7,学級委員長は好青年
7,学級委員長は好青年
教室のドアを開ける。
朝のざわめきと、どこか気の抜けた空気が流れ込んできた。
ふざけている男子、メイクをしながら喋る女子。教室は多種多様な音で溢れていた。
「……うぅ」
少し、めまいを感じながら人をかき分け席に向かう。
これだけ人がいれば、余像も倍増である。
「大丈夫?」
白峰が心配そうに僕の顔を覗き込む。
「問題ないよ、フェスが終わるまで席で大人しくしてるから……」
「水持ってくるね!?」
白峰は足早に教室から出ていった。……いや、あれ絶対走ってるだろ。
(とにかく、朝礼が終わるまでの我慢だ……)
僕の通っている高校である、蒼結高校では授業は選択制となっている。
生徒は進路別に分かれ、その過程に沿った科目を選択する事で、より良いスキルを会得することができる。
……というのがこの高校の売りらしい。
つまり、僕は生徒があまりいない不人気コースを選べば静かに授業を受けられるのである。
(一限目は古典か……)
このコンディションじゃ寝るな。と思いつつ、カバンから参考書を準備していると。
「よう、転校生」
前の席の男子に声をかけられた。
短く整えた色の薄い茶髪に、整った笑顔。いかにも“さわやか”な印象を感じる顔をしている。
「今日も真っ白な顔してるぞ?朝飯食べて来たか?」
「ちゃんと食べてるし、色が白いのは元からだ。気にしなくていいよ」
「気を使せて悪いな。えっと……」
「京平、和泉京平だ、よろしくな」
「よろしく、京平。湊、黒渕湊だ」
軽く握手を交わす。
少しの会話で容易く相手の懐に入り込む。恐るべしだな、陽キャ。
「きょーへい、ちょっときてー」
別クラスの友達だろうか、二人の生徒が教室のドアから入らないように立ち京平に声をかける。
「おー今行くー」
一瞬だけ、京平の表情が抜ける。
——がすぐにまた、爽やかな笑顔に戻る。
「悪い、湊。また後でな。」
京平は立ち上がると、友達の方に行ってしまった。
見ると友達にノートを渡している。友達が拝んでいるのをみるに課題を写そうという魂胆だろう。
しかし、京平は嫌な顔ひとつせずに渡していた。
「和泉君?」
戻ってきた白峰が僕に水を渡して言う。
お礼を言い、水を一気飲みする。キンキンに冷えていて、喉に心地いい。
「うちのクラスの学級委員長だね」
「文武両道で面倒見もいいから、女子の中でも和泉君の事が好きな子は結構いるみたい」
その“女子”の一人であるはずの白峰が言う。
「妙に他人事だな」
「だって他人だもの」
「さようで。これが余裕のある女ってやつですか」
「なんで、そこでわたしが男に困ってない前提が立つのかなー?」
ヒリヒリと、白峰の周りの温度が上昇した気がした。
——いや、気のせいじゃないな?
「よ、よーし、一限目の予習でもしておこうかな?」
なぜか、あんなに嫌だった古典の授業が待ち遠しくなってきた。
いまならどんな古文でも理解できる気がする。
恐るべし、僕の生命力。




