*第78章~信じる心~
授業が終わり、そそくさと教室を出ようとする紗羅とアイザックをルイが素早く引き留めた。
「どこに行く?まだ話は終わってねぇぜ。」
気づくとすぐ後ろにはイアンとヴィンセントが立っており、前後はさまれた状態になった。
「本当にしつこいな、お前たち。」
「あぁ、きっと、地の果てまでも追いかけて、お前たちを問い詰めると思うぜ?」
紗羅とルイがにらみ合う横で、アイザックがあくびをした。
「ふあ~ぁ。ねー、もうよくない?この人たちに話しても。どうせ減るもんじゃないんだし。黙っていたのだって、特に意味なんてないじゃない。」
アイザックの言葉にルイがハッとすると、紗羅がニヤリと笑っていた。
「それもそうだな、ただの意地悪で黙ってただけだし。」
「な――――――――」
2人の態度に声も出ないルイとイアン。ただ1人、紗羅の予想外の行動をとったのはヴィンセントで、いきなり紗羅とアイザックを抱きかかえると、教室を出て行く。慌ててルイとイアンもヴィンセントの後を追って行った。
ヴィンセントが連れてきたのはジュダス邸よりも少し小さめの邸だった。庭の造形が美しく、その家主のセンスの良さが伺える。
「なんだ、ヴィンスの家じゃねーか。」
後を追ってきたルイが紗羅達の前に立ち、門を開ける。もちろん門番はいるのだが、ヴィンセントがその場にいるため、取り立てて引き留められることはない。ルイは自分の家のようにズカズカと中へ入り、邸の扉も勝手に開けて邸に入っていった。
「何故あいつがこの家の主のようにふるまうんだ・・・。」
ヴィンセントに抱えられたままの紗羅は半ばあきれ気味につぶやいた。
その邸を把握しているのか、ルイは先頭に立ち、おそらくヴィンセントの部屋であろう扉の前に立ち、これまた勝手に部屋の中に入る。ヴィンセントは何も言わぬまま、紗羅達を部屋の中に入れ、ベッドの上に下ろした。
「なんだ、きみ、気が利くじゃない。ちょうど眠たかったんだよねー。」
ベッドに寝転んだまま、アイザックは布団をかぶり、完全に熟睡体勢に入った。が、ヴィンセントはそれを許さず、布団を無理やり剥いだ。
「なにすんだよー。せっかくあと2秒くらいで眠れそうだったのに・・。」
アイザックは、ヴィンセントにそのままベッドから下ろされて床に座り込んだ。アイザックから手を放したヴィンセントは紗羅をジッと見つめる。
「なんだ?こんなところにまで連れてきて、尋問でもするつもりか?」
言葉の端に棘を含みながら、紗羅はヴィンセントを見つめ返した。
「・・・・・・・・。」
それでも無言のヴィンセントに、紗羅はムッとした。
「何か、言いたいことがあるのなら言えよ。いつまで黙っておくつもりだ?」
イライラと、突っかかる紗羅だが、ヴィンセントは表情を変えない。
「・・・・お前が、話したくないのであれば、何も聞かない。」
ぼそぼそっと、話すヴィンセントの言っている意味に理解できず、紗羅はさらに、イラつきを増した。
「なら、何故こんなところまで連れて来たんだ!?理解できないっ!」
憤慨し、さっさと部屋を出ようとする紗羅の腕を掴み、引っ張った表紙で、紗羅とヴィンセントが再び向き合った。
「何か?何も話すことはないんじゃないのか?」
紗羅が睨みながら話すと、ヴィンセントは少しだけ悲しい表情をした。
「・・・・・お前が自分から話すまでは聞かないが、俺たちは、お前の味方でいるつもりだ・・・。俺は、お前がいつかちゃんと説明してくれると信じている。・・・それだけ、言いたかった。」
その言葉を聞き、紗羅の目が大きく開かれる。すると、先ほどまで怒っていたルイも、ポンとヴィンセントの肩に手を置き、こくりと頷いた。
「確かに俺たちは、国王陛下からの密命でお前に黙って、お前を監視するようなことをしてしまった。だが、それはあくまで授業の一環で受けたまでだ。実際に今後また同じような命令が下されたとしても、俺は断る。俺は今回の事で、いかにお前のことが大事か、身に沁みて分かった。」
いつも、怒っているかふざけているかのどちらかなルイの真摯な態度を見て、紗羅はフッと笑みをこぼした。
「お前、それだと将来出世しないぞ?」
「そん時はそん時だ。俺は自分の信念を曲げてまで、誰かに仕える気はない。」
(ルイらしいな・・・。もしかしたら、また裏切られるかもしれないが、もう1度だけ、こいつらを信じてみてもいいかもしれないな。)
紗羅は一呼吸すると、皆をヴィンセントの部屋の椅子に座らせて、語り始めた。
「実は、僕とアイザックは今まで風の国にいたんだ。」
「「「?!」」」
思いもよらない国の名前が出て来て、3人は目を丸くした。
「そういえば、お前将来風の国の官吏になるとか言っていたな。」
眼鏡を上げながら、思い出したようにイアンが口にする。
「お前、まだ考えを変えてなかったのか?!」
ルイは思わず立ち上がり、顔を近づける。
「元々変えるつもりはないしな。僕はあの国でやることがあるから。知ってるか?今風の国の神獣が誰か主を選んだっていう噂が流れているのを。」
少し核心をついたところを話し、様子を伺う紗羅。
「あぁ、風の噂程度にならな。何でも影の王国に浸食されつつあった一部の森がたちまち緑の光に包まれて、以前の姿を取り戻したとか。それが出来たのは、居なくなった神獣が帰ってきたからだとかなんとかな。」
(ま、その渦中の人間が僕で、その神獣っていうのがアレクなんだが、それはまだ話すまい。)
「それで、僕はその噂の広がり具合を調べる為、風の国の情勢を探っていたんだ。後は故意に今の王政に反感を持たせるよう、噂を広めて回ったんだ。“真の風の国の王が戻ってきたのに、現国王のせいで、真の王はその玉座に座ることが出来ない。このままだと、風の国は崩壊し、世界は闇に覆われる。”てな具合にな。」
「そんなことをして、一体何がしたいんだ?」
イアンが訝しげに聞く。
紗羅は瞳に強い光をともしながら、笑顔で言った。
「もちろん、正当な国王を統べるためだよ。」
ダラスやジュダスよりも早く、ルイ達と仲直りをさせてみました。
そして、風の国の話。ようやく出てきましたね。この物語ももう80話まで来ましたね。これまでの内容を把握するのが大変で、すこしちぐはぐなところもあるかもしれません。パンク寸前です。




