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ボーナスストーリー。静かな空席

2025年6月28日、ハミンの家の地下練習室。


ハミン、ハンギョル、ヘジンが合奏をしていた。

「やめろ。」

ハンギョルが演奏を止めた。

「もう一度始めよう。」


「やめろ。」


「もう一度。」


「やめろ。」


「なんでいつもギターが飛び出すんだ!」


ハンギョルの口から怒号が飛び出した。

ハミンも負けじと口を開いた。


「いや、もともとこうだったじゃないか!何がそんなに不満なんだ!」


「……」

二人をじっと見つめていたヘジンが立ち上がった。


「今日はどうせ練習もできそうにないから、僕は今日はここまでにするよ。」

ヘジンが練習室を後にした。


ヘジンの後ろ姿を見ていたハンギョルが言った。

「ふう。ごめん。僕も今日はここまでにするよ。」

ハンギョルも練習室を後にした。


瞬く間にがらんとした練習室に、ハミンだけが座っていた。


2025年6月29日午前。ハミンのカフェ。


ハミンはぼんやりとカフェの中を見回した。

客はいつものようにいなかった。

隅の席を占めていたセリンだけが、目を輝かせてハミンを見つめていた。


毎朝、拳を突き出していたヨハンが恋しかった。


最近セリンのおかげで体力がついてきたから、今度こそ勝てそうな気がするけど…



2025年6月29日午後。ハンギョルのスタジオ。


ハンギョルはイライラした様子でヘッドセットを外した。

モニターに映る波形がぐちゃぐちゃに絡み合っていた。


少し前、ヨハンが倒れた時にトイレで拾った手帳。

そこに書かれていた歌の歌詞。

見た瞬間に浮かんだインスピレーションが完成しない。


ヨハンが必要だった。



2025年6月29日 夕方。ジャズバー「ブルーノート」。


「おじさん、私、行きますね。」


「ああ、ヘジン。今日も素晴らしい演奏だったよ。」


ヘジンは叔父に挨拶し、ジャズバーの重たいドアを開けて外へ出た。

エアコンのおかげで涼しかった室内とは違い、6月の夜はすでに蒸し暑かった。


夜の楽園商店街の前は暗かった。

ヘジンは慣れた足取りで鍾路3街駅に向かって歩いた。


「キャッ!」

どこからか女性の悲鳴が聞こえた。

ヘジンは知らず知らずのうちに、悲鳴が聞こえた方向へ走り出した。


薄暗い路地。4人の男が1人の女性を取り囲み、脅していた。

ヘジンは躊躇することなく走った。


背中を向けている4人の男。

体格は大きくない。

一番左の白い半袖Tシャツを着た男の左膝裏を蹴ってバランスを崩させ、その隣の男の脇腹に左フックを叩き込む。次に、顔を背けた三番目の男の下顎に右アッパーカットを叩き込み、体を反転させて背中で最後の相手を倒す。その後、最初の男が体勢を立て直そうとした頃合いを見計らって再び近づき、背後から右フックを脇腹に叩き込む。


