*第61章~不可解な行動~
紗羅はリューイとジェットに別れを告げると、ヴィンセントの待つ部屋に戻るため、魔道書を開き、【移動】を使った。今度はアレクをちゃんと連れて、ちょうど紗羅達が聖域へ言った直後の時間枠で部屋に戻った。
ヴィンセントはたった今、目の前から消えたはずの紗羅とアレクが自分の真後ろに立っていることに、めずらしく驚いたような表情を見せた。
「………何故そこにいるんだ?」
「今聖域から戻ってきたんだ。聖域は時間という概念のない場所だからな。」
紗羅は背負った竜剣を下ろして、ベッドに腰掛けた。
「もう時間も遅いから、そろそろ休もうか。ヴィンセント、お前身体が大きいから床だと邪魔になるだろう?僕が床に寝るからベッドを使っていいよ。」
紗羅は用意された布団を床に敷きながら言った。すると、アレクがヴィンセントを睨みつける。
「主、何を言っておられるのですか?!主を床に寝せるなど、そんなこと許されるはずがないでしょう!!この者が身を縮めて床で寝ればよいのです。」
息を荒くしながら話すアレクを見て、紗羅はため息をついた。
「アレクお前、いくらヴィンセントに僕とお前の関係を話したからと言って、今僕のことを主と呼び続けていたら、他の者がいる前でもうっかり主と呼んでしまうのではないか?それにそんな大声を出して、誰か外で聞いていたらどうするんだ?」
静かに叱る紗羅に、憤っていたアレクはみるみる大人しくなり、黙り込んでしまった。
「と、いう訳で僕が床でヴィンセントがベッドだな。アレクも僕と一緒に床で寝るから、それじゃあお休み。」
紗羅は明かりを消して、布団にもぐりこんだ。暗闇の中でヴィンセントがベッドに入り込んだ気配を感じ取ると、そのまま目を閉じた。
翌朝、小鳥のさえずりが聞こえ、朝陽が部屋の窓から差し込む頃、紗羅は目を覚まし、固い床に薄い布団をひいた状態で寝たことでこってしまった肩を回した。そのまま立ち上がり、部屋に置かれた水を桶の中に入れ、顔を洗った。顔を拭き、身支度を始めた頃、ヴィンセントとアレクも目を覚まし、起き上がって身支度を始めた。
紗羅達は宿を出て、隣にある豪華な宿の前でユーリとアイザックが出てくるのを待った。だが2時間ほど待っても2人は出てこなかった。
(おかしいな…。まさかもう先に調査に向かったのか?)
紗羅が少し考え、そして自分たちも調査を始めようと宿の前を離れようとした時、宿の中から、ご機嫌な笑い声が聞こえてきた。
「いやー、昨夜は楽しかったです。さすが、ローゼン家のご子息殿は一味違いますな。」
「いーえ、シューベル様にはかないませんよ。」
声のする方向からはまだ酔いが残っているような赤い顔をした能面のような男と、ユーリが仲よさげに並んで宿の扉から出て来た。その後ろには面倒くさそうな顔をしたアイザックがついてきている。
「ベルン家のご子息殿は昨夜はあんなに楽しんでいたのに、朝になると機嫌が悪そうですね。大丈夫ですか?」
「…………。」
アイザックは返事を返さずそっぽを向いている。能面のような男は明らかにアイザックの態度で不機嫌になった。
「シューベル様、こやつはまだ子供ですので、朝は苦手なのです。お気になさらずに。ささ、これからまたお仕事でしょうから、また今晩にでも。」
ユーリが笑顔で能面のような男をなだめ、そのまま紗羅達の前を素通りして、見送りに行った。ユーリ達が見えなくなった頃、紗羅は隅の方でこくりと眠りかぶっているアイザックの前に行き、ほっぺをつねった。
「いッッ?!」
突然走った痛みにアイザックは涙目になりながら紗羅を見た。
「おはよう、アイザック。昨日はお楽しみだったようだね。ところであの男はここの州官長だろう?一体何をしていたんだ?」
「別に、何も。」
あくびをしながら素っ気なく答えるアイザック。
「何もって、あれだけ親密にしておきながら、何もしていないのか?」
紗羅はアイザックに詰め寄って聞いたが、アイザックはただ、首を振る。
(何か、隠しているな…。まあ、おいおい聞き出せばいいか。)
