↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
62/94

*第60章~大鷲の話~

 風の音しか聞こえない聖域の中で、青年の姿をした大鷲は話を始めた。

「恥ずかしいことに、じつは馬の聖獣が死んだとき、真っ先に魔物に取りつかれてしまったのは俺なんです。元々俺と馬の聖獣は仲が良く、共に契約をしていない時はほとんど一緒に過ごしていました。だから、俺はアイツがあの国王に仕えるのは反対だったんです。」

 いじけていたアレクは立ち上がった後、悔しそうに涙を流す大鷲を見て、悲痛な表情を浮かべた。

「でも、アイツは誰かが契約しないといけないからって、本当は順番で言ったら俺の番だったのに、自ら名乗り出て祝福の泉からあの王のところに行ってしまった。結果はご存じのとおりです。俺はその知らせを聞いた後、すぐ魔物に憑りつかれてしまいました。ですが、完全に魔物化していたわけではないんです。」

 大鷲の言葉に紗羅だけでなく、アレクやリューイも驚いた。

「どういうことだ?あの時のお前は明らかに我を失っているようだったが。」

 紗羅は自分が大鷲と闘った時、神獣であるアレクにも襲い掛かった大鷲の姿を思い出していた。

「そうです。俺はあの時確かに我を失っていました。ですが、俺という意識はずっと保ったままなんです。魔物に憑りつかれた時から…いいえ、その前からずっと俺の感情は怒りと憎しみに覆われていました。その感情があまりにも強く、憑りついた魔物も完全に俺の意識を支配することは出来なかったんだと思います。俺が人間を襲っていたのは魔物のせいでもあり、俺の意志でもあったんです。」

 大鷲は自虐的な笑みを浮かべていた。

「俺が主に襲っていたのは、俺たち獣を酷使する人間、風の国の王族や貴族等、俺が憎いと思う連中ばっかりで、そこにある男が現れ、俺はまんまとそいつに捕まってしまったんです。正常な状態だったらあんな男、一ひねりで倒せるんですが、俺は俺の中で俺に憑りついた魔物と闘いながら、外でその男を戦っていたんで、いつもよりも力が出せず、しかもその男、火の力を使う男で俺とは相性が悪く、俺は負けてしまいました。あとはあの商家に連れて行かれて、鎖で囚われていたので、あいつらの思うままに暴れさせられました。その時はもう、鎖でつながれていることに怒りが沸騰していて、誰を襲っているかなんてわからなかったんです。まさか、神獣様と国王陛下を襲うなんて…。本当に、すみませんでした。」

 深々と頭を下げる大鷲にアレクが駆け寄った。

「そんなことは気にしなくていいんだ。すべて僕の責任なんだから。」

「アレク!!」

 大鷲をなだめるアレクを紗羅が突然怒鳴りつけた。

「もう忘れたか、アレク。私はお前に今後自分を責めるなと言ったはずだ。その件でお前が自分を責めることは私を責めることと同じだと。」

 アレクは悲しそうな顔をしたが、「御意。」と返事をして、それ以上は何も話さなかった。


「大鷲、お前ずっと意識があったんなら、ゼダのことは知っているか?」

 ひとしきり話し終えて落ち着いた頃、紗羅は大鷲に聞いた。

「ゼダですか?あぁ、狐の聖獣のことですね。えぇ、知っています。」

 紗羅に怒られて沈んでいたアレクがピクリと反応した。

「俺は怒りに支配され、魔物に憑りつかれながらも、風達から情報が入ってきていましたから、その時のことも覚えています。もともと風の国の聖獣である我々は情報収集は得意としていますから。確か、あの聖獣は主人の女魔導師といましたよね。」

 大鷲の質問に紗羅とアレクとリューイが頷く。

「私たちはその女魔導師をゼダが殺してしまった時、本来であれば消えるはずのゼダを守るため、ゼダに何らかの処置を施したと踏んでいる。」

 紗羅は伺うように大鷲を見た。

「その通りです。自分が息を引き取ると同時に聖獣が消えると解っていた女魔導師はゼダの中から、魔力の一部を取り出し、近くにいた少女にそれを移しました。そして力が少なくなり、弱まったゼダを女魔導師は自分の水晶玉に封印したのです。」

「封印だと?だが、ゼダは私たちの前に現れた…。誰かが封印を解いたということか。」

 大鷲が頷く。

「そうです。女魔導師が息を引き取った直後、その場に巨大な闇の力を持った者が現れ、その水晶玉をもって去りました。あの力をもってすれば、封印を解くことなどたやすいでしょう。」

(あの、そばにいた黒フードの男か。)

