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*第66章~イーグルの正体~



 風の国の聖域に1人で来た紗羅は、待ち構えていたリューイとジェットに手厚い歓迎を受けた。いつもは広い草原で話し込んでいたが、さすがに何回もそんなところにいさせるわけにはいかないと、リューイが聖域の奥の泉の方へ紗羅を案内した。

「こちらに、神殿がございます。」

 リューイが指し示す方向を紗羅が見るが、そこにはやはり泉しかなかった。

「一体どこにあるというのだ。まさかこの泉の中か?」

 紗羅が首を傾げて聞くと、リューイが「いいえ。」と首を振った。

「神殿は泉の上にございます。」

 ますますリューイの言っている意味が分からず、紗羅は少しイラついてしまった。

「冗談が過ぎるようだな、リューイ。泉の上だと?この上を歩けというのか?」

 怒鳴るように言う紗羅にリューイがビクッとしてしまった。

「申し訳ございません、言葉が足りなかったようです。この神殿と言うのは聖域の中の最も神聖な場所、神域にあるのですが、実は我々風の国の聖獣でも簡単に行き来できないのです。思い通りに行けるのは神獣様か、神獣様と契約した方のみ。もちろん、そのどちらかの許可が下りれば我々聖獣でも中に入れます。ですので、まず陛下に神殿に入って頂く必要があるのです。入る方法は先ほど陛下が仰ったとおり、泉の上を歩くことです。何も心配されなくても大丈夫です。聖域を包む風が、貴女様を導いてくれます。」

 リューイに言われ、紗羅はまだ少し不安だったが、特に泳げないわけでもなかったので、そのままリューイの言うとおり、泉に近づいた。

 

 紗羅がそっと泉の上に左足を乗せると、その足を包むように風が渦巻いている。意外と安定した感触に紗羅は安心して左足に力を入れて右足も泉の上に乗せた。完全に泉の上に浮いた形になった紗羅は、奥の方の空気が揺らいでいるのが見えた。

(あれが入り口か。)

 その揺らいでいると事目がけて一直線に進む紗羅。そして、その目前に立つと、そっと手を当ててみた。

(何かブヨブヨとした感触があるな。)

 あまり気持ちのいいものではなかったが、紗羅は思い切ってそのブヨブヨとした壁のようなものに突っ込んだ。分厚いブヨブヨとした壁が絡みついた後、紗羅はポンッと空中に放り出されていた。

(あれ?)

 もちろん、想定していなかった事態にどうすることも出来ず、紗羅は真っ逆さまに急降下していった。

(まずい、これでは魔道書も開けない!)

 紗羅が慌てていると、紗羅の真下に突然地面が現れた。

(ぶつかるッッ!!)

 思わず目をつぶる紗羅。紗羅が地面と激突する寸前、紗羅をたくさんの風が包み込み、激突することなく、紗羅は地面に降り立つことが出来た。


 紗羅が辺りを見渡す。そこはちょうどジュダスの邸より2回りほど大きな場所で、中央に大きな西洋風の城が立っていた。辺り一面様々な薔薇で包まれ、覆っている空気は驚くほど澄んでいた。紗羅が地面と空の境界ギリギリのところに立ち、下を見る。どこまで続いているか分からない空に改めて紗羅はここが天空に浮いた場所であることが分かった。


『陛下、こちらです。』

 囁くような声が聞こえ、紗羅が振り向いたが、そこには誰もいなかった。

「誰かいるのか?」

 紗羅が大声で叫ぶと、紗羅のそばで風が通り過ぎた。

『我らはこの神域を包む風です。さぁ、陛下。こちらへおいでください。』

 紗羅を包んでいた風が城へ向かって吹いた。

 紗羅は導かれるまま、足を進める。風たちが紗羅に薔薇の甘い香りを運んでくる。風たちは紗羅を歓迎しているようだった。


 紗羅が城にたどり着き、大きな扉を開ける。長い間誰も訪れていないはずなのに、その城はどこも綺麗で、ほこりひとつない。目を見張るような豪華な造りだか、それでいて無駄と思える物が1つもない。

『陛下、こちらへ』

 風たちはサラをホールの中央の魔法陣のもとへいざなう。紗羅は一瞬警戒したが、描かれた魔法陣の意味を理解し、その中央へ立つ。すると次の瞬間、紗羅は大きな部屋の中にいた。紗羅のすぐ後ろには緑色の布が張ってある、綺麗な造りの椅子があり、空中にリューイとジェットの映像が映っていた。