計算は一瞬の出来事だった。


ガチャッ。走る足に缶が当たったようだ。

その音を聞いた連中が振り返り、ヘジンを睨みつけた。


驚いたような目つき。まだ手遅れではない。


ヘジンはそのまま突進し、一番左に立っていた男の膝裏を左足で蹴り上げた。

左足を押し出した反動で、すぐ隣の男に飛びかかり、短いレフトフック。計算通り脇腹に突き刺さった。

その次の男が予想より素早く動いた。


両腕を上げて顎をガードしたまま、ヘジンに飛びかかってきた。


両腕の間へライトアッパーカットを突き刺し、ガードを崩した。

そのまま顔面にレフトストレート。


その瞬間、右脇腹に衝撃が走った。

一番右の男の足がヘジンの脇腹に食い込んだ。


衝撃でヘジンは倒れた。

男たちが近づいてくると、彼は体を丸め、腕で頭を守った。


八本の足が、目まぐるしく体を叩きつけた。


どれほど殴られただろうか、笛の音が聞こえた。


「クソ、お前は運がいいんだな、このクソ野郎。」

誰なのか分からない声が聞こえ、やがて周囲は静まり返った。


「大丈夫ですか。」

男性の声。


顔を上げると、巡査の制服を着た男性が目に飛び込んできた。

その背後には、さっき脅されていた女性が心配そうな目でヘジンを見つめていた。


「はい、大丈夫です。」

「とりあえず病院に…」


警官がさらに声をかけようとしたが、ヘジンはただ挨拶をしてその場を離れた。

道を歩いていたヘジンがふと南の空を見上げた。


「君はそこでゆっくり休んでいるかい?」


「ヨハン。」


「君が必要だったんだ。」


ヘジンが呟いた。



2025年6月30日夕方。ヨハンの病室。


「あ~って言ってごらん。」

「あ~ん。」


食器からご飯をすくってヨハンに食べさせてあげるイウム。

ウンビは憎々しい目でそんな二人を睨んでいた。


「ヨハン、私来たよ。」

ハミンが病室の中に入ってきた。

疲れた様子だった。


「ヨハン、あ…ん?」

ハミンがイウムを見て指差した。


「イウム?」

「ハミンが来たの?」

イウムは平然とした表情でハミンに話しかけた。

「イウム? ここにはどうして?」

ハミンはイウムとヨハンを交互に見つめた。


ウンビは苦笑いしながら、そんなハミンに言った。

「あのゴキブリ二匹がまたくっついたわ。」


「いつ?」

「二日前。」

「なんで?」

「知らないわ。ゴキブリって、理由があって出てくるの?甘いものを探しに来るだけよ。」


イウムがウンビの頭に軽くパンと叩いた。

「これでお姉ちゃんやお兄ちゃんにゴキブリだなんて。」


「私がこんな姿を見なきゃいけない理由を、10個挙げてみろ!」

ウンビがイウムに向かって怒鳴りつけた。

イウムはそんなウンビを、可愛らしいというように見つめた。

ヨハンは「いい顔だ」という表情で笑っていた。

ハミンは呆気にとられたような表情で、三人を見つめるだけだった。


「ヨハン、元気か?」

ベレー帽にサングラス、マスクをした怪しげなクマが一匹、病室に入ってきた。

「お?ハミンが来ていたのか?」

ハンギョルはハミンを見つけると、足を止めた。

「ハンギョルが来たのか?」

「うん。なんだか人が多くない?」


「うん。今日は特に多いね?」

ヨハンは不快そうな表情でハンギョルとハミンを見つめた。


「ハンギョル、久しぶりだね。」

「え?誰?」

「僕、イウムのこと覚えてない?」

「イウム?」

ヨハンの隣に座っていたイウムがハンギョルに挨拶した。


しばらく考えていたハンギョルは、何かを思い出したかのように目を輝かせた。


「あ、僕たちのイルホファン!」

「おい。僕たちの大切な『ご主人様』に、生意気にもイルホファンだなんて?」

ヨハンが割り込んだ。

ハンギョルは二人を交互に見つめた。

「ご主人様?ヨハン、お前、独り身じゃなかったの?生まれつきの独り身?」

ハミンが肘でハンギョルの脇腹をポンポンと突いた。

「あいつら、付き合ってから10年になるんだ。」

「え?あれ、僕たちみたいに独り身部隊じゃないの?」

「うん、違うよ。」

ヨハンが勝者の笑みを浮かべた。


戸惑っているクマの背後に、ほっそりとした影が現れた。

「え?ヘジン兄さん、いつ来たの?」

「今来たよ。」

ヘジンが無表情に手を振って挨拶した。

「おいおいヘジン、あそこのヨハン、彼女がいるんだって。それも10年も付き合ってるんだって。」

「そう?」

「 いや、あれは裏切りじゃない? 俺たちの独身部隊の栄光を裏切ったんだ。」

「俺も10年付き合ってる彼女いるよ? 前に警察署で会っただろ?」



「おほほ。ハミンさんのご友人の病室はここですか?」

華やかな女性。セリンが病室を訪ねてきた。

「さあ、持ってきたものはここに置いてください。」


スーツ姿の二人の男が、巨大なカゴを二つ抱えて入ってきた。

パイナップルとアボカドが山のように積まれた、二つの巨大なフルーツバスケットだった。


「うーん、病室が少し狭ですね。ハミン様の友人がこんなみすぼらしい病室にいるなんて、私には許せません。今すぐ個室に移してあげましょう。」


「明日退院するんですけど?」

ウンビが呟いた。



「オホホホホホホ。」


病室に響き渡る大笑い。

「他の人がいなくてよかった。」

ウンビが呟いた。


「ヨハン、ところでセリンはなぜ来たの?」

セリンを知っているハンギョルがヨハンに尋ねた。

「え? 知らないよ。前にキャンプ場に行った日以来、初めて見た。」


ハンギョルはヘジンをじっと見つめた。

「……」


ハミンを見つめた。

ハミンはうんざりした表情でセリンを見つめていた。


「あら、ハミンさん。どうしてそんな不快そうな表情をされているんですか。どこか具合が悪いんですか。」


セリンがハミンに近づき、腕を組んだ。


「え?」


ハンギョルは崩れ落ちた。

まるで試合の後、顔面蒼白になってコーナーにへたり込んだ、ある漫画のボクサーのように。


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