第6話 最後の月夜
七章最終話です。
頼通の寝顔に強い朝日が差し込むのをナオクスヒメはその隣で、じっと見つめていた。
やがて、彼は小さく唸って、ゆっくりと目を開く。
眩しそうに何度か瞬きし、ナオクスヒメの姿を認めると、微笑みを浮べた。
「よく眠っていた」
ナオクスヒメがそう言うと、頼通は急に笑い出した。
「人間とは不思議なものだな。今日死ぬとわかっていても、眠れるものとは」
ナオクスヒメは微笑みで答え、ゆっくりと起き上がった。
そして、いつも通り女房装束を身に付け始める。
「……行ってしまうのか?」
振り返ると、頼通は不安げに顔を曇らせていた。
「これ以上、汝といたら、刃を向けられなくなってしまう」
ナオクスヒメは最後に裳を腰に結び、裾をさばきながら戸口まで行って、頼通を少し振り返った。
何か言葉を残そうと思ったが、言いたいことも伝えたい気持ちも、昨夜のうちにすべて言い尽くしていたらしい。
ナオクスヒメは無言のまま部屋を後にした。
***
戌の刻、雲一つない空に立待月が昇る。
ぽっかりと空から切り取られたように、輝く星たちの間にその姿を留め、やわらかな光を放っていた。
ナオクスヒメは早めに退出してきて、動きやすい単衣袴に着替えると、自分の分身とも呼べる神剣クラノオハバリを宙からたぐり寄せた。
黒々と闇の中で光る刀身は血を吸えば、きっとその真紅を際立たせることだろう。
久しく人を斬っていなかった剣は血を浴びて、歓喜に震えるに違いない。
心のすべてを無に還す。
そして、自分にはっきりと言い聞かせる。
あれはイザナキ。
吾が生まれて、一度も会ったことのない男。
だから、躊躇する必要などない。
一気に斬り捨てるのみ――。
ナオクスヒメは頭の中で何度も繰り返し、心が落ち着いた時点で局を出た。
次話より八章が始まります。
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