*第57章~聖獣の手掛かりと魔物の噂
紗羅達が宿の受付に行くと案の定、1部屋しかとっておらず、今日は空いている部屋もないため、紗羅と、アレク、ヴィンセント3人で1つの部屋を共有することになった。
『主、やはりこんなところで主を泊まらせるわけにはいきません。しかも、この男と相部屋など、もってのほかです。私が違う宿をとってきますので、どうか、ここにはお止め下さい。』
アレクが必死の目で紗羅を見るが、紗羅はそれを無視し、受付のおばさんにニコッと笑いかけた。
「構いません、3人で使いますし、宿代はきちんと3人分お支払いします。」
おばさんは気前のいい更に気をよくしたのか、紗羅の笑顔にほだされたのか、すぐさま紗羅に部屋のカギを渡した。
紗羅達は2階にある3号室に入った。部屋の中はベッド1つしかなく、部屋も狭く、あちこちにしみのような汚れがあった。お世辞にも綺麗とは言えない部屋を見たアレクは青ざめ、再び紗羅に宿を変えるよう、懇願した。紗羅はやはりそんなアレクをスルーして、荷物をおろし、ベッドに座ってヴィンセントを見た。
「そう言えば、お前の親ってこの国の官吏なんだよな。」
ヴィンセントは黙ったまま、こくりと頷く。
「でも、お前確か生命の国の出身だろ?何故生命の国ではなく、この国の官吏になっているんだ?」
「…………親父の性格の問題だ。この国は出自は問わない。」
ぼそぼそっと、答え、また黙り込むヴィンセント。
(まぁ、あのダラスの性格だから来る者拒まずなんだろうな。それにしても、性格の問題って、ヴィンセントの父親も無口で無愛想なのかな。)
少し興味がわいてきた紗羅は、面白そうにヴィンセントを見た。紗羅の表情の意図がつかめず、ヴィンセントは無表情の奥に、困惑した感情を見せていた。
「さて、今日は州官への調査活動はしないって言っていたから、僕たちはちょっと出かけてくるよ。」
紗羅がそう言って、竜剣を背負って部屋を出ようとすると、ヴィンセントが紗羅の腕を掴み、引き留める。
「………俺も行く。」
「え?」
ヴィンセントの声が聞き取れなかったわけではなく、ヴィンセントの発言の理由が分からず、紗羅が聞き返す。だが、そんな紗羅の意図を解さず、ヴィンセントは再び「俺も行く。」とボソッと呟いた…先ほどと変わらない声量で。
「そう言うことではない。ある…コホンっ、兄上が仰せなのは何故お前が私たちの私用についてくるのかと聞いている。邪魔とは思わんのか?」
紗羅の代わりにアレクが横柄にヴィンセントへ言った。
「…………俺も行く。」
アレクの質問へは答えず、再度自分の意思表示しかしないヴィンセントに紗羅は息を吐いた。
「分かった、ついてきていいよ。ただし、質問は一切受け付けないからな。」
何か言いたげなアレクを無視し、紗羅はそうヴィンセントに告げると、さっさと部屋を出た。
(まあ、最後の忠告はヴィンセントには無用だったか。)
元々無口なヴィンセントが何か質問をすることはほとんどないだろうと、考えながら紗羅は、階段を下りて行った。
街へ出て辺りを伺う3人。
(アレク、魔物の気配を感じるか?)
