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この世は正しいようで、怪しく壊れている  作者: 海斗


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5,私とお揃いだね

5,私とお揃いだね

 「おい……どこ連れてく気だよ?」

 目の前で手を引く、白峰に問いかける。


 「大丈夫。黙ってついてきて」

 白峰は振り返らず答える。


 「……お前さっきから様子がおかしくないか?」

 さっきまで、送り犬と戦っていた時と違い明らかに余裕がない。


 「なあ、本当に——」

 「いいから」

 白峰の言葉が僕の言葉を遮った。

 そのまま手を引かれる。


 一瞬、迷う。


 ——今は、異常はない。

 振り切って帰るべきか、それとも……。


 「……はぁ」

 ため息をつき、頭をかく。


 「そのかわり、ちゃんと説明してもらうからな?」

 ……我ながら、甘いな。


 やがて白峰は、住宅街の奥にポツリとある、一軒の家の前に立ち止まった。


 「着いたよ」

 「ここって、お前ん家か?」

 白峰は小さく頷く。


 「さすがに、今日知り合ったばかりの女子の家に入るのはどうかと思うんだが……」

 白峰が先生なんて言うものだから、医者か何かだと思っていた。


 「気にしないで」

 お前が気にしなくてもこっちが気にするんだが……。

 白峰が玄関扉を開ける。鍵は、かけてなかったらしい。


 「……はぁ」

 今日何回目か分からないため息をつき、靴を脱いで中に入った。


 家の中は、妙に静かだった。

 生活感があるのに、人の気配がない。


 「親御さんとかいないのか?」

 「いないよ、もう」


 白峰は少し間を空けた。

 「でも、ひとりじゃないから」

 「それって、どういう……」

 言い終えるまえに、居間の襖が開かれた。


 畳の上。

 黒い毛並みの猫が、座布団の上で丸まって寝ている。


 「……猫?」


 「凪先生起きて、見てほしい人がいるの」

 白峰が、まるで人を起こすかのように揺さぶって起こそうとする。

 いや、いきなり起こすのは可哀想だろ。引っかかれたらどうすんだ。


 「おい、白峰——」

 「遅かったじゃないか、しおり」

 猫が起き上がる。


 「……は?」

 見間違えだよな?今、喋ったよな?


 「おなか空いちゃったんだけど」

 見間違えだよな?今、せんべい食べてたよな?


 「あ、お茶冷めてる」

 見間違えだよな?今、お茶淹れてない?


 「うわ、なんだおまえ」

 やはり、僕は疲れてるらしい。猫がおっさんに見える。


 「凪先生紹介するね、こちらクラスメイトの黒渕湊君」

 白峰が猫に僕を律儀に紹介する。


 「黒渕君この人(猫)が、凪先生」

 「凄腕陰陽師なの」

 「今はワケありだけどね」

 猫改め凪先生が捕捉する。


 「それで、先生の見解を聞きたいんだけど——」

 その後、白峰は僕が余像を視えること、送り犬の出来事を凪先生に説明した。

 説明が終わると凪先生は黙り込んだまま、考え込むように目を細めた。


 「……なるほどね」

 「湊……だっけ?ちょっときて」

 招き猫のように呼ぶ凪先生のそばに行くと、柔らかそうな肉球を僕の胸に当てる。


 「……何かわかりそう?」

 白峰が凪先生を支えながら聞く。

 「現状では全てはわからないが、はっきりと断言できる事が一つあるよ」


 「なんなんだ?」


 「君の中には確かに妖怪送り犬の……”痕跡”がある」


 「……は?」

 思わず間抜けた声が出てしまった。


 「取り憑かれている、というよりは少し違うね」

 凪先生は僕の胸に当てたままの前足を、軽く押し込む。


 「君自身の中に、”その妖怪が起こした結果”だけ残ってる」

 「結果……?」

 「例えば——本来なら斬られていたはずの痕跡。噛み裂かれていたはずの因果。それらが、君の中で”再現可能な形”で定着している。」


 「……なんだよそれ」


 「つまり君は」

 凪先生はそこで一度言葉を切った。


 「妖怪そのものを宿してるのではなく、妖怪の”現象”だけを、引きだせる状態にある」


 「……それって」

 白峰が小さく眉を寄せる。


 「普通、あり得るの?」


 「さあね」

 凪先生が小さい肩で肩をすくめる。

 「この手の話に“普通”を持ち込むのは、あまり賢くないよ」

 それだけ言って、話を打ち切るように手を離した。


 「それより——もうこんな時間だ」


 凪先生は、ちらりと時計を見た。時刻は九時を回っている。

 「しおり、湊を送ってやって。黄昏時(たそがれとき)は過ぎているが、万一のためにね」


 「え、ちょっ——」

 まだ、全て説明してもらってない気がするんだが。


 「細かい話は、また明日にしよう。」

 「その方が、君の頭も回るだろうからね」

 そうあくびをしながら言うと、座布団の上に丸まってそのまま寝息を立て始めた。


 「……なんなんだよ、ほんと」

 「……よく分からないけど、取り憑かれてないなら大丈夫……かな」

 「取り憑かれてるより怖いこと言われた気がするんだが?」


 「今時、ありえるかもよ?」

 「妖怪と体をシェアする流行があってたまるか」


 「なら——私とお揃いだね」


 「……何か言ったか?」

 「別に」

 白峰はくるりと背を向ける。

 「ほら、帰るよ」

 

 玄関の扉が閉まる音が、静かに響く。

 しばらくして——。


 「……行ったか」


 丸まっていた猫がゆっくりと身を起こし、天井を見上げる。


 「……やはり、引き合うか。核と楔は」

 「これも、君の仕業か。それとも、巡り合わせか……」


 その言葉は、静かに溶けていった。


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