*第62章~それぞれの調査~
夜になると、街の中央にある広場には多くの出店が立ち並び、赤い提灯が辺りを照らしている。女性の言っていた通り、人通りは少なく、出店を出している者もどこかやる気のない雰囲気だった。その市場の区で、楽団と思しき人たちが演奏を始めていたが、観客は疎らで、寂しい光景だった。
紗羅は女性に連れられ、臨時設営された楽屋へ入った。そこで剣舞用に派手目の化粧を施し、髪を結った。衣装は鮮やかな翡翠色の服の上から透ける白いふんわりとした羽織物をまとい、その袖にはひらひらとした飾りがついていた。
紗羅の出番の前の演奏が終わり、少し間が空く。合図を待って紗羅は舞台に出た。
紗羅が顔を隠しながら舞台の真ん中に立ち、顔を伏せて膝をつく。観客は特に紗羅の存在に興味を示さない。
演奏が始まり、紗羅が顔を伏せたまま立ち上がる。太鼓の音と共に顔を上げた。すると、観客席にいた人皆が、一瞬にしてその美貌のとりことなり、魂が抜けたように舞台の上の紗羅を見つめた。1つ1つの動きが流れる水のようにしなやかで、少しの無駄もない。その圧倒的な美しさに、あっという間に会場が人で埋め尽くされた。
紗羅の演目が終わり、紗羅が一礼をして舞台から去っても、観客たちはまだ呆けた状態だったが、次の演目の開始を表す銅鑼の音が鳴ると、皆我に返った。次の演目は移動芸団による軽業だったが、観客の意識は芸そっちのけで、舞台袖の方に注がれていた。演目が次々に進む中で、観客たちは一向に帰ろうとしない。最期の演目が終わると、さすがに諦めた人たちが会場を去ろうとする。その時、舞台から鈴の音が聞こえ、虹色の衣装を身に纏った紗羅が現れた。帰りかけてた人々は足を止め、急いで会場へ戻る。
「今宵はもう少しだけ、わたくしにお付き合いいただけますか?」
紗羅が舞台上でにっこりと笑うと観客席のいたるところから黄色い悲鳴が上がった。紗羅は皆の期待に応えるように、優雅に踊り始めた。先ほど剣を持っていた左手には銀色の扇を持ち、桜の花びらに見立てた薄桃色の紙を空へ舞わせる。紙ふぶきの舞う中で、銀色の髪と扇がキラキラ光り、幻想的な光景を生み出していた。曲の終わりに紗羅は舞台から観客席に飛び降り、観客席の最前列の中央にいた女性に跪き握り締めた手のひらから、壱輪の深紅の薔薇を出現させ女性に渡した。女性は紗羅の魅力的な顔と、その行動に、顔を真っ赤にして失神してしまった。紗羅は彼女を抱き上げ、観客先に一礼をして、舞台袖へ下がった行った。最後の女性への行動も演目の1つと勘違いした観客たちは大歓声を上げ、会場は熱気に包まれた。
楽屋に戻り紗羅は横長の椅子の上に女性を寝かせた。そのまま紗羅は化粧台に向かい、化粧を落とし始める。そして衣装から自分の服へ着替えて、帰り支度を整えると、女性を揺さぶり起こした。
「う…ん。」
女性は重たい瞼をこすりながら、薄めで自分を覗き込む顔を捉える。その顔を認識すると、ガバッと飛び起きて、咄嗟によけた紗羅を見る。
「あ、あの…私…なんで…。」
動転してきちんと話すことが出来ない女性の手を紗羅が握る。女性は再び顔を真っ赤にして、下を向いてしまった。
「申し訳ございません。突然倒れられたので、僕の楽屋まで運びました。ご気分はいかがでしょうか?」
「だ、大丈夫です。」
心配する紗羅の声に必死に女性が応える。
「よかった。よろしければこれから貴女をご自宅までお送りしたいのですが。」
紗羅の突然の申し出に、反射的に顔を上げる女性。
「ご迷惑でしょうか?」
紗羅がさみしそうな顔をして言うと、女性はブンブンと首を横に振る。
「ありがとうございます。それでは行きましょうか。どうぞ、手をお取りください。」
椅子に座る女性へ紗羅が手を差し伸べると、女性はおずおずとその手を取った。紗羅はそのまま女性を引き上げるが、勢いよく引っ張ったので女性がそのまま前のめりに倒れそうになったのを紗羅が抱き留めた。
「大丈夫ですか?」
「え、ええ。」
慌てて紗羅から離れ、乱れた髪を整える女性。紗羅はさりげなく女性の腰に手を回し、出口の方へ促す。
