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女神は月夜に降臨する ~孤独な女神の初めての恋は、世界の崩壊の始まりだったのか?~  作者: 糀野アオ@『落ち毒』発売中
七章

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第4話 猶予

 オオマガツヒがナオクスヒメの局《つぼね》にやって来たのは、子《ね》の刻《こく》をすでに回っていた。


 退屈も頂点になっていた女房たちが、なかなか手放さなかったのだろう。


「待たせたな」


 オオマガツヒは入口で肩にかかった雪を払うと、遠慮もなく入ってきて座った。


「頼通がここに来る時を見計らって、また入り込んだのではあるまいな?」


 ナオクスヒメが問いかけると、オオマガツヒは気分を害したように眉根を寄せた。


「二度も同じことをするか。あれは今宵来ない。生まれた子が死にかかっているからな。そちらに付きっきりだ」


「そうか……」


 咲《さき》姫《ひめ》が命と引き換えに残した子は、育たないということなのか。


 頼通にとっては初めての子だというのに、死ぬようなことになったら、その心痛は計り知れない。


 しかも、頼通はこれから死にゆく者。

 その事実を知った時、子を残せなかったことはさらなる悲しみをもたらすかもしれない。


 ナオクスヒメは鬱屈《うっくつ》とした気分を払うように、一息ついて顔を上げた。


「話とはイザナキのことか?」


「他にあると思うか?」


「母上から聞いたのか? イザナキが見つかったと」


「遅かったな」


 オオマガツヒもまた驚くことなく、ヨモツと同じ言葉を発した。


「いつから知っておった?」


「半月ほど前か。お前があまりにあの男に執着するから調べた」


「では、母上に知らせたのは汝か。なぜ、母上に言う前に吾《あ》に言わなかった?」


「言ったところで無意味だろう。あの男と別れられないお前に言ったところで、イザナキを殺せるとは思えなかったからな」


 的を射たオオマガツヒの言葉に、ナオクスヒメは何も言えなかった。


 オオマガツヒは目を細めて静かに笑っている。


「お前たちもしぶといというか。結局、別れる前にお前が気付いてしまったというわけだ。よって、未だ決心できないでいる」


「……やらねばならぬのは、わかっておる」


「わかっているのなら、そろそろこの雪も止めるぞ」


 もはやこの流れは止められぬのか。


 ヨモツがイザナキの存在を知っている今、自分が使命を放棄すれば、別の新しい神を次々と送り込んでくるだけのことだ。


 ナオクスヒメは両の手で口元を覆い、気持ちを落ちつけるために大きく息を吐いた。


「もう少し待ってくれぬか? 頼通はまだ何も知らぬ。今一度、彼に会って話す時間がほしい」


 ナオクスヒメが懇願すると、オオマガツヒはしばらくの間、沈黙を保っていた。


 やがて、彼はあきらめたように肩をすくめて、柱に寄りかかった。


「まあ、いいだろう。人間がこの雪に右往左往するのが、つまらないわけでもないしな」


「感謝する」


「では、猶予はお前があの男と次に会うまで。その翌日の夜、イザナキを黄泉に送る日としよう」


 ナオクスヒメは頷いたが、それにしても、と疑問がふつふつとわいてくる。


「汝はなぜ、わざわざ雪を降らせてまで、猶予を与えようなどと思った?」


 オオマガツヒは俯くと、束の間、肩を揺らして笑っていたが、ゆっくりと立ち上がり、戸口に歩いていった。


「最期にお前の一番美しい顔が見たかったからさ」


 オオマガツヒは不可解な言葉を残し、そのまま雪が舞い込む細殿《ほそどの》に出ていった。

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