*第82章~怒りの紗羅~
アレクが巻き起こした風のせいで、すっかり散らかってしまったヴィンセントの部屋(元々あまり物を置いていなかったのでそこまで散らかってはいないが)で、静かな沈黙が流れていた。
「よ、よお。久しぶりだな。サ・・・イル。」
その沈黙を破ったのはジュダスである。紗羅のあまりの怒りぶりに少しビクつきながら声を掛ける。
「・・・・・・。」
紗羅はそんなジュダスに一瞥をくれると、すぐさまアレクに視線を戻した。
「何故、お前は黙っている?アレク。お前は僕が少し離れていたからと言って、命令を破るような奴だったのか?」
紗羅の静かな声で尋ねられ、アレクは紗羅に視線を合わせることが出来ず、ダラダラと汗を流している。
「あ、あの、主・・・。私は・・その、・・決して悪気があったわけでは・・・。」
しどろもどろになりながら、何とか紗羅へ弁解しようとするが、上手く言葉が出ない。周りを囲むルイ達も、早く確かめたいことがあるのに、紗羅の気迫に押されて、声を掛けることが出来ない。
「僕が知りたいことは口に出さず、話すなと言ったことはペラペラと喋るとは、お前は本当に僕の僕なのか?」
「いえ、あの、そんなつもりでは・・・。」
今にも泣きだしそうな声で答えようとするが、紗羅には一向に怒りを収める気配がない。
「ほう、ではどのようなつもりで、お前が神獣だと、こいつらに喋ったのだ?答えろ!!」
アレクはビクッと身体を硬直させると、後はもう何も言葉を発することが出来なくなった。
「その辺にしておけ、サイル。こっちにだってお前に聞きたいことがある。」
ジュダスが紗羅に再び声を掛けたため、チラリと視線を送るが、紗羅の表情から怒りが消えることはない。
「聞きたいこと、と言われても、こちらにはその質問に答える筋合いはないな。」
バッサリと一刀両断されたジュダスは目を見開き、そばで見ていたルイとイアンはハラハラと2人を見守る。
「何故だ?まさか、お前まだあのことを根に持っているのか?」
「さて、あのこととは何のことだろうな。さっぱり分からないが、お前には僕に自分の質問に答えろと命令する権利はないはずだが?」
「おまっ、それが今まで協力してきてやった俺様に言う言葉か?!」
「協力?お前の言う協力とは都合のいい時だけ手助けをして、自分たちの目的のために他人をいいように利用することをいうのか?」
イヤミをたっぷりこめて、ジュダスにつっかかる紗羅。
「お前、本当にいい加減にしろよ!!だいたいな――――――――」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
さすがにイラつき始めたジュダスと、一向に態度を改める気がない紗羅の間にイアンが勇気を出して割って入った。
「なんだ?イアン。」
ジュダスに対してよりは幾分か声色が柔らかくなったがまだ不機嫌な面持ちで突然発言をしたイアンに聞く。
「お取込み中の所悪いんだが、アレ・・・・。」
そう言ってイアンが指差す方向には、何故か満身創痍で立っているのもやっとと言うくらいのアイザックがいた。
「も、もうだめだ・・・。」
そう言ってバタリと倒れ込んだアイザックを見て、紗羅は本日初めて怒り以外の表情を見せた。
「あ・・・忘れてた。そう言えば、こいつを手当てしに戻ったんだった・・・。」
さすがにまずいと、紗羅は慌ててアイザックをヴィンセントのベッドの上に運んだ。
「さて、そろそろ説明してくれよ?」
アイザックの手当てが終わると、イアンが紗羅に詰め寄った。
「この前聞いた以上の事を。それに何でこいつだけこんなにボロボロなんだ?」
イアンの言うとおり、紗羅とアイザックは行動を共にしていたはずなのに、アイザックだけが傷つき、紗羅には傷1つなかった。
「いや、こいつはちょっかいを出していた女性がとある国の王族で、近くにいた護衛兵にボコボコにされただけだ。」
なるほど、アイザックらしいと、先ほどまで心配して見守っていた皆の表情が一気に冷めた。
「とある国っていうのは、風の国か?」
ルイが聞くと、紗羅は再び不機嫌になった。その理由が分からず、ルイが紗羅の視線を追うと、その先にはジュダスとアレクがいた。
「あ・・・。」
ようやく紗羅の意図に気づいたが、時既に遅し。ジュダスとアレクは狐につままれたような顔をし、紗羅はため息をついた。
「なんだと?お前、もしかして風の国にいたのか?!」
「主、なんと危険なことをなさるのです!我が国はまだ安定せず、魔物も多く出入りしている挙句、主の敵は魔物だけでなく風の国の人間にもいるというのに・・・。よもや、護衛も付けず、こんな頼りない男と2人で行ったという訳ではありませんでしょうな?」
いつのまにか形勢逆転と言わんばかりにアレクが勢いづいたため、紗羅はギロリと睨んだ。
「いちいちうるさいんだよ、アレクは。僕の神獣なら黙って僕に従え。第一、僕には味方が数えるほどしかいないのに、その中からどうやって護衛を探すのだ。まぁ、そもそも僕には護衛など必要ないがな。」
「そのようなことを仰って・・・。主の身に何かあれば、風の国の民は一体どうなるのです!」
「それだよ、アレク。」
突然、紗羅に言われたアレクは意味が分からず、キョトンとした。
「それとは?」
「そろそろ僕も本腰入れて、この先の事を見据えていたのだ。いつまでも学業ばかりに専念するわけにはいかないし、約束の1年ももう半年ほど経ってしまったし・・・。着々と準備を進めておこうと思って、風の国に視察に行ったのだ。」
紗羅はくるくると歩き回りながら、話した。
「そのようなこと、風たちから情報を集めればよいではないですか。何も主みずから行かれなくても・・・。」
「確かに、風たちの情報は正確だが、この目でちゃんと見ておきたくてな。それに噂をばらまく必要もあったし。そのためには最小限の人数で、目立たないように行動する必要があったのだ。まぁ、一度この国にも戻ってきたがな。この3人と、シーラにはこっそり会ってきた。」
紗羅が自分には会わず、シーラだけではなく、ルイとイアン、ヴィンセントには会っていたことをしり、アレクは泣き出しそうになった。が、紗羅は、特に気に留める様子もなく、話を続ける。
「そして、再び風の国へ行ったのだが、4日前に僕が訪れた村に不穏な気配を感じて、再びそこへ赴いたら、その村は消滅していたんだ。」
「それって、今世界中で起きている異変だろ?」
実際に襲撃に出くわしたことをルイが紗羅に告げると、紗羅はこくりと頷いた。
「あぁ。風の国の村人達も同じようにミイラ化していた。だが、風の国にはそれ以降襲撃された様子はなかった。だから僕は紗羅に情報を集めようと、王族が殺されたという大地の国へ向かったんだ。」
最初の襲撃から既に1週間が経過しており、その間に生命の国と光の国で3か所、大地の国と花の国で4か所が襲撃にあっていた。
「そこで僕もその襲撃者を見て、あることに気づいた。」
皆が食い入るように、紗羅の言葉に耳を傾ける。
「今回襲撃している影の国の者たちはおそらく、いずれかの国の王族ではないだろうかと。」
紗羅の考えに、皆声も出せず、ただただ驚いた。
紗羅さん大激怒で始まった82章です。というか、アイザッ君は一体何をしているんでしょうね。まぁ、次回そのことがもうすこーし分かるかもです。




