*第7章~人間オークション~
暗い路地を抜けると、目の前に大きな建物が見えた。その中に入り、入り口の脇の階段から下に降りて、地下通路を通り抜け通路の先の部屋に入ると、『商品』と呼ばれる美少女達が並んでいた。
少女たちは一人ずつ、胸に番号をふられ、部屋の奥の扉の先へ連れて行かれた。
紗羅も連れてこられた男から23番の札を胸に取り付けられ、最後尾に並んだ。
一人、また一人と部屋から美少女達がいなくなり、とうとう紗羅が扉の前に立った。
「いいか、おとなしく自分に値段がつけられるのを待ってな。そしたらいい買い手がつくさ。」
紗羅を連れてきた男は下品な笑いを浮かべ、紗羅にそう言った。
「それにしても、綺麗な顔だなー。お前本当に男か?」
(やばい。)
今まで誰も突っ込まなかったところを指摘され、紗羅に冷や汗が流れた。
(女とばれると後々面倒になりそうだし、男でいたほうがいろいろと都合がよさそうだったからそのまま男のふりをしていたけど、こういう場で女と知られるのは一番まずい…。)
「ちょっと確かめてみるか。」
そう言って男が紗羅のシャツを剥ごうとしたとき、鋭い風の刃がシャツに添えた男の手に切り傷を入れた。
「いってえ!!な、何なんだ一体?!」
血の滴る手を抑え、男が叫ぶ。
「ちきしょー!上がだめなら下から確かめてやる。」
男は紗羅の股間に手を当てた。そして男がそこにある感触に気づくと、男の疑問はなくなった。
「なんでぃ、やっぱり男か。ちぇっ、女だったらもっといい値がつくのに。」
そうぶつぶつ言いながら男は紗羅から離れた。
(危なかったー。いつもばれないように、アレを仕込んどいてよかった。…アレク、さっきの鎌鼬のような風はお前か?)
紗羅は冷や汗をぬぐいながらアレクに聞く。
『はい。主が下品な男に触れられるのが我慢ならなくてつい…。申し訳ございません。』
(いや、助かった。礼を言う。)
『ありがたき幸せにございます。』
アレクが少し照れたように言った。
数分たったころ、目の前の扉が開き、小さい小太りの白ひげを生やした男が紗羅を呼んだ。
「さあ、23番、入るんだ。」
紗羅が部屋を出て階段を上ると、異様にぎらぎらした男たちの前にステージのような台があり、紗羅の前にいた少女が脅えながら立っていた。
「さあ、900万Gが出たよ。他にはいないか?……よーし、10番の旦那、落札だ!」
ステージの奥にいる若い男が目の前の鐘をカーンと鳴らした。
中央にいた少女はごつい男二人に連れられ、ステージを降りて行った。
「さあ、最後の商品は超上玉!!残念ながら女ではないが、我らが神獣を思わせるような風貌の美少年。彼をどのように使うかは、財布のひもが一番緩いやつの特権だよ!!」
若い男がそういうと、紗羅はごつい男二人に先ほど美少女がたっていたステージの中央に立たされた。
会場がどよめく中で、若い男が
「さあ、競りの開始だ!」
と言うと、客の男たちが次々に自分たちの番号札を挙げ、「100万、200万!」と掛け声をかけていった。
紗羅は冷静にその風景を見ながら、客の一番前にいる、札を上げようとしない黒ひげのたれ目の男に気づいた。脇にはこの場に似つかわしくない長身黒髪の美青年がたっており、こそこそと黒ひげの男に耳打ちをしていた。黒ひげの男はパッと見、小汚い恰好をしているが、来ている服はおそらく絹のような素材だし、脇にさしている剣は見事な装飾がついていた。何より、そばに使えている長身の美青年が、他とは違う空気を発していた。
(あの男たち、只者ではないな。)
獲物を見るような目で紗羅は黒ひげの男を見て、右手に隠し持っていたピンを持ち替えた。
――あっという間の出来事だった。
紗羅が宣言通り誰にも気づかれないように3秒で手枷を外し、倒れこんだと見せかけて足枷を外した後、駆け寄ろうとした男たちが2歩歩いたところで紗羅の姿はステージ上から消え、黒ひげの男の後ろに回り込み、ズボンの裾に隠し持っていた短剣を黒ひげの男の首筋に当てた。
「動くな。」
しびれるような甘い声は、似つかわしくない覇気を籠めて発せられた。
「おい、あの長身の男の武器を捨てさせろ。」
紗羅は黒ひげの男に命令した。
「カイル、武器を下ろせ。」
黒ひげの男がそう命じると、長身の美青年は構えていた大剣を地面に落とした。
「おい、23番。このままだとあんた逃げられねえよ。これだけ大勢いる中でどうやって逃げる気だ。」
黒ひげの男が紗羅に言った。
「うるさい、だまれ。お前に話す必要はない。」
「へいへい。ところであんた、俺が何者か知ってて、俺をターゲットにしたのか?」
黒ひげの男が意味深に聞いた。
「お前のことなど知らん。ただ、少し観察した限りだと、お前はこの中の誰よりも身分が高そうだったからな。」
「へえ…。いい目してるなー。てか、これでも変装していたはずなのに、俺ってば変装してても分かるくらい、いい男オーラ出していたのかー。」
「うるさいと言っているだろう!」
緊張感のない男の発言に少しイラついた紗羅。
「まあ、そう怒るなって。俺、お前のこと気に入ったし、ここから出してやるよ。」
「?」
黒ひげの男はそう言うと、持っていた番号札を上げて、
「3番、5000万G!!」
と、突如、競りを始めた。
誰もが紗羅の様子を伺い、動けずにいた中で、その男の声は会場の隅まで響いた。
「な、何を言っているんだお前は!僕はお前に危害をくわえているんだぞ?!」
「ご主人様。馬鹿な真似はお止め下さい!」
紗羅と長身の美青年が口を揃えて黒ひげの男に怒鳴った。
「いいじゃねえか、別に。これでお前は無事にここを出れるし、俺は気に入ったやつを手に入れられたし。」
呑気にそう言う男を見て、ため息がこぼれる二人。
「おい、支配人。俺たちはこのままここを出るから、カイルから金を受け取っておいてくれ。」
黒ひげの男が小さい小太りの白ひげの男にそう言い放つと、呆気にとられて油断していた紗羅のすきをついて、首に当てた短剣を持っていた紗羅の右手をひねり、反動で落ちた短剣を拾うと、そのまま紗羅を連れて会場を出た。
二人のいなくなった会場では残された長身の男が涙目になりながら、支配人と呼ばれた男に、金を渡していた。
この話で初めて紗羅が女ではないかと疑われます。もともと男のふりをしたまま、この世界に来たので、前の世界での紗羅の必需品も一緒にトリップして難をのがれましたが・・・。
次話は謎の男とのお話です。




