*第9章~紗羅とアレクの話~
――3人を乗せた馬車は大きな宿屋の前に泊まった。「今晩はここで一休みをする」とダラスに言われ、紗羅は7畳ほどの一人部屋に案内された。
「ここを好きに使っていいぞ。あと、タオルと着替えもあるから、とりあえずその汚れをぬぐって、変な格好を変えろ。」
ダラスは紗羅にそう言うと「自分たちは隣の部屋にいるから」と紗羅の部屋から出て行った。
紗羅はどさっと部屋のベットに腰を下ろし、仰向けになった。
(アレク、出てこれるか?)
『はい。』
初めて一人きりになれた紗羅は自分の中のアレクを呼び出し、自分の中から出てくるように言った。
3日ぶりにみるアレクは前に見た時よりも一回り小さくなっていた。
「あれ?お前小さくなったか?」
まじまじと見つめる紗羅にアレクは答えた。
『主と契約したので、いろいろと制限がなくなり、自分の姿も変えれるようになったのです。』
「へえ、じゃあ、人間にもなれるのか?」
紗羅がそう聞くと、アレクが緑色に発行し、白い虎がいたその場所にはシーラと同じくらいの歳の白髪深緑の瞳の少年がいた。
「なんで少年の姿?」
「それは私がまだ幼いころに神が私を神獣に変えたからです。」
「…………神獣?」
一瞬沈黙が流れ、あっさりと自分の正体を明かしたアレクに紗羅は聞き返した。
「はい、私はこの風の国の神獣である白虎です。長い間人間とは契約を結びませんでしたが、やっと、探していた人物に巡り合うことができました。それがあなたです。」
涙を流しながら話すアレクに紗羅は深いため息をこぼした。
(まさか神獣とは…。いや、シーラから話を聞いたときうすうす気づいてはいたけど…。)
頭を抱える紗羅を見て、心配そうにアレクは聞いた。
「主、大丈夫ですか?私何か主を悩ませることを言ったでしょうか?」
オロオロと目の前をチョロチョロ動いては紗羅を覗き込むアレクを見て、紗羅は少しずつ頭を整理していった。
「お前は何で16年前に姿を消したんだ?」
状況を把握しようと、紗羅はアレクへ質問をしていった。
「それは、主の生まれに係ることです。16年前、あなたは実はこの世界に生まれたのです。」
「?!」
自分の親に疑問は持っていたが、もはや自分が元の世界の生まれではなかったことに、紗羅は驚きを隠せないでいた。
「16年前、主がお生まれになったあの日、何故か一人の女が生まれたばかりの主を抱え、風の国の外れにある大きな崖の前で男たちに囲まれていました。私は自分の聖域で長い眠りについていましたが、突如私の眠りを覚ます声が聞こえたのです。私は声のするところへ向かいました。そこであなたを見つけたのです。
主は小さいからだから溢れんばかりの魔力を放出し、咄嗟に目を覆った女の手から落ち、深い谷へ落ちていこうとしていました。私は急いで主の後を追いました。すると、私たちの目の前に突如黒い穴が広がり、気が付くと、主のいらっしゃったあの世界に私たちはいました。私たちが出た場所が、あの一家のいる病院で、その日、あの『暁羅』という子供が生まれたのです。子を産んだばかりの母であれば、二人の赤子にあげられるだけの乳が出るだろうと思い、私は生まれたばかりの赤子の隣へ、誰も見ていない時に主を置いてきたのです。」
(母が見た虎はアレクだったのか。)
複雑な思いで紗羅はアレクの話を聞いていた。
「お前は16年もの間なにをしていたのだ?こちらの世界には帰れなかったのか?」
「私はそもそも別世界を行き来するような魔法は知りません。おそらくあの空間は主が作り出したのではないかと。」
「私はそんなことしていないと思うが。それに16年間一度もお前が言う魔力とやらを使ったこともないし、そのような力があることを微塵にも感じなかったぞ?」
(そんなものがあればもっと簡単にあの刺客たちを退治できたのに…。)