「さぁ、参りましょう。」
紗羅の行動1つ1つに頬を赤らめ、言われるがままに女性はついて行った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
紗羅が楽屋に下がったころ、アレクは売り子に、ヴィンセントは守衛に変装して、祭りに集まった人たちの様子を伺っていた。その中で、アレクは身なりが裕福そうな人たちの周りを行ったり来たりしていた。アレクの読みは当たっており、その人たちはある噂について、話を膨らませていた。
一方ヴィンセントは紗羅の演技が行われた舞台の入り口付近に立ち、行き交う人々を観察していた。人々の多くが町人で、なかなか目当ての人間は現れなかったが、町人にまじって、派手ではないが、高級な服を着ている人間がいるのに気付いた。そしてその人間の隣にいる人物には見覚えがあった。ヴィンセントは気づかれないようにその場を離れ、その2人の後を追っていった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その頃、紗羅と女性は街の外れを歩いていた。女性は何度か紗羅との会話を試みたが、いずれも紗羅の笑顔の返事に自分が黙り込んでしまうという結果に終わっていた。そしてとうとう、目的地である彼女の邸についた。
「あの、お名前を…。」
女性が控え目に紗羅に伺うと、紗羅はふわりと微笑んだ。
「サイルと、申します。」
「わ、私はフィオナ。フィオナ・カーターよ。また会えるわよね?」
紗羅は不安そうに聞くフィオナに再び手から深紅の薔薇を出現させて渡した。
「いずれ、また。」
そう言うと、紗羅はその場から姿を消した。
紗羅が宿に戻ると、まだアレクもヴィンセントも戻っていなかった。さすがに汗でべたつく肌を洗いたかった紗羅は【移動】を2回使い、ジュダスの邸へ向かった。突然部屋に現れた紗羅にシーラが驚いていたが、すぐに飛びついて、喜んでいた。
「シーラ、お風呂にはもう入ったかい?」
「ううん、まだぁ。」
シーラが上目で答える。
「じゃあ、一緒に入ろうか?」
シーラは満面の笑顔で「うん!!」と元気よく言った。
お風呂につかりながら、シーラが楽しそうに、話をしている。
「あれ?そういば、アレクは?」
その場にいない少年のことにシーラが気づいた。
「アレクは今お仕事中だから、また今度な。」
「ふーん。」
シーラは少しがっかりした顔をしたが、すぐにまた話し始めた。
「それじゃぁ、僕はまた行くから。」
お風呂からあがり、髪を乾かした後、紗羅がシーラに告げると、シーラは悲しい表情を浮かべ、紗羅にしがみつく。
「いつ戻ってくる?」
瞳をうるうるさせながら聞いてくるシーラに、紗羅はシーラに視線を合わせて頭を撫でた。
「もうちょっと仕事があるからそれを早く終わらせてすぐ帰ってくるよ。だから、いい子にして待っているんだよ?」
シーラはこくりと頷き、紗羅を手を振って見送った。
紗羅がロヴィスコ州の宿に戻ると、今度はアレクもヴィンセントも帰っていた。アレクは紗羅から漂う香りに気づき、頬を膨らませる。
「兄上、もしや勝手にあそこに戻りましたか?」
「あぁ、汗が気持ち悪かったから、ちょっとだけな。」
責める様なアレクに紗羅はなんでもなさそうに答える。
「私も行きたかったのに!!」
「お前が遅いのが悪い。あんまり夜遅くに行くと、シーラの教育に悪い。」
駄々をこねるアレクに紗羅がビシッと言うと、アレクがしゅーんとなった。
「それより、それぞれ報告を始めてくれるか?」
紗羅が言うと、アレクはすぐに立直り、自分が聞いたことを話し始めた。
紗羅の剣舞はとにかく綺麗!!というのを表現したかったのですが文章力が乏しく、上手く表せれませんでしたー。そしてオリンピックが気になって気が気じゃないので思うように手が進みません!
紗羅さんて、きざですよねー。実際にあんな男いたらちょっと引きます。でも、そんなきざな行動でも似合ってしまう紗羅さん!というのをイメージしてくださいねー。




