*第8章~黒ひげ男の頼み~
競り会場を出ると、黒いひげの男は会場前につけた馬車へ紗羅を乗せた。その馬車は紗羅とシーラが乗ってきた馬車よりも小さかったが、黒塗りで上品なつくりをしていて、中は向かい合って座れるように椅子があった。昔の英国映画ででてくるような馬車だった。
黒ひげの男は紗羅を馬車の中の椅子に座らせ、向かいの椅子に座り、後を追ってきた長身の美青年が馬車に乗り込むと、馬車の扉をしめ、御者にに馬を走らせるよう、馬車の小窓から命令した。
「それで、お前は一体何者だ?」
黒ひげの男は好奇のまなざしを紗羅にむけて聞いた。
「……。」
フンっとそっぽを向き、黒ひげの男の質問に答えない紗羅に長身の美青年が鋭く睨んだ。
「おい、ご主人様が聞いているのにその態度は一体なんだ?!奴隷ごときが無礼な!」
明らかに卑下されているが、紗羅は動じない。むしろ馬鹿にするような笑いを浮かべた。
「ご主人様、何故このような得体の知れない者を助けたのですか。」
攻め立てるように、長身の美青年は黒ひげの男に詰め寄る。
「ま、まあそうカッカするな、カイル。この男の不思議な魅力に魅かれたんだ。」
黒ひげの男は笑いながら長身の美青年をなだめる。
「ふむ。答えてくれぬようなら、こちらからまず名乗ろう。俺の名はダラス。こっちの小うるさい男は従者のカイルだ。以後、よろしくな。」
スッと紗羅の前に手を差し出すダラス。
「…。僕をどうする気だ?」
差し出された握手には応えず、紗羅はダラスに聞いた。
わなわな震えるカイルをなだめながら、ダラスが答える。
「どうもこうも、俺はお前のことが気に入っているだけで別に危害を加えようってわけではない。それにあれだけの腕を持ちながら、何で奴隷市場の商品として出品されたのか気になるし、何か事情があるなら助けになりたいって思ってな。」
へラッと笑いながら言うダラスに紗羅は、ぶしつけに聞いた。
「……見返りは?」
へらへらしていたダラスの顔からぴたりと笑みが消えた。
「何故、そんなことを聞く?」
「何も求めず、わざわざ自分に危害を加えた人間に初対面で気に入ったなどとふざけた理由で助けるわけがないだろう?」
淡々と言う紗羅にダラスはフッと笑みをこぼした。
「話が早くて助かる。実はな、俺の従者がもう一人いるんだが、ちょっと性格に問題があってな?街中で問題起こして、役人にとっつかまってしまったんだ。この国じゃあ、罪人も奴隷にされて売られることがあるんで、競りに顔を出したんだが、結局今日の競りには出てこなかった。そこでだ、お前さんの見事な鍵開けの技をお借りしたいんだが…。」
頼む!と頭を下げるダラスを見て、紗羅はふうっと息を吐いた。
「自分たちだけで助けられるんじゃあないのか?それなりの身分なのだろう?奴隷ひとり解放するぐらいの権力と財力は持っていそうだが。」
そもそも紗羅を解放するために5000万G(おそらくかなりの大金)も出したのだ。それを痛手としないくらいの金持であるはずの人物が、なぜわざわざ牢破りなど、面倒くさいことをするのだろうか。
紗羅が疑問のまなざしでダラスを見ると、ダラスが口を開いた。
「それができたら一番簡単なんだが、生憎この国で俺は自分の身分を明かすことができない。この国へは内密に来たんだ。だから、さっきのように目立つ行動は控えたかったんだが…。」
ダラスがそう言うと、ジロリとカイルが紗羅を睨んだ。
「お前があのようなことをしなければ、もう少し動きやすかったんだ。あの場で情報を収集しようとしていたのに余計なことを!」
カイルがブツブツと文句をたれている。
「ま、そういうわけで、これ以上俺たちは表立って動くことができないから、代わりに助けてくれないか?」
少し考え込み、紗羅が答えを出した。
「…条件がある。」
紗羅の答えが返ってくるとダラスはバッと顔を上げて、紗羅を見た。
「なんだ、何でも言ってくれ。」
「僕にも連れがいてね、もともとそのこと一緒に逃げようとしていたんだが、この街についた途端引き離されてしまったんだ。その子を助け出すのに協力してくれたら、その従者とやらを助け出してもいいよ。」
紗羅はにっこりとダラスに笑いかけた。
「その子はどこにいるんだ?」
ダラスが紗羅に聞く。
「さっきの競り会場の向かいの路地の小さな建物の中に入って行ったよ。」
「直売場か。」とブツブツ言いながらダラスが考え込んだ。
「よし、そこなら少女の一人や二人購入していっても怪しまれることはない。特徴を教えてくれ。カイルに買いに行かせる。」
ダラスの返事を聞いて、カイルが不満の表情をした。
「ご主人様、何もそこまでしなくても、この者には十分なお金をかけたのです。我々の命令を聞いて当然でしょう!」
「いやいや、こういう時は恩を売っておくものだ。それにこいつの言うことを聞くと、後々いいことが起きるぞ。」
「何を根拠にそのようなことを申されるのですか!」
カイルが主人に問いかけるのを聞きながら、紗羅も、同じことを思った。
そんな二人の注目を浴びながらダラスが一言、
「そんなの俺の勘だ!」
と堂々と言ってのけると、紗羅とカイルはめまいがした。
(な、なんていい加減な男だ。)
「さあ、そろそろお前が何者なのか教えてくれないか?」
ダラスが最初の質問を再び聞いた。
「何者と言われても知らん。私には3日前以前の記憶がないからな。自分が誰なのかも分からない。」
紗羅がそう答えると、ダラスは目を細めた。
「嘘だな。お前が着ている服は明らかに我々のものと質が違うし、お前はそのことを疑問にも思っていないようだ。それにお前がもっていたこの短剣も、我々の世界のものと少々形状が違う。このように刃が変形しているものは見たことがない。何より、お前は鍵の開け方や、その道具の使い方を知っていたんだ。ふつう記憶喪失の人間があれだけ、的確に動けるものか?」
(素直に人の嘘を信じてくれそうにないな。)
ごまかしがきかないようだと悟った紗羅は、自分が違う世界から来たこと(自分の性別が女だとは言っていない)と、体術や鍵を開ける技は元いた世界で学んだこと、三日前に突然この世界に飛ばされてしまい、助けてくれた少女と自分が売られたいきさつ等を話した(もちろんアレクのことも話していない)。
「そうか。」
と、ダラスが納得したようにつぶやいた。
「信じるのか?」
紗羅がそう聞くとダラスは優しい笑みをうかべて答えた。
「まだ何か隠しているようだが、嘘は言っていないようだからな。」
紗羅はギクッと顔をこわばらせた。
「そう警戒するな。何も無理に聞き出そうとは思わんからな。ただ、最後に一つだけ教えてくれ。」
「な、何だ?」
紗羅は内心ドキドキしながら聞いた。
「肝心の名前を聞いていない。」
思いがけない質問に、紗羅は呆気にとられた。
「なんだ、名前くらい、教えてくれてもいいだろう?」
緊張感のない声でダラスが聞くと、紗羅は手を差し出して答えた。
「サラだ。よろしく頼む。」
女みたいな名前だなと、感想を言いながらダラスは紗羅の手を握り、握手を交わした。
個人的に好きなキャラ、ダラスさんのお話です。ぼちぼちキャラも増え始めていくので、管理しきれるかどうか、不安です。




