*第58章~鷲の魔物~
日が落ちかけ、辺りが緋色に染まる頃、ロヴィスコ州の一角のある街の中は騒然としていた。突如、豪邸から現れた巨大な魔物に、皆驚愕の悲鳴を上げていた。
「な、コレはどういうことだ?!おい、誰か早くコイツを収めろ!!そうだ、イーグル!おらんのか?!早くイーグルを読んで来い!」
魔物が現れた邸から、白髪に桃色の毛が混じった老年の男が怒鳴りながら這い出てきた。男は使用人にひとしきり怒鳴り散らすと、塀の前に立っていた紗羅達に気づいた。
「なんだ?お前ら。そこで何をしている……ん?そこのお前、何故剣を構えているんだ?」
男は結界を破った後、まだ竜剣を構えていた紗羅に目を止めた。男が紗羅達が結界を破ったことに気づく前に紗羅は、剣を持ったまま舞い始めた。その動きは静かでいて、激しかった。そして、ぴたっと、その剣先を老年の男の首筋へ当て止める。青ざめる男の顔を確認して、紗羅はニコッと笑い、剣を下ろした。
「失礼しました。私たちは旅の芸人です。通りかかったら突如あの魔物が現れたので、私たちは魔物退治も生業としてますから、剣を構えていたのです。よろしければ、あの魔物、私たちが退治しましょうか?」
紗羅がグイッと顔を近づけると、男はあからさまに困った顔をした。
「い、いや、そう言う訳には…。第一、うちにも武術に長けているものはいるんだ。」
紗羅を突っぱねようとする男の後ろで、先ほど怒鳴られていた使用人が慌てて戻ってきた。
「旦那様ーッ!!大変です!イーグル様が見当たりません!!」
使用人の言葉に、男の顔色がみるみる青ざめていった。
「な、なにーーッ??!一体どこに行ったんだ!?」
使用人は男の前にたどり着き、荒くなった息を整えて、1枚の紙を手渡した。
「これが、部屋に…。」
男は渡された紙をもぎ取ると、内容を読むやいなや、青くなっていた顔が瞬時に赤色に変わった。
「『ちょっと出かけてきます、明日にはもどるでしょう。』だとぉーー??!ふざけやがって!何でこんな肝心な時に出かけるんだ、アイツは!しかたがない…。」
頼みの綱がなくなった男は、昂ぶった感情を整えて、紗羅の方を振り返った。
「あのー、芸人様?先ほどの御申出、謹んでお頼み申します。」
へこへこと手のひらを返したように態度を変えた男に、紗羅は呆れてため息が出るのをこらえて、笑顔で答えた。
「もちろん、お任せください。」
男に伝え、再び竜剣を構えて、魔物を見据える。そして、魔物の元へ駆けていった。
魔物が暴れている邸の中心の蔵の前につくと、紗羅は足を止めた。
(お前の声は届きそうか?)
そばにはヴィンセントもいたため、心の中でアレクに聞く。
『先ほどから試みていますが、やはり反応がございません。それと主、あまり他の物がいる前で大がかりな魔法は控えて頂いた方がよろしいかと存じます。』
(そうだな。まぁ、ある程度剣でダメージ与えて、隙を見て浄化してみるか。)
戦いの構図がまとまった紗羅はヴィンセントを見た。
「ヴィンセント、僕が左に回るから、お前は右に行ってほしい。挟み撃ちにするんだ。」
「………了解した。」
一言、返事をした後、すぐにヴィンセントは走り出していた。…左に。
「あー、もう!何で左と右もわからないんだ。方向音痴どころの話ではないぞ!仕方ない、僕が右に行くしかないか。」
紗羅はしぶしぶ、ヴィンセントの反対側の右側へ走り込んだ。
巨大な鷲の魔物は足がまだ鎖でつながれた状態で遠くへ行くことが出来ないようだが、その巨体の中の大きな翼をバタバタと羽ばたかせ、その風力で邸の建物がほぼ全壊してしまっていた。
(まずはあのうるさい羽を何とかしなければいけないな。)
紗羅が思うよりも早く、反対側にいたヴィンセントが、高く飛び上がり、その巨大な剣を今にも鷲めがけて振り下ろそうとしていた。だが、鷲はその殺気に気づき、もう片方の翼でヴィンセントを叩き落とした。翼だけでも紗羅の5倍はある大きさのそれは、ヴィンセントを叩き落とした後、ただばたつかせていただけだった動きを統一させ、ヴィンセントめがけて、左右動きを合わせて動かしていた。すると、鷲の前にだんだん、風が集まっていき、しばらくすると、大きな風の塊が出来た。
(な、何だあれは?)
竜巻のようでいて、それよりももっと凝縮されたような塊がある程度の大きさになると、鷲は羽ばたきを止め、視線を先ほどの鷲の攻撃で蹲っているヴィンセントに合わせた。
(危ない!!)