 紗羅は襲撃された時のことを思い出し、身震いした。

「分かった。ゼダのことはもういい。その他の聖獣がどうなったかは知っているのか?」

 紗羅の質問と共に、アレクが祈るような目で大鷲を見た。

「はい。皆、生きているはずです。俺が捕まったのは数か月前ですから、その時の場所から移動していなければ、見つかると思います。ただ…。」

 大鷲が言いにくそうに黙った。

「皆、魔物化しているのか。」

 なんとなくわかっていたので、紗羅は大鷲に聞いた。大鷲はその言葉にただ、頷いた。

「とりあえず、俺とリューイさんで調べてみますんで、何か分かったらまた風を使って報告します。」

「分かった、そうしてくれ。」

 

 後のことを頼み、聖域を去ろうとした時、紗羅はふと、足を止めて、大鷲の方を見た。

「大鷲って、なんか言いづらいな。名前はないのか?」

 大鷲は少し困った顔をした。

「すみません、我々聖獣は人間と契約しないと名前を与えられないのです。そして契約した人間が死に、契約がなくなるとその時与えられた名前は忘れてしまうのです。」

「アレクが与えればいいんじゃないのか?リューイみたいに。」

 紗羅は隣にいるアレクを見た。するとアレクも困った顔をした。

「申し訳ございません。名前を与えるということはそう簡単なことではないのです。私が誰とも契約していない状態であれば、問題ないのですが、今は主と契約しています。」

 紗羅は首を横に傾けた。

「何か問題でもあるのか?」

「えぇ、僕が名前を与えてしまうとその分、主にかかる負担が大きくなってしまうのです。ただでさえ神獣である私と契約しているということは多大なる負担をかけているということなのに、今は既にリューイに名前を与えた状態で契約したので、リューイの力分、主の負担も大きくなっているのです。並みの人間なら、抑えきれずに暴走してしまったり、最悪の場合死んでいてもおかしくないくらいです。ですが、主は元々お持ちの魔力が大きいからです。」

 紗羅は頷きながらアレクの話を聞いていたが、再び首を傾げた。

「でも、それって私が頑張れば済む話だろう?それに私今特にお前たちの力が負担だなんて感じていないし。まだまだ余裕あるから、1匹くらい増えたって、問題ないと思うが。」

 笑いながら話をする紗羅にアレクとリューイと大鷲が目を丸くした。

「私たち2人分の負担がかかっているのに、それを感じないのですか?主は一体どれだけの魔力をおもちなんですか?!」

 アレクが興奮して、紗羅に詰め寄る。

「知らないよ、そんなこと。」

「ですが、主は一度魔力を使いすぎて倒れられたことがあります。あの時は確かに莫大な魔力を使用していましたが、それで倒れてしまうくらいの魔力だと、私たち2人分で精いっぱいのはずです。」

 アレクに指摘され、紗羅はいきなり暗い顔をした。

「ど、どうされたのですか?私何か悪いことでも言いましたか?」

 アレクは焦って紗羅の周りを右往左往しながら紗羅を覗き込む。

「いや、確かにあの時はアレが精一杯だったんだ。だがな、再びあいつ等が襲撃してきて、あの黒いフードの男が私に触れようとした時、アイツ私の中の何かを取り出そうとしていたんだ。寸前でジュダスに助けられたが、その反動で、私の中にあった何かが解放されたんだ。その何かがおそらく、何故か封印されていた私の魔力だと思う。だから増えた魔力の分、余裕があるって言ったんだ。」

 紗羅の話にアレクが口をパクパクさせていた。

「な、何故そのような大事なことを言っていただけないのですか?!」

「え?そんなこともいちいち報告しなければいけないのか?」

 そっけない紗羅の態度に、アレクが固まってしまった。紗羅は固まったアレクの頬をつねりながら、話を再開させた。

「だから、お前は大鷲に名前を与えるんだ。そうすれば馬鹿な王族が大鷲を手に入れようなんて思うこともないだろう?」

 アレクは涙目になりながら、「分かりました。」と返事をした。


 アレクは大鷲の前に立ち、大鷲は跪き、顔を伏せる。

「我が聖獣、大鷲よ。これよりお前に名を与える。今後、その名と共に私が解放するまで私に仕えよ。ジェット。」

「御意。」

 大鷲が応えた途端、2人が緑の光に包まれ、その光がそのまま紗羅の中に入ってきた。その衝撃はかなりの大きさだったが、紗羅はその場で堪え、心配そうに見つめるアレクと大鷲に手を振った。

「これから、よろしく頼むよ、ジェット。」

 ジェットは笑顔で「はい!」と応えた。

過去話も終わり、次回から暗行御史編再開です。ヴィンセントは勿論ですが、アイザックも出てきます。多分…。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。