*第88章~名簿~
「・・・ラ、サラ!!」
自分を呼ぶ声に気づき、紗羅はハッとして、その声の主を見た。
「どうした?ボーっとして。」
ジュダスが紗羅の顔を覗き込もうとするのを手で遮る。
「なんでもない、少し考え事をしていた。」
紗羅は額に手を当てて、深呼吸をした。
(そうか、私はこれからの事を話そうと、ヴィンセントの邸に来ていたんだっけ。)
昨日と同じく、紗羅の周りにはジュダス、ルイ、イアン、ヴィンセントがいた。アイザックはというと、紗羅がアイザックの邸を出る際、いくら殴りつけても全く起きようとしなかったため、仕方なくそのまま置いてきたのであった。
「それで、どこまで話したかな?」
「おいおい、お前本当に大丈夫か?」
いつもと様子の違う紗羅にルイも心配な顔をした。
「大丈夫だと言っているだろう。そんなことよりも、僕には時間がないんだ。さっさとこれからの事を決めたいんだが。」
きっぱりと、紗羅が言うので、ルイは仕方なく引き下がった。
「えぇと、そうだ、まずは風の国の現状からだったな。他国の力を借りれないとなると、風の国で僕の賛同者を募らなければいけないのだが、一応アイザックと共に風の国を訪れた際、めぼしい人物は見つけてある。」
紗羅は持って来た巻物を広げ、人物名簿を見せた。
「まずは、前吏部尚書のオルセ・リード。」
紗羅は名簿の一番左の名前を指した。
「今の妾妃が来る前は王を正しく導こうと尽力していた方だそうだ。だが、妾妃は王の寵愛を受けるやいなや、自分の邪魔になりそうな人間を次々に廃していった。ほとんどが処刑されていった中で、オルセ・リードは多くの重臣の絶大なる信頼を集めていたため、さすがにあの妾妃と言えど殺すことまでは出来なかったそうだ。だが、朝廷から追い出すまでには至り、現在は自分の邸で将来有望な人材を育てているとか。」
「俺も、そいつなら知っているぜ?清廉潔白という言葉が一番似合う男だな。頭もいい。俺たちの計画には必要不可欠な男だな。」
「あぁ。今でもこいつを慕う連中は大勢いるし、コイツさえ味方に付けば、多くの支持を得ることが出来るだろう。現王を廃した後、朝廷を滞りなく治めるにはコイツの力が必要だ。そして次に―――――――」
紗羅は次々に名簿の人物について、自分で調べてきたことを話した。あるものは現朝廷の高官であったり、引退した将軍であったり。名を挙げた人物は10名にも満たなかったが、皆風の国の現状を憂いており、尚且つ紗羅の手助けとなる力を持つ者たちだった。
「そして最後に、この“ギルバート”という男。」
紗羅は名簿の1番端にあった名前を指した。
「?聞いたことねぇ名前だな。」
ジュダスは勿論、そこにいた皆が首を傾げた。
「知らなくて当たり前だな。この名前は世に出ていない名だからな。だが、こういえば分かるかもな。魔法兵団“アカツキ”の頭領、“ジークス”。」
「「「「!!?」」」」
紗羅の言葉に皆声にならない驚きを現した。
「そ、それはあの戦乱の世にどこからともなく現れ、悪い役人たちを成敗して回るというあの義賊の事か?!」
「僕も聞いたことがある。頭領のジークスは弱い数百年を超える魔導剣士で、その兵団にいる者たちもみなツワモノぞろい。その力は一国の軍隊をも凌ぐという・・。」
「俺はてっきりただの伝説だと思っていたが、実在したのか!!・・だが、何故お前がその頭領のことを知っている?」
ルイの問いに紗羅がギクッと身体を強張らせた。
「な、なんでもいいではないか。いきさつなど、取るに足らないことだ!」
あきらかに動揺する紗羅を皆、不審な目で見つめる。
「お前まさか・・・。」
「な、なんだよ!そんな目で見るな。だいたい僕は―――――」
「その“アカツキ”ってのに勧誘されたんだよ。」
突如扉の方から声が聞こえ、皆が振り向くと、そこにはアイザックがあくびをしながら立っていた。
「勧誘ってのは、どういうことだ?」
アイザックの突然の登場にも動じず、ジュダスが尋ねた。紗羅はアイザックを睨みつけてなんとか口を閉ざそうとするがアイザックは気にも留めずに話を続ける。
「この前風の国に行った時にさー、その人悪い兵隊さんたちにいじめられている少女を助けようとして、そこにいた兵隊さんたちみーんな倒しちゃったんだよねー。」
「おまえ、それ以上は!!」
紗羅の必死の形相にもわれ関せずとばかりにアイザックはにやけた笑みで更に話す。
「それでー、その後人通りの少ない路地裏で急に声を掛けられちゃって、なーんかその男の人が唯者じゃないって、言いだしてサー、様子見がてらついて行ったんだよね。」
無謀とも思える紗羅の行動にジュダスが紗羅を睨む。紗羅は話をそらそうとするが、ジュダスは勿論、ルイやイアン、ヴィンセントもそれを許さず、アイザックを囲んで話を促した。
「そしたらさー、なんとそこには噂の魔法兵団がいて、この人の戦いぶりを見て、その“アカツキ”って言うのに入らないかって言われたんだよね。」
「ちょっと待て。」
黙って話を聞いていたジュダスが、突然アイザックの話を遮り紗羅を見た。
「その話が本当なら、紗羅、お前一体何人の兵士を倒したんだ?2~3人程度でわざわざ“アカツキ”が声を掛けるとは思えんが。」
ジュダスの問いに、紗羅の顔色が変わる。
「ご、5人くらい?」
「30人以上だよね。」
紗羅のごまかしを台無しにする発言をしたアイザックを紗羅がきっと睨みつけるが、その紗羅の視線を遮り、ジュダス達が紗羅の前に立つ。
「なるほどな。こいつを連れて行ったもう1つの理由は、コイツだとそういう危険なことを止めたりしないからか。」
「全く何を考えているんだ!!とてもこれから王になろうと思っている人間のやることとは思えないぞ。」
「あー、全くだ。いいか、今度そんなことをしたら、お前を縛り付けてでも大人しくさせるからな。」
「・・・同じく。」
紗羅もさすがにまずいと思ったのか、無言でこくりと頷いた。
今回は紗羅さんがめずらしく責められて焦ってます。きっとその場にアレクがいたら、卒倒していることでしょう。でも、アレクがいたら逆に開き直って強気になりそうな紗羅さんですね。