紗羅は心の中でアレクに問いかけた。
『……申し訳ございません、かすかにその気配は感じるのですが、場所の特定までは分かりかねます。』
アレクの返事に紗羅は少し考えこむ。
「…ちょっと、移動していいか?」
紗羅は2人に聞いて、どちらとも返事は応諾だったので、スタスタと歩き出した。
紗羅が向かったのは国境近くの鬱蒼と生い茂った草原の中だった。アレクの背丈ほどの草が生え、周りには、まだ明るいにもかかわらず、人の気配がなかった。
紗羅は【収納】で手のひらから魔道書を取り出し、ページを捲る。
「よし、これだ。」
あるページに目を止めると、そのページを開いたまま、魔道書を地面に置いた。
「我、唱える者。我が探し物の姿を捉えよ。【探索】。」
紗羅が唱え終えると、魔道書に描かれた魔法陣の上に、3Dのホログラムのような映像が映し出された。その映像は、黒い鷲のような形をしていたが、その身体を鎖で雁字搦めにされており、苦痛の叫びを発しているように見えた。その鷲がいる周りは薄暗く、たくさんの積み荷が見えた。
(あれは、もしや…。)
紗羅は思い立ち、魔道書を閉じて、草原からでようとした。
『お待ちください、主。どこに行かれるのですか?』
アレクが紗羅にだけ聞こえるように、紗羅の頭に声を響かせた。
(どこって、例の魔物がいそうなところ。)
紗羅はアレクに笑いかけた。だが、その笑顔の奥に、何故か怒りの炎を燃やしていた。アレクは身震いし、実際に紗羅の顔を見ていないヴィンセントも、表情を変えず、だがビクッと身体を反応させていた。
紗羅は街の中に戻ると、片っ端から商人の家に尋ねて行った。
「すみません、私たち、旅の芸人なんですが、今度よろしければ私たちの芸を見てくれませんでしょうか。」
家から出てくるもの皆にそう言って、話しかけ、そこから話題を膨らませて、巧みに情報を聞き出す。
4件ほど回ったところで、紗羅は確信に満ちた顔をした。そしてそれは、ついてきたアレクやヴィンセントも同じだった。
「お前らも分かったか?」
紗羅が聞くとこくりと頷く2人。
「それじゃぁ、そろそろ大本命のところに行こうか。」
紗羅はそう言って、西の方へ歩き出した。
ピタリと紗羅が足を止め、くるりと、回る。紗羅の真正面には豪邸があった。
「ここが、この街の大商人、ジョン・スパードの家か。」
ぽつりと紗羅が呟くと、アレクとヴィンセントも、その家を見た。
商人の家で聞いた話の中で必ず出て来た名前、それが『ジョン・スパード』。紗羅達が話を聞いていくと、この州で魔物の被害にあっているのはどれも商家だという。しかも、まだ無傷の商人がいて、それが『ジョン・スパード』だった。 あまりにも不自然だったが、『ジョン・スパード』は魔力無の人間だったため、魔物を操ることなど到底不可と言い切られ、また、何故か官吏たちも捜査に踏み切ろうとはせず、誰も『ジョン・スパード』を訴えることが出来なかった。
「どうやら、結界が張ってあるみたいだな。ますます本命と言ったところか。」
紗羅は邸を覆っている透明な結界に気づいた。
『えぇ、ですがこれは外部のモノの侵入を拒むというより、中の物を外に出さないようにするもののようです。しかもこれは火属性の結界ですね。通りで私が正確にあの魔物の気配を感じることが出来ないはずです。』
アレクの『火属性』と言う言葉を聞いて、紗羅はジュリアの魔法の属性についての話を思い出し、もう1つ、確信を持つことが出来た。
(あの魔物、確か鷲のような形をしていたな。火属性の結界で封じられているということはあの魔物、風に関する力を持っている可能性があるな。)
『えぇ、ふつう、魔物であれば闇属性ですので、光属性の結界で封じればいいはずです。なのに火属性の結界で封じてあるということはおそらく、我が風の国の聖獣である可能性が高いです。』
アレクの鼓動が弾むのが、紗羅には分かった。紗羅は背中の竜剣の柄に手を当てた。
「中の魔物に、出て来てもらおうかな。」
紗羅はにやっと笑うと思いっきり、竜剣を振り下ろした。火属性の結界は水属性に弱く、その上、神獣である竜の牙で造られた剣の力の前だと、あっさり破ることが出来た。
と、同時に邸の奥で何かが蠢く声が聞こえる。その後、思いっきり何かを破壊する音が聞こえ、邸の奥にある蔵のようなものが破壊されたのが見えた。
そこから出て来たのは、どこにその体を納めていたのか分からないくらいに巨大な、真っ黒な鷲だった。
昨日もまた更新さぼってしまいましたー。やばいなー…。次回はバトルですねー。ヴィンセント君役に立つのでしょうか。




