*第6章~王都ウエンディ~
――明け方、アンが言っていた通り、全身黒ずくめの男が紗羅を引き取りに来た。寝たふりをした紗羅はそのまま馬車の中に放り込まれた。
馬車の中には紗羅の他にも何人か、手足に鎖をはめられた子供たちや、女の人がいた。黒ずくめの男が紗羅の縄を解き、代わりに両手両足に鎖のついた枷をはめた。
紗羅が眠っているのを確認し、男は荷台からおりて、馬車を出発させた。
荷台に売られた人たちとの他に謎の大きい麻袋があるのに気付いた紗羅は、監視の目がないことを確認し、その麻袋に近づいた。麻袋の口を開くと、そこにはもう一人、赤毛の少女が入っていた。
「シーラ、何でここに?」
声を押し殺しながら、その少女、シーラに尋ねた。
「お兄ちゃんをどうしても助けたくて、こっそり忍び込んだの。」
(この子は引き下がったふりをして、計画を立てていたのか。)
はあーっと、ため息がこぼれた。
「めいわくだった?」
心配そうに尋ねるシーラ。
「いや。ただこんな危ないことをして、もしばれたらどうするんだ?」
紗羅がそう言うと、にっこりとシーラが笑って、「じゃーん」と麻袋から這い出てきた。手足には紗羅と同じ楔をつけて。
「へへー、これであたしも、おにいちゃんと一緒だから、ばれないよ。」
得意げに笑うシーラ。
「それでいったい、どうやって僕を助ける気だい?」
紗羅が突っ込むと、自分の失敗に気づいたシーラはしょぼんと落ち込み、涙を流した。
「どうしよう、これじゃあお兄ちゃんを助けられない。うぅ…。」
紗羅は落ち込むシーラの頭を撫でた。
「大丈夫だ。僕が何とかするから、もう泣かないで?」
「ホント?」
「あぁ、本当だ。だからさあ、涙をふいて。」
シーラは涙でぐちゃぐちゃになった自分の顔を袖口でぬぐった。
紗羅は荷台の中を見渡した。中は薄暗く、窓が一つもない。外の様子を伺うことはできないようだ。
(さて、シーラがいるなら途中で馬車から飛び降りるようなことはできないな。…アレク。)
『はい、どうしましたか?主。』
紗羅は自分の中にいるアレクに問いかけた。
(この馬車が一体どこに向かっているか、分かるか?)
『おそらく、王都{ウエンディ}でしょう。使いの男が通行手形を持っていましたから。』
(王都を通過するのに手形がいるのか?)
『はい。王が住む街ですから、許可がいるのです。』
(他に手形が必要なところはあるのか?)
『国境です。国境では手形の他に身分を証明する証が必要です。』
(パスポートやビザみたいなものか…。分かった。もうよい、さがれ。)
『御意。』
アレクの気配が消えた。
(さて、どうやって脱出しようか。)
紗羅は自分の鎖の強度を確認する。思ったよりも強く、力づくでは引きちぎれないようだった。
次に、鎖の鍵穴を覗く。簡単な南京錠のような構造であったため、紗羅は確信した。
(これなら、持ってきたヘアピンで3秒で開けれる。)
紗羅はスーツのポケットにある細長い感触を触って確かめ、二つ折りになっているヘアピンを伸ばし、右手に隠し持った。
紗羅が脱出方法を考えているとこてんと自分の肩に何かが寄りかかった。
視線をやると、シーラが安心しきったようにすやすやと眠っている。
(この子は状況がよく分かっていないのか。もしくは私をそんなに信用しているのか…。)
クスッと笑いがこぼれ、紗羅はあたたかい気持ちになった。
こんな風に純粋に紗羅をしたってくる人間は初めてだった。周りの人間は皆、自分の名前と能力を利用したかっただけだから。
(この子だけでも守らないとな。)
紗羅は長い道のりの中で、そう、心に決めた。
紗羅の体内時計で2日ほど過ぎたところ、馬車はようやく目的地についた。
あいかわらず外の風景は見えなかったが、街でにぎわう人々の声が聞こえた。
街の中をある一程度進むと、馬が足を止め、男たちが荷台のドアを開けた。
紗羅は差し込む光に目を細め、荷台の外を見た。
大柄の男たちが並ぶその奥は、シーラの村とは違った、白い石造りの建物が並んでいた。おそらく路地裏のようなところで馬車は止まっていたので、男たちの他に人気はなかった。
「さあ、降りるんだ。」
連れてこられた子供たちや、女の人を引っ張り出し、そのまま馬車の目の前の建物の中に入って行った。
シーラも忍び込んだとばれずに商品だと勘違いをされたまま中へ連れて行かれた。
荷台には残り紗羅ひとり。荷台から出て、皆が連れて行かれた方に行こうとすると、一人の男が紗羅の腕を掴み、引き留めた。
「お前はこっちだ。」
「え?」
思いもよらぬ言葉に耳を疑う紗羅。
「ちょうど今、上玉を集めた競りが行われているんだ。お前はそこで出品する。」
そう言うと、黒ずくめの男は紗羅をシーラ達とは逆方向へ連れて行こうとした。
(まずい。シーラと別れるなんて…。アレク!)
『はい。』
(シーラの後を追えるか?)
『申し訳ございません、今は人の目があるため、私が主から出ていくことはできません。』
(ではどうすれば…。)
『大丈夫です。彼女をつつむ風が、私たちに情報を与えてくれます。どこにいるかはもちろんですし、何かあったときはすぐにお知らせします。』
(…そうか、頼んだぞ。)
『御意。』
シーラと離れたことに動揺しつつも、紗羅はアレクの言葉を信じ、黒ずくめの男について行った。
紗羅さんとうとう王都に到着しました。なぜか都合よくもっていたヘアピンを片手に、次回、とんでもない脱出劇を繰り広げます。