『さぁ、お座りください。』

 言われるまま、紗羅はストンと腰を下ろした。そして目を閉じて、心を落ち着かせる。

「リューイ、ジェット、来い。」

 紗羅がそう言うと、突然目の前にリューイとジェットが現れた。そして、紗羅の前に膝をついてかしずく。

「「貴女様こそ我らが使えるべき御方。改めて忠誠を誓います。」」

 紗羅は少し戸惑ったが、こくりと頷いた。

「さぁ、面をあげろ。色々とお前たちには聞きたいことがある。」

 2人は顔を上げて立ち上がった。紗羅は2人と顔を合わせると、空中に浮いた映像を指差した。

「早速だが、あれはなんだ?」

 リューイが上を見上げ、再び目線を紗羅に戻す。

「我ら風の力を与えられたものは、情報収集を最も得意とします。風はどこへでも吹きますから。神殿ここは最もその風の力が集まる場所です。世界を包む風を通して、あらゆる映像をここで見たり聞いたりすることが出来ます。」

 紗羅は感心したように頷く。

「どこの映像でも見れるのか?」

 紗羅の質問にリューイが少し困ったような顔をした。

「確かに風はどこにでも吹いていますが、映像や音を直接運ぶのは少し大変でして、例えば強い魔導師の結界が張ってある所や、他国の聖域などは無理です。ですが、この映像等は全て今起きていることです。その“今”の情報を伝えることは困難ですが、ある程度であれば風たちから“前”の情報を聞くことは可能です。」

 紗羅はいつもアレク達が風たちから情報を集めているのを思い出した。

(何にせよ、これは便利だな。)

「何かお望みがあれば、命令を下しますと、ご希望の情報を映し出せますよ。」

 リューイが進めるので、紗羅は少し考えて口を開いた。

「では、アレクのいるところを映し出してくれるか?」

 紗羅が言うと、風達がざわつき始めた。

「どうした?早く陛下のご希望に添えぬか。」

 リューイが焦って風たちに怒鳴る。

『神獣様を包む風とコンタクトをとれません。何か強い、神獣様とは別の力を感じます。』

 風たちの言葉に紗羅達は顔を見合わせた。

「アレクの身に何か起きている可能性があるってことか。あまりうかうかとしていられないな。」

「陛下、来て早々ですが、今すぐにでもお戻りになられた方がよいのでは?」

 リューイが心配そうに言うが、紗羅は首を振る。

「いや、実はある程度予測していたことなんだ。ジェット、お前に聞きたいことがある。」

 突然名前を呼ばれ、ジェットが身を固くした。

「は、はい、どのようなことでしょうか、陛下。」

「固くならなくてよい。聞きたいことと言うのは、お前を捕えていたイーグルと呼ばれている魔導師のことだ。覚えているか?」

 紗羅の質問にジェットは更に身を強張らせ、表情を硬くした。

「えぇ、覚えています。あの男のことですよね。あのイーグルという男と闘った時、実は俺油断していたんです。」

 悔しそうな顔をするジェット。

「あの男、見た目にすっかり騙されてしまいました。あの男は――――」

 ジェットの話を聞き、目を見開く紗羅。顔色をサッと変え、気づいた時にはその場を飛び出していた。

「どちらへ行かれるのです?!」

 後ろの方でリューイが叫んでいるが、紗羅には応えている暇がなかった。

(まさか…くそッ、あの時感じた違和感はこれだったのか!!)

 紗羅が悔しさに顔を歪ませる。急いで魔道書を取り出し、ページを捲る。


「我、唱える者。かの場所へ扉よ、開け。【移動テレポート】。」

 吸い込まれる感覚に襲われた次の瞬間、紗羅は自分の宿の部屋の前に立っていた。一呼吸おいて、部屋の扉を開けると、そこには既に誰もいなかった。

(どういうことだ?聖域の時間軸は通常とは異なるから、あちらにいた時間ではこちらは5秒ほどしか経っていないはず…。そのわずかの間に一体どこへ行ったんだ?!)

 ありえない光景に焦りを見せる紗羅は、ジェットの話を思い出していた。


「―――イーグルは、か弱い少女のふりをした男です。普段は使用人に暗示をかけ、使用人の娘に成りすましています。あの男のもう1つの名前は、“ミーシャ”。」

 

 宿の外では先ほどまで晴れていた空が一転して大雨を降らせていた。


 

風の国チームは油断が多いですねー。前アレクが捕まった時も完全に油断した隙を突かれましたから。さてさて、暗行御史の任務は一体どこへ行った?!という感じに次回も描かせて頂きます。

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