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*第65章~ジョン・スパードの死~

 

 紗羅がアイザックとユーリの宴に出て以降2日間、紗羅とアレク、ヴィンセントは旅の芸人に身をやつしてから情報を収集し続けた。その間も、紗羅達は何度かユーリ達に協力を仰いだが、いずれも忙しいと断られ、結局一緒に行動することは叶わなかった。紗羅達が情報を集めている間、ユーリとアイザックは相変わらず遊びほうけている感じで、暗行御史としての仕事を一切おこなっていなかった。それどころか、自分が暗行御史だと言いふらしながらも、州官たちの賄賂を受け取り、贅沢三昧を続けていた。2人の行為に、アレクばかりか、さすがにヴィンセントも怒りを露にし、2人を抜いて、任務を遂行するという結論に至った。

「やはり、腑に落ちないな。」

 夜になり、今まで集めてきた情報を整理しながら、紗羅が呟いた。

「何がです?」

 アレクがお茶を運びながら、紗羅に伺う。

「あ、いや。あのユーリ・ローゼンとかいう官吏。何であんな馬鹿みたいな行動をとっているのか、理解できないなと思ってな。」

 紗羅は手を止めず、応えた。『ユーリ・ローゼン』という名前が出て来た途端、アレクがみるみる不機嫌になり、思わず勢いよく湯呑をテーブルに置いたので、お茶が飛び散ってしまった。

「あぁッ、も、申し訳ございません!!」

 慌てて手拭いをもってきて、テーブルを拭くアレク。

「問題ない。だが、いちいち腹を立てるな。」

 紗羅がうんざりと言うと、アレクが不満そうな顔をした。

「だって、主。あの者たちの行動は目に余ります!仮にも官吏ともあろうものがあんな不道徳な行為に走ってよいものですか!それに再三の主へのあの態度。分をわきまえないにもほどがあります!!」

 そちらかと言えば、後者の方により腹を立てていたようで、紗羅は更に呆れた。

「まだそんなことで怒っているのか。僕は自分のことを隠しているのだから、、向こうが横柄な態度をとっても仕方がないだろう?それにあからさまな奴らの行動。もしかしたら、何か意味があるのかもしれないぞ?」

 紗羅がおもしろそうに話しているのを見たアレクは逆に呆れ顔になった。

「何を仰っているんですか。あんな人間に何か考えがあるわけないでしょう!きっと、あの地位も汚いことをして上り詰めたに違いありません。」

 一刀両断する物言いに紗羅は「はいはい。」と受け流した。


 紗羅達は集めた情報の整理が終わると、これからのことを話し始めた。

「そろそろ、証拠も出そろったし、責め時だと思うんだが。」

 紗羅はヴィンセントの反応を伺うように顔を覗き込む。

「………俺もそう思う。」

「了解。一応、アイザックたちにも言っておいた方がいいよな。」

 この提案にはアレクはおろか、ヴィンセントも快諾してくれず、2人の反対を押し切って、紗羅は1人でアイザックたちの宿へ向かった。

 自分の宿を出たところで、紗羅は通りが騒がしいことに気づいた。

(何かあったのか?)

 紗羅は人だかりができている方へ視線を向ける。

「やめてー!!連れてかないでぇッ!!おとーさんっっっ!!!」

 泣き叫ぶ女の子の悲鳴が聞こえ、紗羅は思わず傍へ駆け寄った。人ごみを潜り抜け、騒ぎの中心を見ると、少女が大人の男2人に取り押さえられ、もがきながら連行される父親と思しき男に手を伸ばしていた。

「どうかされたんですか?」

 紗羅は隣にいた中年の女性に聞いた。

「それがねぇ、あの子の父親、自分が働いているとこの主人を殺したってんで、役人が連れて行こうとしているのさ。人を殺すような人間じゃないんだけどねぇ。まぁ、働いていると事があのスパードの所ってんなら、多少の殺意はわくと思うけど…。」

「スパード?!」

 思いもよらない人物の名前に紗羅は思わず振り仰いだ。

(そう言えばあの男、大鷲が暴走した時にジョン・スパードのそばにいた使用人ではないか。)

 役人が連行しようとしている男に見覚えがあることに気づいた紗羅。

「そうだよぉ。ここ2~3日大人しくしているなと思っていたら、なんと、殺されてたらしいのさ。ジョン・スパードのやつ。そいで、あの男が第一発見者で、ひどい扱いを受けていたから動機もあるって、別に証拠があるわけでもないのに無理やり犯人に仕立て上げられているのさ。でも、あの親子には可哀想だけど、諦めるしかないよ。」

