*第59章~秘密がばれるとき~
紗羅はヴィンセントとアレクを連れて、邸の門から出た。そのまま、不安そうにしている邸の主人である男のもとに足を向ける。
「おぉ、お前たち、あの魔物はどうなった?鎮まったか?」
紗羅達の姿に気づき、男が駆け寄ってきた。紗羅は男に笑みを、むけた。
「あの魔物はちゃんと鎮めました。ついでにこの場所を守ろうと思い、何故か魔物を縛りつけていた鎖を外して、空へ逃がしてあげましたよ。」
「な、なんだと?!アレを逃がしたのか?!何故そんなことを!!」
男の態度が一変して、驚愕と怒りに満ちた顔をしている。紗羅はそんな男を一瞥し、鼻で笑った。
「何故って、あの魔物が今までこの街を苦しめてきたのでしょう?だったらこの街からいなくなってもらえばいいじゃないですか。それとも何か、あの魔物がいなくなって困ることでもあるのでしょうか?」
顔は笑顔だが、周りから見ても分かるくらいに、紗羅は威圧的な態度をとっていた。男は一歩下がり、冷や汗を滝のように流していた。
「いやぁー、別にそのようなことはないぞ。うん、よく追い払ってくれた。礼を言おう。」
顔を真っ青にして、顔面に笑顔を張り付けた状態で、男がそう言った。紗羅はその男の頭に手を置き、かがんで視線をあわせた。
「礼を言ってくれるだけですか?それなりに謝礼を頂きませんと。こちらも商売ですから。ご安心ください、私たちは良心的な値段で依頼を受けています。」
ニコニコと笑う紗羅の背中に、般若の幻影が男には見えたようで、すぐさま懐から財布を取り出した。
「も、もちろんお金はお支払いします。おいくらですか?」
「5000万G。」
紗羅の言った金額に、その場にいた誰もが固まった。先ほどまで紗羅にへこへこしていた男も、真っ青だった顔色が一転して真赤に変わっていた。
「ご、5000万Gだと?!ふざけるな!!たかが魔物1匹追い払ったくらいで、そんな額払えるか!!」
激昂して紗羅を怒鳴りつける男に紗羅が近づく。そして耳元で男だけに聞こえるように何かつぶやいた。男は紗羅が耳元で呟いた後、今度は再び顔色が真っ青に戻り、その場にへたりこんだ。
「わ、わかった。5000万G用意しよう。」
力の抜けた声でかろうじて発せられた言葉に紗羅はニヤリと笑った。
「毎度。」
邸を後にして、紗羅達は宿に戻った。すっかり日が沈んでしまった帰りの道中で、アレクとヴィンセントが何か聞きたそうな顔をしていたが、紗羅はその顔に気づかないふりをして、何も語らず部屋へ帰った。
部屋に入ってしばらくして、アレク達の無言に視線に紗羅はとうとう居た堪れなくなり、口を開いた。「何か言いたいことがあるなら、口に出して言えよ、2人共。」
紗羅のお許しが出た2人は互いに譲り合いながらも、代表してアレクが聞いた。
「それでは、あ…にうえ。」
いまだ佐あらを呼ぶときにどもるアレクに紗羅は眉間にしわを寄せて、ため息をついた。アレクは一瞬泣きそうな顔をしたが ぐっとこらえて、質問を続けた。
「あの邸の男に最後何を話されたのでしょうか?」
紗羅はキョトンとした。
「え?アレクもヴィンセントもそんなことを聞きたいのかい?わざわざ聞かないと分からないの?」
2人はコクコクと何度も頷いた。
「いちいち説明しなければいけないのか。仕方ないな。」
紗羅はやれやれと息を吐きながら話し始めた。
「そんな大したことじゃないさ。ただ、あの大鷲を操って、他の商家を攻撃したり、ここの州官と癒着して捜査を免れたり、その他これまでいろいろと働いてきた悪事を、旅の物語として、王都で披露してもいいか?って聞いたのさ。もちろん、証拠付きで。大鷲と闘っている時、ついでに不正の証拠見つけてしまったからね。まぁ、あの大鷲をつないでいたこの鎖だけでも十分、あの男が黒幕だってことは証明できると思うけどね。」
アレクは、紗羅を責めるような目で見た。
「なんだ?アレク。」
「……兄上、それ、脅迫って言うんですよ。」
紗羅はアレクの言葉に首を傾げた。
「そんなことくらい知っているぞ?何か問題でもあるか?」
真顔で言う紗羅にアレクが勢いよく立ちあがって訴えた。
「ありますよ!!これから一国の主になろうとしている方が、脅迫して、一般人から巨額のお金を奪ったなんて噂が広まったら支障が出ま…あ。」
勢いで口走っていたアレクは紗羅の冷めた表情と自分の後ろにいる存在に気づき、顔面蒼白になった。そしておそるおそる後ろを振り返る。そこにはもちろんヴィンセントがいて、だが、無表情のため、アレクはどう解釈していいか分からなかった。
「あのー、もしかして聞いていた?」
少し下手に出ながら、ヴィンセントに伺うと、ゆっくりと頷いた。その反応を見たアレクは怖くて紗羅の方を見れなかった。
(アレク?)
