*第79章~しのびよる闇~
「正当な国王を統べるって、まるでその人物に心当たりがあるような物言いだな。」
自信気に話す紗羅に、イアンが尋ねた。
「まあね。僕はその人の役に立つために、この学院に入って勉強をしていたのだから。その方がそろそろ風の国の現体制に反旗を翻そうとしているから、僕はその準備をしていたって訳さ。」
「なるほどな。それだけの重大事ならば、周りに内密に事を進めたのは分かる。だが、何故アイザックは連れて行ったんだ?」
それだけは解せないと言わんばかりに、イアンが聞いてくる。
「何故って、金のためだが?それにそこそこ権力のある人間がほしかったし。こいつ、こんなだから、妓楼とかで妓女から情報を集めたりするの得意だしな。それにこれだけの遊び人なら誰も不審に思わないだろ?」
もっともな意見だが、ダメ人間っぷりしか伺えない紗羅の理由に、ルイとイアンは肩の力が抜け、ガクッと体勢を崩した。
「そ、そうだったのか。理由は理解した。ところでサイル、お前家の人間にはちゃんと連絡しているのか?」
「何故だ?」
先ほどまでは笑顔で話していた紗羅が、一変、氷のような冷徹な表情になった。
「だって、お前の弟や、ジュダスさん達が必死で探し回っていたんだぞ?連絡してやらねぇと可哀想じゃねぇか。」
うろたえながらも、言葉を返すルイ。
「必要ない。それに僕はまたすぐ風の国に行くからな。いいか、お前ら、くれぐれも僕が話したことを誰にも話すなよ?アレクにも、ジュダスにも、もちろんダラス国王陛下にもだ。」
それ以上何も聞くなと言わんばかりに紗羅は言い切り、席を立って部屋を出ようとする。その後をのそりとアイザックがついて行こうとしたところを慌ててルイ達も立ち上がり、紗羅を引き留める。
「待てって。それなら俺たちも連れてけよ。」
「そうだ。金はあまりないが、少なくともコイツよりは役に立つ自信がある。」
「・・・・俺も。」
3人続けて立候補が上がると、紗羅はため息をついた。
「お前たちを連れて行ったらそれだけ目立つだろう。それにコイツはいつもいるかいないか分からないくらいの人間だから、少しくらい学院を休んでも怪しまれないが、お前たちが揃って休んだりしたら、絶対僕と行動していると思われる。だからお前たちには言いたくなかったんだよ。頼むから、何も知らないフリをしていつも通り勉学に勤しんでくれ。お前たちは立派な管理になるために学院に入ったんだろ?風の国の事にはかかわる必要はないはずだ。」
きっぱりと断られ、3人が意気消沈すると、紗羅はすかさずアイザックを連れ、少し走ったところで【移動】を使って、姿を消してしまった。
紗羅に置いて行かれたルイはイアンとヴィンセントと別れ、トボトボとヴィンセントの家から自宅へ帰っていった。
既に辺りは薄暗くなり始め、辺りを歩く人も疎らになっていた。自宅まで後500メートルと行ったところで、ルイは辺りの様子がおかしいことに気づいた。黒い靄が覆いかぶさり、道行く人は次々に倒れていった。
(な、なんだ?一体何が起きてやがる?!)
ルイは目を凝らして、黒い靄の中心を見定める。
(女?)
姿を現したのは黒と紫の衣装を身に纏い、黒く長い髪をなびかせて、禍々しいほどに濃い闇の空気を纏っている正に妖艶という言葉がよく似合う女が立っていた。
ルイの視線に気づいた女がニイーッと口角を上げると、忽ちその女を覆っていた黒い靄がルイ目がけて襲ってきた。
「わわッッ。」
咄嗟にルイは背負っていた剣を抜き、黒い靄を払いのける。すると、靄はルイを避け左右に散らばった。
「何っ?!」
女は顔を歪ませ、更に大きな靄をルイ目がけて打つ――――――が、やはり靄はルイを避けて散らばってしまた。
「悪いな、ねーちゃん。こいつは特別な剣でな。既に魔法をかけているから、ちょっとやそっとの攻撃じゃきかねーんだよッッ!!」
言うと同時に、ルイは女目がけて切りかかる。
女は間一髪でルイの攻撃を避けたが、ルイの剣が頬をかすり、一筋の傷をつけた。すると、女の顔はますます歪んでいき、ついにはその原型を留めず、異形の姿へと変貌した。
「おいおい、完全に化けモンじゃねーか。ったく、結構疲れんだよな、この剣を使うのも!」
女の魔物の攻撃を避けながら、ルイは剣に蒼い炎を纏わせ、その炎を女の魔物へ向かって放つ。女の魔物はみるみる炎に包まれていき、一瞬で塵と化した。
「やったか・・・・・ん?なんだ、これ。」
炎が消え、女の魔物がいた場所には何故か燃えていなかった木の人形があった。
「・・・傀儡かっ!なら、本体は別に・・・っ!?」
突如自分に向けられた殺気を感じ、ルイは後方へ振り向いた。が、そこには人影はない。
「こっちよ、お馬鹿さん。」
ルイが視線を向けた場所から右斜め上、道沿いの民家の屋根の上に、クスクスと笑っている少女がいた。その容貌は先ほどの女の魔物が異形と化す前の姿に似ていたが、それよりももっと幼く、妖艶という雰囲気ではなかった。
「何モンだ?お前。」
緊張を緩めず、ルイが問う。問われた少女は笑顔のまま、ストンとルイの目の前に降り立った。
「お前、無礼よ。口を慎みなさい。私は影の王国が国王、サフィール様にお仕えする“サイレンス・グレイヴ”の1人、ノーレディよ。今回は挨拶程度だからこのくらいで済ませてあげるけど、次は殺してあげるから。」
そう言うと、少女は笑いながら黒い靄と共に消えていった。
その場で立ち尽くしていたルイはハッと我に返り、倒れていた人々に駆け寄る。
「・・・駄目か。」
人々は既に死んでいた。何か外傷があるわけではなかったが、まるで生気を吸い取られたように、干からびたミイラとなっていた。
「一体、何がおきてやがる・・・。くそっ、こんな時、サイルがいれば何か分かるかもしれないのに・・・。やっぱりあの時ついていくべきだったぜ。」
今、この国にはいないであろう、紗羅を思い、唇を噛みしめたのち、踵を返して自宅とは反対の方向へ駆けだした。
同刻、生命、大地、花、風の国でそれぞれの国にある町が1つずつ何者かに襲撃され、その町の者たちが全員死亡した。
出てきちゃいましたね、新キャラ。これからもっとキャラが増える予定です。・・・自分でも絶対に把握しきれないと思います。。。