紗羅の心を読み、アレクはクスッと笑った。
「それは私が主を置いていくときに、主に魔力封じの魔法を呪いをかけておいたからです。ある一定の条件を満たすとそれが解けるようにしました。」
「一定の条件?」
「はい。それは主の魔力がその器で制御できるまで育つこと、そして主が涙を流したときという2つの条件です。もっとも、14歳を超えたころから主は制御できるくらい成長していましたが、主は10歳のころから一度も涙を流さなかったのでその分魔力が凝縮されてしまい、16歳を迎えたあの日、主の流した涙と共に封印されていた魔力があふれ出して、もう一度あの空間が出来上がってしまったようですね。」
結果オーライというように話すアレクを見て、紗羅は少し不安になった。
(2年間ため込んでて変な空間を無意識で作れるようになったのなら、私が涙を流すのがもっと遅れていたら一体何がおこっていたんだろうか…。)
一通り、自分の生い立ちを知った紗羅は次の質問に移った。
「シーラが言っていたことだが、この国はお前という神獣が消えてから、聖獣が姿を消して、生き物たちが皆魔物に代わってしまったと言っていたが、これはやはりお前がこの世界からいなくなったせいか?」
紗羅の質問に穏やかだったアレクの表情が曇った。
「おそらくその通りかと。我々神獣は世界の均衡を保ち、自分の国に潤いをもたらすためにいるのです。人間は我々神獣と契約しなくても、神獣の力を分け与えた聖獣と契約することで国に繁栄をもたらすことができるのですが、その聖獣の力の源である神獣が消えると、その国から恵と守りが消えてしまうことになるのです。私が消えた後のこの国に一体何が起きたのかはわかりませんが、事実、私の配下であるはずの聖獣たちとコンタクトをとることができなくなっていました。彼らが今どこにいるかも分からないのです。」
「今までどの国でも神獣がいなくなったことはないのか?」
「神獣たちはそれぞれの国の聖域と呼ばれる人間の入れないところにいて、他の4つの国の神獣は長いこと誰も人間と契約を結んでいないのですが、我らは死にませんし、力がなくなることもないのでこの世界から消えるということはありませんでした。もちろん我々のように別の世界へ行った者など、神獣だけでなく、この世界のどこにもいなかったはずです。空間があのように捩じれたらこの世界を守る我々が気づかないはずはありません。だから、神獣がいなくなることでこれほど国に影響を及ぼすことは知りませんでした。」
(消えた聖獣たちは一体どうなったんだろうか…。)
紗羅が考えをめぐらせていると、アレクが徐に紗羅の手を取った。
「主よ。これより私は主にいくつかの魔法をお教えします。我ら神獣が知る魔法はあまり多くはありませんが、何か起きても対処できるくらいの魔法を使えるようになっておいてください。」
「?魔法を教えてくれるのはいいが、この世界を支えている神獣達が何故あまり魔法をしらないのだ?」
不思議に思った紗羅はアレクに聞いた。
「それは先ほども申しあげたとおり、我ら神獣はあまり人間と関わり合いを持っていません。また、我らが力を使うのに、魔法というものを必要としないのです。魔法は人間が魔力を使用するために生み出したものなので、我らはあまり知りません。私が主にかけた【封印】や、【言語】は私が初めにお仕えした最初の風の国の王が使っているのを覚えたのです。」
「そうだったのか。」
紗羅は一言そう言った後、少し間を開けてアレクに頼んだ。
「それじゃあ、私に魔法とやらを教えてもらおうか。」
昔話をするとどうしても長ったらしい文になってしまい、申し訳ないです。
そしてこんなに早く、物語の核心をつく紗羅の生い立ちを出してしまいました。
次回、紗羅が初めて魔法を使います。アレクは何の魔法を教えてくれるんでしょうか…。