 女性が残念そうに言うのを紗羅が首を傾げて聞いた。

「何故です?証拠がないのなら、裁くことなどできないのでは?」

 紗羅の質問に女性は驚いたような目を大きくして紗羅を見た。

「あんた、ここの人間じゃないね?」

「えぇ、そうですが。」

 突然言い当てられて、紗羅は、少し動揺した。

「やっぱりね。あのね、あの男を連れて行っている役人、あれはこのロヴィスコ州の刺史の手の者たちさ。州のトップともいえる人間があの男を有罪としているんだ。覆しようがないよ。」

(刺史というと、州の長官か。これは何かあるな。)

 少女の叫びもむなしく、男は役人たちに連れて行かれた。野次馬たちは興味を失ったかのように散り散りになり、あとには少女だけが残された。紗羅はそっと少女に歩み寄る。

「大丈夫か?」

 突然真上から声が降りかかり、ゆっくりと振り向く少女。涙と鼻水で汚れた顔を服の袖で拭い、紗羅を見つめる。

「お兄さん、誰?」

 紗羅は少女の目線に合わせるためにその場にしゃがみ込み、ポンポンと少女の頭を叩いた。

「僕は正義の味方だよ?君のお父さんを助けたいんだ。だから、僕に話してくれるかい?」

 少女は警戒するそぶりを見せ、なかなか返事をしない。かたくなな少女の心を開くため、紗羅は少女に周りには見えないようにそっと、馬が彫られた札を見せた。

「これ、なあに?」

 札の意味が分からず、少女が紗羅に上目づかいで聞く。紗羅は少女だけに聞こえるように小声で彼女の耳元で呟いた。

「これはね、暗行御史の印だよ。僕はこの地方に正義をもたらすためにここへ来たんだ。そのためには君のお父さんのことも助ける必要がある。どうか、信じてくれないか?」

 紗羅の真摯なまなざしを受け、少女はやっとこくりと頷いた。



 紗羅はアイザックたちの宿へは行かず、ミーシャと名乗った少女を連れて一旦自分の宿へ戻った。部屋の中にいたアレクとヴィンセントに事情を話し、紗羅達はミーシャから事と次第を聞いた。

「あのね、この前おやしきで魔物が出てから、旦那様すごく怖がっていたの。それでね、ずっとお部屋に閉じこもってて、出てこないから、お父さんと一緒に旦那様のお部屋にいったら、お部屋中真っ赤になってて、旦那様が奥で倒れていたの。お父さんが急いで駆け寄って、私にはお医者様を呼ぶように言って、お医者様を呼びに行ったんだけど、結局旦那様動かなっくって、お役人様たちがお部屋の中を出入り禁止にして、私たちには家にいるようにって言ったの。そしたら、今日、いきなりそのお役人様たちがお父さんを連れていっちゃって…。お父さん、何もしていないのに!ずっと私といたのに!!でも、お役人様信じてくれなかった…。」

 泣きじゃくるミーシャをアレクがなだめた。

「キミ、その旦那様の部屋に入ったときに何かおかしなものとか見なかったかい?」

 紗羅は優しく、けれども促すように強い声で聞いた。ミーシャは紗羅に言われたことを考え、何か思い出すようにしばらく黙り込んだ。そして、ハッと紗羅の方を見た。

「そういえば、旦那様、どこも怪我をしていなかったの。なのに、お部屋中旦那様の血で真っ赤だったわ。それに、旦那様には血が少しもついていなかった。」

 ミーシャの話に紗羅達は1つの確信を持ち、互いに頷いた。

「キミのお父さんは、魔法が使えるのかい?」

 紗羅の質問に、ミーシャはふるふると首を横に振った。

「全然。お父さんは魔力なしだもの。」

(ミーシャの話だと、おそらくジョン・スパードを殺したのは魔導師。だから、魔力なしのミーシャの父上は確実に犯人ではない。1番怪しいのはジェットを捕えていた、あの場に現れなかったイーグルとかいう魔導師。だが、もう1つ、気になることが…。)

 紗羅はちらりとミーシャを見た。ミーシャは話し疲れたようで、こっくりと首が垂れている。紗羅はアレクにミーシャをベッドで寝かすように言い、そのまま1人で再び聖域へ向かった。

まさかの殺人事件勃発です。でもとくにトリックとか考えられなかったので、魔法のせいにしてみました(笑)

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