*第74章~任務完了~
謁見場所は王城と聞いていた紗羅はアレクとシーラを残して、邸を出たが、角を曲がったところですぐにイアンと会い、ダラスが学院で待っていることを知らされた。そのまま行く方角を変え、学院の方へ足を向ける。
「今回は弟は連れてこなかったのか。」
ずり下がる眼鏡を持ち上げ、イアンが話す。
「長い旅路で疲れていたようだから、置いてきたよ。」
歩幅を緩めず、応えながら歩き続ける紗羅。
「・・・お前たち、本当に兄弟か?」
唐突に聞かれ、紗羅は思わず足を止めてしまった。
「何故、そんなことを聞く?」
再び歩き始め、感情を表情に出さないように聞き返す。
「いや、確かに見た目は似ているとは思うけど、2人の接し方を見ていると、兄弟というのがピンとこない。むしろもっと隔絶した・・・そう、主従関係のようなものに見えるからな。」
「・・・そうか。そう見えても仕方ないかもな。詳しくは言えないが、事情があるんだ。」
肯定とも否定ともいえるあいまいな返事でごまかし、それ以上詮索しないように釘を刺した。
(アレクめ・・・。一体どうしてくれるんだ!やっぱり怪しまれているじゃないか!!)
心の内でアレクへの文句を言いつつ、紗羅は澄ました顔のまま学院へと向かった。
学院の門の前へ着くと、既にヴィンセント、ルイが紗羅達を待っていた。
「遅かったな。」
大きく手を振りながらルイが近づいてくる。
「そうでもないだろう。どうせお前たちも今着いたばかりじゃないか?」
さも偉そうに威張るルイに紗羅は冷ややかに言った。
「う・・・。まぁ、確かに、サイルの言うとおりだがな。それでも先に着いたことはついたんだからいいじゃねぇか!」
「・・・それは置いといて、アイザックはまた遅刻か?」
相手にしてもらえなかったルイが喚き散らしているのを更に無視し、キョロキョロとあたりを見渡す。
が、やはり目的の影は見当たらない。
「まぁ、アイツに時間通り来いっていうのが元々無理な話なんだ。」
やれやれと言う風にイアンがため息をつき、ヴィンセントも頷く。
「仕方あるまい、僕たちだけで中へ入ろうか。」
これ以上待つのは無駄と言わんばかりに全員が賛成し、学院の中、光の学び舎へと向かった。
ガラッと音を立てて、教室の中へ入ると、思いもよらない人物が教室の端に座っていた。
「アイザック?!来ていたのか、お前!」
ルイが大声を上げて呼びかけたので、アイザックはうるさそうに紗羅達の方を見た。
「・・・家に帰る途中でセナン礼部次郎に捕まって、そのまま連れてこられたんだ。全く、やってられないよ。」
ジロリと恨めしそうに消失の後方にいる人物を睨む。そこにはきちっとした礼装に身を包んだセナン礼部次郎と、いかめしい顔をしているベルマ吏部尚書、何故か派手な格好をしているエーデル戸部尚書が立っていた。
(3人とも疲れ切っている顔を見たところ、また忙しい仕事中に無理やりダラスに連れてこられたんだな・・・。お気の毒に・・・。というか、あのエーデルとかいう男、前見た時より雰囲気が変わっているような・・・というより、様子がおかしい?)
ぎらついている格好ももちろんだが、疲れ切った顔色とは裏腹に、口角が以上に上がり、目がうつろな様子だった。これでは美人顔も台無しである。
「あの――――――」
ガラッっ
紗羅が思わず声を掛けようとした時、紗羅達の後ろの扉が開かれ、ダラスと紗羅達の担任である、ジェイド・パラスが入ってきた。
「いよっ!久しぶりだな!!」
馴れ馴れしく更に声を掛けるダラスを紗羅は冷ややかな目で見た。
「なんだ?どうした!元気がないなー。何だ、何か言いたいことでもあるのか?」
全く持って心当たりがないと言わんばかりに言うダラスに紗羅はため息をついた。
「いいえ、何もございません。」
「そうか、それなら全員席に着け。」
ダラスがそう言うと、中央の方の席に着いた。
「そんじゃぁ、早速だが本題に入ろう。お前たちが今回経験した成果を見せてもらう。まずはアングレイスとグレイの2人に出した任務だが、お前たちにはひと月前の大雨で氾濫した河川がある、ポートラード州へ赴き、防波堤の工事状況と、州の民たちへ支援が行き届いているか調査をするようにとのものだったと思うが、報告をしてくれ。」
本来、暗行御史という者は自分たちが調べてきた内容などは王だけに内密に伝えるのが仕事である。だが、紗羅達はあくまでも学生、授業の一環として一時的に暗行御史としての活動をしたまでで、それが直接王政に採用されるわけではない。また、暗行御史の派遣はダラスの王政の中で初めてのこと、無論過去に暗行御史を派遣した王がいたが、それも随分前の事であり、すくなくともここ100年は行われていなかった。また、本当の意味で暗行御史としての任務を託されたのは正式な官吏たちであり、紗羅達にくだされた任務はあくまでもその中の一部、表面上のものだけなので、紗羅達の報告は数人だけでの、ではあるが、発表会のような形になったのだ。
勿論、ここにいる者以外には漏らしてはいけない内容なので、急きょ発表の場を王城ではなく、この学院の、結界を張った学び舎の教室で行われることになったのだ。
「――――――――――ということから、我々はポートラード州の調査を終了いたしました。幾分か気になる点はありましたが、それ以上の事は謁見行為でしたから、リグニス官吏に任せ、ポートラードを離れました。」
(リグニス・・・あぁ、あの金髪眼鏡の男か。)
紗羅はルイ達と別れたあの場所にいた、もう一人の官吏を思い浮かべていた。
「本当はもう少し残って調査しようとしていたんだけど、別の伝令が来て、仕方なく離れたんだけどな。」
ルイがボソッとイアンに話しかけた――――――――とはいっても、彼は元々大声なので、皆に聞こえていたが―――――――ので、イアンが不機嫌そうな顔をした。
「そ、それでは次にフォード達の報告を。」
ジェイド・パラスが慌てて促した。
紗羅は無表情で壇上に立ち、無口で喋らないヴィンセントと、全くやる気のないアイザックの代わりに1人で淡々とロヴィスコ州で起きた出来事、事の顛末を話した。もちろん、最後の日にユーリ・ローゼンに渡した資料の事は課題の内容ではないため、一言も話さなかったが。
発表を終えると、後ろにいた官吏たちは皆感心したかのようにうなずいていたが、ダラスはいつもと変わらずニヤニヤしたままだった。
「よくやったな、お前ら。上出来だ。それじゃあ、今日はここまでだ。明日からはまたいつも通り勉学に励め!!」
そういうと、官吏たちを引きつれて、大股で教室を出て行った。
アレクの知らないところで、紗羅さんアレクにお怒りモードですね。そして、ダラスの腹が読めません。王様って、そんなものですかね。さて、次回は紗羅とダラスのバトルです。よろしければ引き続きお付き合いください。




