*第86章~ダラスと紗羅の取引~
「な・・・。」
ダラスの話に、皆驚いて、口を開けていたが、ようやくジュダスが声に出した。
「正気か?お前ら。影の王国と戦争だなんて・・・。」
「正気も正気、さっき、会議で決定されたことだ。」
取り乱すジュダスに対して、ダラスは至って冷静だった。
「そんなことをすれば、封印された神の闇の力が暴走するじゃねぇか!!それこそ、その被害は風の国を攻める非じゃねぇぞ?!」
ダンッッッっ!!!
頭に血が上り、大声で怒鳴るジュダスを、ダラスは机をおもいっきり叩いて怯ませた。
「いいか?よく聞け。俺も元々は更に風の国の王になってもらって結界を盤石なものとすれば、事態は収まると思っていた。だがな、既に綻びた場所から多くの闇が侵入し、今更結界を張りなおしても、内側からそれを破られてしまう。それを防ぐには、元凶である影の王国を叩くしかない。ある程度あの王国の力を削いでから出ないと、結界を張っても意味がないからな。」
ダラスが話している間、紗羅はダラスを睨み続けていた。そして、目をつぶり、再び開ける。
「それで、お前は僕に何を望む?僕とお前の当初の取引は風の国の王になり、結界を張りなおすということだったはず。それ以外に何かを望むというのであれば、それ相応の見返りはあるのだろうな。」
少し前の紗羅であれば、取引を持ち出さず、ダラスに協力したであろうが、今や紗羅はダラスに対して固く心を閉ざしてしまっている。
「悲しいねぇ。まるで昔に戻ったみたいだぜ。出会ったころのお前にな。まぁいいさ。もとより俺もお前とは取引するつもりだったからな。」
ダラスはそう言って息を吐くと、紗羅をジッと見た。
「俺がお前に求めることは2つ。1つは風の国の現体制を崩壊させ、新たに風の国の王となることを、他の4ヶ国の力を頼らず、3ヶ月の間にお前だけですること。もちろん俺の国も手出しはしない。そしてもう1つは、影の王国との戦争にお前も参加してもらう。」
ダラスの話を聞き、紗羅とアイザック以外の皆が憤慨した。
「おいおい、ダラス、それはねぇんじゃねぇか?そんな短期間で、他国の力も借りず、あそこまで腐敗しきったあの国をコイツだけで何とかしろっていうのか?!そいつはあまりに薄情ってなもんだぜ!!」
「ジュダス様の言う通りです!確かにこいつは強いし、神獣の力もありますが、それにしてもこの仕打ちはあんまりでは?!」
「僕もルイと同意見です。多少の手出し位して下さってもよいでしょう!」
「・・幻滅した。」
「おい、貴様!我が国の事は百歩譲っても、仕方がないと思うが、だがそれに加えて影の王国との戦闘に参加しろだ?!ふざけるのもたいがいにしろ!今、影の王国の頂点にいるのは貴様の身内であろう?我らも我らに責任のあることは我ら自身で片付ける。ゆえに、貴様も自分だけで片を付けろ!主の手を煩わせるなっ!!もとより、あの男を主に近づけさせるわけにはいかないからな!!!」
各々が、不満をダラスにぶつけるが、紗羅自身は黙ったままだった。
「・・・お前の答えはどうなんだ?」
ダラスは紗羅から視線を外さない。
「確かに俺の言っていることは無理難題かもしれない。だが、お前なら出来るかもしれないと思っている。」
「・・・。」
「俺の望みはひいてはシーラのためでもあるんだぞ?」
“シーラ”という言葉を聞き、紗羅がピクリと反応する。
「シーラを引き合いに出すな。そのようなことを言わずとも、僕はお前の言うとおりにしてやろう。だが、こちらの望みも聞いてもらう。」
紗羅は厳しい表情のまま、ルイ達の後ろに立った。
「こいつらは先ほど決めたとおり、僕に協力してもらう。そして、お前だけでなく、他3か国の者たちは、僕のやり方に一切口を出さないでもらおう。あの影の国の王とは、僕が決着をつける。そして、今後一切どの国も僕たちには干渉しないと誓え。」
紗羅とダラスのにらみ合いは、無言のまま、1分程続き、ダラスはただ一言、「分かった」とだけ言った。
紗羅はダラスの望みを叶えるとともにダラスと決別する道を選んだのだ。何故こんなにも紗羅とダラスが仲たがいをしてしまったのか知らないルイ達はどう反応したらよいか分からず、ただ困り果てた顔をしていたが、事情を知るジュダスとアレクは悲しい表情をした。
辺りはすっかり夜になり、ダラスが去ったヴィンセントの部屋では話し合いは明日にしようと、その場は切り上げることになった。
紗羅はアイザックと共に【移動】ですぐにその場を後にした(もちろん、アレクが必死に紗羅について行こうとしたが、シーラのそばにいるように言われ、しぶしぶ引き下がったというやり取りは合った)。
紗羅がアイザックと共に向かった場所はアイザックの邸である。
「よかったの?あの家に戻らなくて。」
アイザックが抑揚のない声で聞いた。
「あぁ。いずれは出ていくところだ。あまり長く居たくはない。」
「ふーん。」
アイザックはそれ以上気にすることはなく、紗羅に客室を用意し、自分はスタスタと自室へ戻った。
紗羅に用意された部屋はジュダスの邸での紗羅の部屋より2倍は大きく、紗羅1人で使うにはもったいないどころのものではなかった。
紗羅はボスっとベッドに飛び込むと目をつぶった。
(暁羅・・。やはり僕はどこに行っても上手くやれそうにない。僕のような人間は大切な人間を作るべきではない、そのようなことは許されないんだと、つくづく思ったよ。シーラとも・・・いずれ落ち着いたら離れるべきだな。僕は1人でいなければいけないんだ・・。)
紗羅はそのまま静かに眠りについた。
このままダラスとは喧嘩別れしたままになるんでしょーかね。自分でもまだ決めておりません。




