第3話 すれ違い
皮肉なものだな……。
頼通は物見の窓から見える月を恨めしく思いながら、牛車に揺られていた。
月の出ていない間は逢えないと言われ、月が昇ったら昇ったで、美濃はどこかに行ってしまう。
彼女の局でしばらく待ってみたものの、帰ってくる気配はいっこうになかった。
いい加減に諦めて、自分の邸に帰るところだ。
それに、隆姫と咲姫の確執が気にならないわけでもない。
今朝、隆姫が知るところとなって、どうなったのかを考えると、末恐ろしいものがある。
まさか二人がすでに顔を合わせているなどということはないと信じたい。
縁の者をあたって、今日、半ば無理やりに咲姫の住む場所を決めてきたところだ。
咲姫の具合いが良ければ、明日にでも移すつもりでいる。
ならば、隆姫に身重の咲姫など目に入れて、下手に刺激したくはない。
隆姫を労わる言葉を考えながら邸に着くと、その足で北の対屋に行った。
「ただいま帰った」
頼通はそう言いながら、御簾の中に入ったが、隆姫は脇息に寄りかかってどこか遠くを見つめたまま、身じろぎ一つしなかった。
「あ、お帰りなさいませ。お出迎えもせず、申し訳ございません」
そばに控えていた千鶴が慌てたように隆姫の代わりに挨拶する。
「姫、隆姫?」
頼通が目の前に座ったことに気が付いているのかいないのか、隆姫はまるで魂が抜けてしまったかのように表情がない。
「何があった? 具合いでも?」
頼通が千鶴に聞くと、彼女は暗い顔で俯いた。
「昨夜からずっとこうなのです。お食事もなさらず、お話もほとんどなさらず。このままでは病になってしまいます」
「その、やはり咲姫のことが……?」
このようなことは隆姫らしくない。
いつもならば、頼通の顔を見るなり、嫌味の一つ、怒鳴り声の一つも上げているところだろう。
頼通はすっかり意表をつかれて、どう扱っていいものやらと困惑していた。
「咲姫のことなら、明日にでもよそに行くから心配しなくていい。あなたの気持ちも考えず、勝手なことをしてすまないと思っているよ」
頼通は隆姫の髪をそっと撫でてみたが、やはり反応はなかった。
「医師には見せたのか?」
「ええ、まあ。これといって原因は……」
原因不明の病となると、物の怪の仕業か?
そういうことなら、悪霊を退治する神だと言っていた美濃に聞けば、何かわかるかもしれない。
そう思い立って、頼通は立ち上がった。
「私はもう一度、内裏に戻る。お前は姫についていてやってくれ」
「もちろんでございます……」
千鶴が頷くのを見て、頼通は部屋を出た。