紗羅はそれ以上追及せず、今後の行動について歩きながら話がしたいと、その場で休もうとしているアイザックを引きずり、ヴィンセントに引き渡して歩き出した。
時間は既に昼に近かったため、街中も人通りが多く、少し熱気がこもっていた。
「僕たちは昨日、ちょっとした宣伝行為をしたから多分、芸の依頼が入ると思う。芸の場は人が集まるから、そこから情報収集しようと思うんだが、ローゼン様は何か仰っていたか?」
「うーん、特に何も?」
仮にもユーリが上官なのであまり勝手に行動をするわけにはいかない紗羅は、どうしようか考えていると、紗羅達の進行方向に人だかりができているのに気がついた。
「アレク、ちょっと見て来てくれないか?」
人の山の中に入りたくなかった紗羅はアレクに頼み、久々に紗羅に頼みごとをされたアレクは嬉々として人ごみの中に消えていった。
しばらくしてアレクが人の間から這い出てきた。もみくちゃにされたであろう、アレクは髪がぐしゃぐしゃになって、服も何故か破けていた。
「兄上、あそこにはあの無礼なユーリとかいう男がいました。」
「は?」
意外な名前に紗羅は思わず聞き返した。
「どうやら大きな商人の店でたくさん品物を購入しているらしいのですが、その量がありえない数なので、皆見物に来ているようです。」
ユーリの行動の意味が分からず紗羅はますます首を傾げた。
「アイザック、悪いが僕たちは先に調査を始めておくから、君はローゼン様と一緒に行動をしてほしい。」
アイザックは手をひらひらさせ、気のない返事で「はいはーい。」と答えた。
紗羅とアレクとヴィンセントはアイザックと別れ、人だかりを避けて、再び街中を歩き始めた。身体の大きなヴィンセントと、見目麗しい紗羅とアレクの存在は人ごみの中でも目立つようで、行き交う人々が振り返っていた。
「あのー、ちょっといいですか?」
紗羅達がしばらく歩いていると、若い女性が声をかけてきた。
「はい、なんでしょう?」
紗羅が女性を見つめると、女性は顔を赤らめ、もじもじしながら話し始めた。
「あなた方、昨日、スパードの家に出た魔物を追い払った人たちよね。」
「えぇ、そうですが。」
「そこで、剣舞をやってたでしょ?今日さ、小さな祭りがあるんだけど、なかなか人が集まらなくって…。あなたたち、その祭りの会場で剣舞を披露てくれない?」
(かかった。)
紗羅は女性の申し出に少し迷っているふりをした。
「お申し出はありがたいのですが、僕たちの仲間が数人今行方不明で、楽器を演奏する者がいないのです。」
「それなら、大丈夫。もともと会場には演奏者たちがいるから、彼らに頼めばいいわ。ねぇ、お願い。」
すがりつく女性に紗羅は諦めたような顔をして、息を吐いた。
「分かりました。何時ごろ伺えばいいですか?」
紗羅の返事に女性の表情が輝いた。
女性が浮かれながら紗羅達のもとを去ると、紗羅はヴィンセントとアレクに一度宿に戻りたいと告げた。宿に戻る途中、ユーリとアイザックがいたところを通ったが、そこには2人の姿はなく、山のようにできていた人だかりも既に散った後だった。
(どこに行ったんだ?)
紗羅は見当がつかなかったので、考えるのを止め、そのまま歩き続けた。
宿に戻った後、紗羅は初日に購入した衣装を身に纏い、化粧道具を袋に入れた。
「いいか?僕が剣舞をしている間や、その他の時間、人々からできるだけ多くの情報を集めるんだ。」
紗羅が言い放つと、アレクが眉を寄せた。
「兄上、僕と離れるおつもりですか?できれば一緒にいて頂きたいんですが。」
「そんな長い時間でもないし、第一目と鼻の先にはいるんだ。あまりわがままを言うな。」
アレクはため息をついて「分かりました。」と言った。
一泊温泉に行っていたので昨日は更新できませんでした。温泉につかりながらも悶々と小説の続きを考えていました(笑)
アイザック君あまり出てきませんでしたねー。もっと出したいのですが…。ヴィンスは無口キャラなのでちょっと、扱いにくいです(笑)