紗羅がヴィンセントの危険を感じ動き始めたのと、わしがヴィンセントめがけて、最後の大きな羽ばたきをしたのは同時だった。
(しまった、間に合わな――)
風の塊がヴィンセントに直撃しようとしたその時、突風が吹き、ヴィンセントの身体がものすごい勢いで、邸の池へ飛んで行った。その直後、風の塊はヴィンセントがいた場所へ直撃し、大きな爆発音がした。
砂煙が晴れ、その奥を目を凝らしてみると、そこの地形が、巨大な円の形でえぐられていた。表面の土だけでなく、何層もの地層を深くえぐられ、そこにあったものが全て消え失せていた。
池に飛ばされたヴィンセントはやっとのことで池から這い出て、自分がいたところの惨状を確認し、紗羅を見つめた。
(?何が言いたいんだ、あいつは。それよりも、あの攻撃、かなりヤバイな。もっともあそこまで持っていくまでにかなり時間と隙が出来ているから、次はそんなことさせないが。さて、反撃と行くか。)
紗羅は竜剣の剣先でドッヂボールサイズの水流の珠を創り、剣を振り下ろすと同時に、魔物目がけて放出した。それを連続して続ける。飛んで行った珠は、巨大な鷲の魔物に直撃し、体を全て濡らしてしまった。
「ヴィンセントー!!魔物の動きを遅くしてやったから、一気に叩くぞ!!」
反対側にいるヴィンセントに聞こえるよう大声で声をかけ、紗羅は魔物に向かって、駆け出した。そして、崩れた建物を利用して、高く昇っていき、魔物の真上に飛ぶ。同じタイミングで、反対側からヴィンセントが現れた。顔を見合わせてそのまま魔物の羽に向かって、思いっきり剣を振り下ろす。
ギイ゛ヤァァァァァァァァァァァァアア!!!
魔物が甲高い悲鳴を上げ、その場に崩れ落ちた。紗羅はすかさず手のひらから魔道書を取り出し、ページを捲った。
「我、唱える者。悪しきモノを取り払え。【浄化】。」
いつもより、多めに魔力を込めて、魔物へ向かって、魔法を使うと、紗羅達が斬りつけた傷口から、黒い靄のようなものが、沁み出て来て、一気に蒸発していった。
すべての靄が蒸発すると、魔物がいた場所には、茶色と緑が入り混じった色をした、紗羅と同じ大きさぐらいの鷲が、横たわっていた。
「やはり、大鷲か。こんなに変わり果ててしまって…。」
アレクがフラフラと大鷲に近づいていく、そして、その体に触れようとした瞬間、既に間を取り除いたはずの大鷲が再び暴れ出した。
「ど、どうしたのだ?!大鷲、私が分からないのか?」
大鷲はアレクの言葉に反応せず、口から泡を吹いて、目が真赤になっていた。
「さがれ、アレク。」
紗羅の声が、アレクの上から降りかかってきた。アレクはその声の、あまりの静かさに、驚いた。
「ある…あ、兄上、どうなさるおつもりで…。」
紗羅は答えず、アレクを押しのけて大鷲の前に立った。そして目線を大鷲ではなく、その足に括り付けられたままの大きな鎖に向けた。
「これのせいで、我を失っているんだな。」
紗羅は竜剣を持ち替えて、その刃の周りに、水流をまとわりつかせた。
「解放してやるよ。」
そう言って、思いっきり鎖に竜剣を突き立てた。
ガキンっっ
金属のぶつかる音が鳴った。と、同時に先ほどまで暴れていた大鷲がみるみる大人しくなった。
「お、俺は一体何を……?――ハッ!!?その姿はもしや、しんじゅ―――がッ!!」
突然喋り出し、アレクに気づいた大鷲の口目がけて、紗羅はアレクを放り投げた。そしてずかずかと大鷲の目の前に立ち、大鷲の頭に手を当てた。
(ここで、こいつのことを話すな。お前が何者であるかも話すな。今からお前の傷を治してやるから、手当てが済んだら、何も喋らず黙って、風の国の聖域に行け。)
大鷲は突然紗羅の心の声が聞こえて、戸惑っていたが、すぐに理解したような顔をした。大鷲が了承したとみて、紗羅はそのまま魔道書のページを捲った。
「我、唱える者。癒しの風よ、包め。【治癒】。」
ふわりとした暖かな風が大鷲を包み込み、紗羅達がつけた羽の傷と、鎖によって、気づつけられていた足の怪我がみるみるふさがっていった。大鷲は傷が治ると、紗羅に言われた通り、無言で飛び立ち、消えていった。
「さて、ヴィンセント。無事魔物退治が終わったことをあの男に伝えに行こうか。」
紗羅が何事もなかったかのような顔をして、ヴィンセントを見た。ヴィンセントは何か聞きたそうにしていたが、何も言わず、ただ頷いただけだった。
チェックしている時は気づかないんですが、しばらくして、もう一度何気なしに読み返すと、出るわ出るわ、誤りだらけの物語です。何気に結構修正してます。何も考えずにキーボード打つのは危険ですねー(+_+)