一向に自分の方を見ようとしないアレクに紗羅は心の中で声をかけ、その声にアレクの身体がビクッと反応した。アレクは顔から出るもの全部出しながら、ゆっくりと紗羅を振り返る。そしてその場で固まってしまった。
もはや、言い訳をすることが出来なくなった紗羅はヴィンセントに自分たちが何者であるかを話した。
「お前は見るからに口が堅そうだから、あまり心配はしていないが、くれぐれも他言はしないでほしい。今、神獣と契約している人間が僕だとばれるのはあまりいいことではないんだ。誰か1人にでも話したらそれだけリスクを負うことになる。本来ならお前にも話すつもりはなかったんだが…。」
紗羅はチラリとベッドの下に視線を移した。そこにはずっと顔を伏せたままのアレクがいた。
「まさかここまで迂闊な奴だとは思わなかった。今後はあまり同行させないようにしないとな。」
しくしくとベッドの下でアレクが泣いているのが聞こえたが紗羅はそのまま放置した。ヴィンセントはしばらく黙って紗羅達の話を聞いていたが、ある程度紗羅の話を聞き終えると、口を開いた。
「………さっきの魔物は、お前の国の聖獣なのか?」
「あぁ、そうだよ。そういえば、アイツにも話を聞かないといけないな。おい、アレク。いつまでそこにいるんだ?そこに棲みつく気か?」
紗羅がそう言い放った途端、ゴンッと何かがぶつかる鈍い音が聞こえた。勿論、音の主はアレクだった。
「うー…つつッ。主、ひどいです。」
涙目でアレクがベッドの下から這い出てきた。
「僕は何も悪くないと思うが。そんなことより、今から聖域へ行くぞ。ヴィンセント、悪いがお前を連れて行くことは出来ないから、ここで待っていてくれないか?」
(本当は連れて行けるんだが、アレク達と一緒にいたんじゃ、私が女っていうことも無意識にばらされそうだしな。)
そんな紗羅の思惑があるとはつゆ知らず、『聖域』と聞いて、ヴィンセントは理解したようで、ただ黙って頷いた。紗羅は手のひらから魔道書を取り出し、ページを捲る。
「我、唱える者。かの場所へ扉よ、開け。【移動】。」
部屋の中から紗羅だけが一瞬にして消えた。置いて行かれたことを察知したアレクは慌てて紗羅の後を追い、姿を消した。
紗羅が聖域に現れると、既にリューイと先ほどの大鷲が紗羅達を待っていた。
「来ることが分かっていたのか?」
紗羅は少し驚いて聞いた。
「えぇ、あなた様が来られることはこの大鷲がここに来た時に分かっていましたし、ここに誰かが訪れようとすると、風が鳴くのですよ。」
リューイがそう言って空を仰いだので、紗羅も上を見た。
リイィィィィィン
風と共に突然、空気が鈴の音のような音を鳴らし始めた。すると、何もなかった空からいきなりアレクが現れ、降ってきた。地面に直撃する寸前、アレクの周りを風が包み、音もなくアレクは降り立つことが出来た。
「何故私を置いて行かれるのですか、主。」
「あ!忘れてた。」
わざとらしくとぼける紗羅にアレクは完全にいじけて座り込んでしまった。そんなアレクにも紗羅は見向きもせず、リューイと大鷲の方を見た。
「お前たち、人型になれるか?ちょっとその姿じゃ話しづらいんだが。」
2匹が顔を見合わせると、彼らを包むように、緑の風が吹いてきた。その風で彼らの姿が見えなくなり、一時たって風が去っていくと、彼らがいた場所には眼鏡をかけた白髪白ひげの老人と、短いこげ茶色の髪でつり目な青年が立っていた。
「これでいかがですかな?国王陛下。」
老人が紗羅に聞く。
「ばっちりだ、リューイ。とても賢そうだな。そして、お前が大鷲だな。」
紗羅は青年に話しかけた。
「そうです。先ほどは国王陛下とは知らず、とんだ無礼を働いて、すみませんでした。」
ペコリ頭を下げる大鷲に紗羅は微笑みかけた。
「気にしなくてもよい。それにお前のおかげで結構稼げたしな。そんなことより、お前の話を聞かせてくれないか。」
顔を覗き込む紗羅に戸惑いながらも、大鷲は語り始めた。
いやー、なんでこうもやらかすんですかね、アレク。本当に神獣なんですかね?アホなんですかね。そして最後の方は完全放置プレイされてます。作者からも紗羅様からも…。
さて聖獣2匹目、大鷲の登場です。契約者がいないので名前がありません。最初鷲にするか、鷹にするかで迷いました。で、ウィキペディアで調べて、割と大きい方が鷲だよーって載っていたから鷲にしました。
次回、大鷲の過去編、そしてアレクはいじってもらえるのでしょうか!?




