曲だけやってよ、あのゴキブリの曲。」
ある女性客がウインクしながらハミンに話しかけると、ハミンは顔を向け、ヨハンとハンギョルを見つめた。
椅子に身を沈めて座っていたヨハンは、顔を上げずに片手を上げて軽く振った。大丈夫だという意味だった。
ハンギョルが周囲を見回して言った。
「DJ機材がないから難しい曲だけど、ピアノとベースをメインにしたアコースティックバージョンで行くよ。みんなしっかりついてきて、ヨハンはパーカッションだけやって。今回はメインボーカルとラップを僕がもっとやるから。」
ピアノの前に座ったハンギョルの右手が重厚にコードを弾き、音を積み重ね、左手は華麗に動いた。
ストリートライブでの、冷たく薄っぺらで、不協和音が底を敷くように押し込められた音ではなく、澄み切った清らかな音がゆっくりと流れ出し、ピアノの鍵盤特有の打鍵音がアコースティックギターのメロディーを作り出した。
ヨハンはアコースティックギターを食卓の上に横たえたまま、両手でポンポンと叩いた。
ボディを叩き、弦を叩いた。正確ではなく、感覚的に押し引きする不規則なリズム。
ヘジンのベースギターの音が、接続されたスマートフォンのスピーカーから流れ出た。
低く太く、リズムを飾ることもなく、相変わらず床に打ち込むような音。
ハミンのエレキギターの音が、ハミンのスマートフォンのスピーカーから、澄み切ってもいなければ、濁ってもいない、意図的に擦るような音を立てて、ピアノの旋律とベースの音の間に割り込んだ。
ハンギョルは演奏を続けながらも、ピアノの椅子から体を起こし、ピアノの上に置いたスマートフォンのマイクに口を近づけて。歌い始めた。
「僕のそばには冷気漂う機械ばかりなのに。君のそばには温もり漂う恋人の眼差しがいっぱい。」
ハンギョル特有の、口の中に飴を入れて転がしているような発音と音色。
ヨハンが歌う時とは違い、切なさそのもののような声と、すすり泣いているかのような肩の動き。
「孤独な僕の人生における伴侶は機械ばかり。幸せな君の人生における伴侶のささやき。」
ハンギョルはピアノの演奏を止め、ピアノの棚の上にあるスマートフォンを両手で握りしめ、体を回転させて前に歩み出た。
「寂しい、辛い、物悲しい。」
「僕も彼女が欲しい。」
「僕以外、みんなゴキブリ。」
消えたピアノのメロディの代わりに流れていたハミンのエレキギターが滑稽な揺らぎを作り出し、ハンギョルの切ない囁きが再び飛び出した。
「寂しい、辛い、物悲しい。」
「僕も彼女が欲しい。」
「僕以外、みんなゴキブリ。」
観客の笑い声が聞こえてきた。
ハンギョルは硬い表情で本格的なラップを始めた。
切ない表情と切ない手振り。そして、食いしばった歯の隙間から漏れるような、ゆったりとしたラップ。
「ジャバドジャバド、終わりのない一対のゴキブリ。」
「カクラッーチュ。」
ゴキブリの鳴き声と共に、ウンビが妖艶な表情で口をパクパクさせた。
「ガバドガバド、次々と現れる二対のゴキブリ。」
「カクラッーチュ。」
今度はコーラスをもっとはっきりと歌い上げた。
観客たちの笑い声が楽しげに弾けた。
皆、互いを見つめ合って笑っていた。
彼らの小さな音楽会は、こうして賑やかに続いた。




